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70.演習場に来たんだが・・・

5/18

 言いたいことを言い去っていくアルゲンを見送ってからもう少しで二刻になろうという時間。

 最低限の準備を整えたフラッドは演習場に立ち、観戦席へと視線を巡らせる。

 昨日に引き続き訪れた演習場は、事前にアルゲンが周知でもしていたのか大勢の生徒達で溢れていた。

 昨日の決闘時とは違い、多くの上級生などが観戦に訪れており、そのほとんどが彼と同種の人種であることが何となく察せられた。

 それと言うのも、昨日に引き続き観戦に来たであろう同学年の生徒達へ向ける視線、主に平民出身と思われる生徒達への視線に、軽蔑とも嘲りとも取れる感情が含まれているのだ。



(類は友を呼ぶ、かぁ。

 まぁ何となく予想はしてたが、こうもピッタリとハマるってことは、恐らく決闘中も()()んだろうなぁ)



 最後に、自分の友人らが座る場所へ視線を投げると、正面に立つ相手へを見据える。

 決闘の相手ことアルゲンは、いつもの侮蔑の表情を浮かべながらフラッドの事を見ていた。

 その後ろには彼の取り巻きであろう三人の男子生徒の姿が見え、その誰もが彼同様のフラッドの事を見下していた。

 生憎と、クラスも違えば会うのも今が初めてなその三人の名前など解るはずもなく、フラッドは煩そうな腰巾着たちだなぁと雑な感想を思う。



(ほぇ~、取り巻きを配置していると・・・

 もう此処までくると凄いな。

 このままずっとテンプレ通りなら、こいつらと一緒になって俺の事をバカにするだろ~?

 で、いざ決闘でヤバくなったらコイツ等が乱入してきて~って感じなんだろうなぁ。

 主人公とかならそれを難なく突破して、こいつらが周りに責められ、ひとまず終了ってとこだろうけど、ここは小説でもアニメでもないからなぁ。

 実際にそんな事されたとして、勝てるかどうか・・・

 ま、絶対に来るもんだと思って備えとくか)



そんな風にフラッドが内心予想を建てていると、アルゲンの方から近づいてきた。



「ほぉ、逃げずに来たか。

 伝えてから今に至るまでの短い時間では、前回の決闘のように卑怯な手を忍ばせることは出来ないはずだから、ここには来ないと思っていたが、とんだ杞憂だったようだな。」


(卑怯な手って、前もんなもん使ってねぇっての。

 むしろ、今回の者についてはお前の方が怪しいだろ!)



 アルゲンから向けられた疑いとも中傷とも取れる言葉に、キッと睨み返すフラッド。

 そんなフラッドの態度に、アルゲンとその取り巻き達は大仰に恐れるふりをして彼を嘲る。



「おぉおぉ、怖いなぁ。

 野蛮で卑しい平民らしいと言えばらしいがな」


「アルゲン様、こいつらは獣ですよ。

 貴方様と会話が出来る栄誉を理解していないのですから」


「やはり、平民は汚らしくてなりませんね」


「本来ならお前は、アルゲン様とお話しできることに泣いて喜び、その頭を地に擦り付けるのが妥当なのだぞ?

 まぁ、学のない平民に何を言っても伝わらんだろうがな!」


(こいつ等って馬鹿だろ?

 少なくても、この腰巾着ーズをAクラスで見たためしがないからA以外のクラスなのは間違いない。

 つまり、総合成績で言えば俺より下なのは揺るぎないわけだ。

 というより、そもそも俺は今期の首席の一人な訳だし、そこは最初から分かっていたことではあるが。

 んでもって、どんなに卑怯な手を使ったと思っていても、こいつ等みたいな貴族ですらない俺が主席になれるわけがない事なんて誰でも解るわけで・・・

 わざと言っていると考えるのが普通なんだが…目と態度から察するに本気で言っているようにしか見えないんだよなぁ。

 よっぽど演技が上手いとかなら話は別だが、そんなことあるわけないだろうし、衆目の中自分たちの低能を披露するって・・・・・救いようがねぇな。

 まさかお前(アルゲン)までそのレベルってことは…)



 取り巻き達が嘲笑を浮かべフラッドの事をバカにする中、それを意に介した様子もなく探るようにアルゲンを窺いみるフラッド。

 そんな彼の態度に自分たちが無視されていると感じた取り巻き達は次々と誹謗中傷、ひいては罵詈雑言を口にし始めると、アルゲンは余裕の見て取れる笑顔を浮かべ彼らを宥める。



「まぁお前たち、落ち着け。

 コイツの態度が気に入らんのは致し方がないことであるが、どんな姑息な手を使ったかまでは解らんが、これでも同じ学院生だ。

 だから、必要最低限の学はあるだろう。

 それに対してそこまで強く言ってしまうと、ただでさえ可哀想なコイツが憐れに見えてしまう。

 それではあんまりだと思わないか?」


「流石アルゲン様、何と慈悲深い」


「貴方こそ領主の鏡だ」


「ルーズベルト伯爵家は安泰ですな」



 演説をするかのように語るアルゲンに対し、感服した様子を見せる三人。

 必死に胡麻を擦る三人の様子を鼻で笑いながらフラッドが口を開く。



(こいつはあの三人ほど馬鹿じゃないみたいだけど、やっぱりバカであることは変わりないんだよなぁ・・・

 まぁ代表挨拶とかを見聞きしているわけだし少しは解るのが普通なんだが、それが解らない三人がよっぽどってだけだな。

 でも、こいつも二、三割は本気で言ってるんだよなぁ)


「それで、アルゲン様。

 決闘はいつ行うのですか?

 指定された時刻にはなっておりますし、これ以上観客席に居られる皆様を待たせるのも不味いでしょう。

 それに、貴方の貴重な時間が減ってしまいますよ?」



 フラッドが最初の一文以外、心にも思っていないことを口にすると、アルゲンは相変わらず余裕な表情を称えたままそれに答える。



「これはすまなかった。

 敗北を受け入れるための時間をやったつもりだったが、確かにお前の言う通り、皆さまを待たせるのは申し訳ない。

 なにより私の時間が勿体ないな。

 早速始めるとしよう」



 そう言うとアルゲンは演習場中央へと歩を進める。

 それを見たフラッドも習うように歩を進める。

 両者が位置に付いた時点で取り巻きの一人が声を張る。

 おそらく審判なのだろう。

 今回の決闘のルールを説明する彼の声に、フラッドも観客である生徒たちも意識を集中する。



「今回の決闘のルールについて説明する!

 まず内容について、それぞれが選んだ模擬武器と修得している魔句を使用して行う。

 禁止事項として、相手が致死するほどの魔句は使用禁止とする。

 これを使用、または、使用に関わらず相手を殺害した場合はその者の負けとする。」


(おいおい、そうなるとちょっとした怪我とかで言われそうだが・・・でもこれだけの衆目があるから大丈夫か?)


「次に勝敗についてだが、どちらかが気絶、降参をした場合か、審判がこれ以上の継続が困難と判断した時とする。

 以上遵守の上決闘を行うよう。

 両者異存はないか?」


(これは正直かなり不利だな。

 そもそも審判にアイツの息がかかってる時点で詰んでるんだよなぁ。

 それに他者が参加することを禁止していないから、乱入の可能性も残っているんだが・・・

 雰囲気的にソレを指摘させる気はないみたいだな。

 俺にもうちょっと度胸があれば言い出せないこともないんだが、元日本人としては周りの圧力に弱いんでね)


「問題ない」


「私も問題ないぞ。

 ふふッ、お前の負け顔を見るのが楽しみだ」



 審判の確認にそれぞれが返す。

 それを聞き届けた審判は開始宣言をする。



「これよりA組フラッドと、B組アルゲン・ルーズベルトの決闘を開始する。

 ―――――始めッ!」



 審判の合図と共にアルゲンとの決闘が始まった。

 お読みいただきありがとうございます。

 また、投稿が遅れてしまい申し訳ありません。

 何度も同じような事ばかりで申し訳ありませんが、LANの不調だかでアップロードできておらずこの始末です。

 また、前話後書きに置いて投稿予定日を誤って10/17としてしまったことも併せてお詫び申し上げます。


して、次話の投稿予定ですが5/24とさせていただきます。

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