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71.アルゲンとの決闘が始まったんだが・・・

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「―――始め!」


「フッ!」



 開始の合図が会場に響くと同時にアルゲンが駆け込む。

 剣を中段に構えつつこちらに走り込んでくるアルゲンを見たフラッドは、回避ではなく受け流しを選び、それを成す為に剣模擬剣を斜に構える。

 


(その構え方をするってことは大方突きでもかましてくるんだろうが、そんな見え見えなものに当たる気はないんでね)



 二人の間合いが剣の間合いに届いた時、フラッドは数瞬後に自身へ襲い来るだろう衝撃を予期しつつアルゲンの動きに注目する。

 


(こちとらダリウスのオッサンとの特訓で受け流しは否が応でも身に着けてんだよ!)



 フラッドの予想通りアルゲンはその勢いを乗せた突きを放つ。

 その動きに合わせアルゲンの刀身に己の刀身を添わせ押し出すフラッド。



「…クゥ!」


ガリガリガリッ!



 斜めに添えられた刀身に導かれるように、耳障りな音を立てながらフラッドから逸れていくアルゲンの剣。



(よしッ!想定通りにできた!

 次は俺の番だ!)



 軸を崩され隙を晒すアルゲンの様子を見て攻勢に転じようとするフラッド。

 しかし、フラッドがそうすることを読んでいたのか、はたまた突きを防がれるところまでが想定通りだったのか、後世に転じようとアルゲンの顔へ視線を向けたフラッドに返ってきたものは、愉悦に歪んだアルゲンの表情(かお)と鳩尾から全身に広がる衝撃であった。



「カハッ!?」



 鳩尾から広がる謎の衝撃に混乱するフラッドは、それと同時に襲う不快感にその場で片膝をついてしまう。



「ウグ…」

(今の何だよ!

 アイツの突きは確かに逸らした。

 だからアイツの剣も両手諸々左に流れている。

 仮にアイツが蹴りを入れたとしてもあの勢いだとあいつ自身体勢が保てなくて転ぶなりなんなりするはずだ!

 そもそも、蹴りを入れたにしては今の体勢がおかしすぎる)



 予想外の攻撃を受けて混乱するフラッドは、その鈍く残る痛みから無意識に衝撃の元である自身の鳩尾を触る。

 そこにあったのは、少し硬い演習服の感触ではなく、ざらざらとまるで砂の塊が砕け、飛び散ったかのような感触であった。



(これは・・・砂の礫?

 なんで礫なんかが?・・・まさか!)



 状況から己を攻撃した手段を察したフラッドが驚きに目を見開きアルゲンを見る。



「アハハ!何を驚いているんだ?

 魔句を使えるのはお前だけだとでも思っていたのか?

 まさかそんなことはあるまい?」



 フラッドの表情を見たアルゲンは、至極楽しそうに高笑いを浮かべると、侮蔑の表情でフラッドを見据える。



(たしかにコイツの言う通りだ。

 測定の時だって魔句が使える奴は居た。

 母さんや師匠(イリーナさん)も万人が魔力を持っていて、その量によって誰しもが魔句を使える可能性があるって言ってた。

 事実、こいつは使っているわけで・・・

 決闘前の口上で()()()()()()()()()、って言っていた。

 なんで俺はこれを自分だけだと思っちまったんだ!)



「ひどく動揺しているようだな。

 やはり平民はしょせん平民か。

 なに、剣技でお前に勝つことは容易い。

 でもそれではつまらないだろう?

 だからこそ、貴様が得意としているらしい魔句でも私が勝っていることを証明してやろうと言うものだ」


(ここから油断はなしだ。

 正直言って俺はコイツの事をバカにしていた。

 前の決闘で調子に乗っちまってたってわけだ。

 ・・・でも、やっぱりコイツ馬鹿だろ?

 剣技云々はさっきだけのじゃ解んねぇけど、魔句については俺と同程度の技をアイツが使える気が・・・

 ええい!油断しないって言った矢先に俺は何考えてんだ!

 我がことながら悲しいぞ俺!)



 フラッドが今一度自信を戒める最中もアルゲンの挑発ともつかない語りは続く。



「――だろう。

 ん?どうした言葉も出ないか?

 今更実力差を理解したところで遅いのだがな!

 お前を完膚なきまで叩きのめし、あの女をお前から奪ってやろう。

 なぁに心配するな。最初こそお前の事ばかりだろうがすぐに私だけしか見えないようにしてやる」



 フラッドが一言も発さないことを屈服したと勘違いしたアルゲンは、ダダでさえ歪んでいた口角をその愉悦から更に吊り上げると揚々と語り続ける。



(よし!

 仕切り直しだ。

 取り敢えず、剣技はともかく魔句について馬鹿にされるのは耐えらんねぇから最初は魔句でやってやる!

 てかコイツさっきからベラベラと油断し過ぎだろ)



 普段なら怒りに心を焦がすようなことを言われているのだが、例の如く思考に集中していたフラッドにその内容は伝わっておらず、思考の海から浮上したフラッドからしてみれば決闘中に悠長に何事かを語っているようにしか見えていなかった。

 もちろん決闘中に思考に耽る自身も大概であるのだが、当の本人はその自覚もなく所謂棚上げ状態でアルゲンを見ているのだが。


 未だ快楽のままに語り続けるアルゲンに対し、フラッドが魔句を唱える。



(まだ喋ってんのかよ。

 今は無詠唱は出来ないが、小声でも反応するのは確認している。

 決闘中に油断しているコイツが悪いわけだし問題ないよな?)

「―――アイスランス」



 フラッドの言葉に導かれ氷の魔力が術者の望む姿を形作る。

 そして作られた氷の槍はバリスタで射出されたかのように対象であるアルゲンの手足へ向けて打ち出される。

 お読みいただきありがとうございます。

 次話の投稿は5/31を予定しています。

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