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7.体が成長したので試しに庭へ出てみたんだが・・・?

 読み聞かせの一件から二年が経ち、フラッドは一人で歩けるほどに大きく成長していた。

 ハイハイができるようになった時と同じく、己が好奇心を満たす為に様々な場所へと探索に出ており、目を離すといつの間にかいなくなっているという、ある意味子供らしい生活を営んでいた。

 歩けるようになったことで行動範囲が更に広がり、今まで以上にフラーナを疲弊させているフラッドだが、今は春の穏やかな日差しに包まれた庭先で泥団子を片手に頬を引き攣らせていた。



「ポーラちゃん、これ本当に食べなきゃダメ?」



 隣家に住んでいるポーラとは親同士が親密な交友関係を持っている為、親の交流の際に子供同士で戯れることが多かった。

 その為、お互いに成長し会話もできるようになった二人は当たり前のように一緒に遊ぶこととなる。

 成長したとはいえ、まだ幼い二人は子供だけでの外出は許可が出ていない。

 外出。つまり街へ遊びに行くことができない二人は必然的に家の中か、庭先でできる遊びを考える。

 かくれんぼや鬼ごっこをするには少し狭く、物などを壊そうものなら親たちの説教が待っているため、安易に行うことができない。

 また、トランプやチェス等のテーブルゲームは所有していないため、そういった遊びもできない。

 仮にそれらを所有していても、フラッドはともかくポーラが理解できず終わってしまうだろう。

 これらを踏まえ二人が辿り着いた遊びとは、誰もが一度は経験したことがあるであろう遊び・・・おままごとである。

 おままごとであれば、物を壊すこともなければ広さも要求しない。

 やり方に関しても両親のやり取りを再現するなど、比較的簡単なため迷うことがない。

 結果として、二人が遊ぶほとんどがおままごととなるのだった。

 そして、先ほどの状況へ戻る。



「うん!だってフラッド君は私の旦那さんだから、私の作ったご飯はちゃんと食べないとダメ!

 それに、ママも食べ物を残しちゃダメって言ってたもん」



 そう言って、自分の作った泥団子を食べるよう強要してくるポーラに、フラッドはどうしたものかと思案する。

 次第に目を潤ませ始めるポーラに、焦りを感じ慌てながらも返事をする。



「これは遊びなんだから、本当に食べる必要はないんじゃないか?

 そもそもポーラちゃんが作ったとはいえ、これは泥団子であって食べ物じゃないから残すも何もないんじゃない?」



 もう少し分別が付くまでに成長していれば、その返事に納得したであろうが、今の彼女は三歳児である。

 フラッドのように前世の記憶を持っているならばいざ知らず、現実は普通の三歳児だ。

 一般的な三歳児といえば理屈云々よりも感情で動くことがほとんどであり、受け取り方もその言葉や行為の意味よりも雰囲気や態度を感じ判断する。

 結果としてポーラは、意味はよく分からないが拒絶されたと思い、少し湿り気を帯びた不満そうな唸り声を漏らす。



「うぅ…」



 唯一の遊び相手と言ってもよいフラッドに、理由はどうあれ自分の行為を拒絶されたのがよっぽど堪えたのか、今にも泣きだしそうなほどに目を真っ赤に充血させ鼻を啜るポーラ。

 そんなポーラの様子にフラッドがおろおろとしていると、家のほうから救いの手が差し伸べられた。



「二人とも庭で遊んでたのね?

 あら?ポーラちゃんどうしたの?」


(助かったぁ)

「母さんっ!実h」



 家から出てきたフラーナへ事情を説明しようとした矢先、共に出てきたもう一人に遮られる。



「はっは~ん。

 さてはフラッド君、うちの子を振ったな~?」


「んなっ!振ってないよ!

 おばさん、からかわないでよ」


「おばさんとは失敬な!

 そんなこと言うフラッド君にはこうだ~」



 おばさんと呼ばれたのが気に入らなかったのか、エリーゼはフラッドを抱き寄せると、その頭をもみくちゃにし始めた。

 その状況に着いていけないポーラは、ついに泣き始めてしまう。



「うえぇ~ん!」


「エリーゼ!うちの子をからかってる場合じゃないでしょ!

 ポーラちゃん、何があったの?」



 フラーナはエリーゼを窘めながらポーラに優しく問う。

 その問いから少し間をおくと、ポーラはぽつぽつと事情を話し始めた。



「ひぐっ!えぇとね。ぐすっ。

 フラッド君が私の作ったお団子食べないって言うの

 ・・・すんっ

 一生懸命作ったのに、嫌だっていうから・・・ぐすん」


「そうだったの。

 ポーラちゃんが作ったお団子ってこれ?」


「・・・うん」


「ちょ~!ポーラ、それ泥団子じゃない。

 それならフラッド君も食べたがらないに決まってる

 でしょ?」


「うぅ・・・でも、ママ食べ物を残しちゃダメって言ってたよ?」


「い~い?ママが言ったのは()()()を残しちゃダメって言ったの。

 泥団子は泥であって食べ物じゃないでしょ~?

 だから、ポーラ?あなたが泣いてどうするの。

 むしろ、フラッド君にごめんなさいしないと~」



「でもぉ・・・」


「ポーラ?」


「・・・わかったぁ」



 いつもおちゃらけているエリーゼの見せる真面目な一面に、驚き感心するフラッドであったが、彼女の次の一言でそれは呆気なく霧散する。



「そしたら~仲直りのちゅ~をしないとね~?」


「うんっ!」


「えっ!?」

(今あの人なんて言った?ちゅう?それってキスだよな!?

 ポーラとキス?いやポーラ自身すごく可愛いし俺としては何時でもwelcomeだけど、やっぱり心の準備が・・・

 って俺は何を考えているんだ!相手は三歳児だぞ!

 それを相手に何緊張してんだ!

 そもそも可愛いとかwelcomeとか・・・まさか俺には隠れロリコン属性があったとでもいうのか!?

 いや、そんなまさか――)



 フラッドの心の内など知ったことかと、ポーラは幼子特有の必要以上に濡れている唇を軽く突き出しながら、徐々に徐々にフラッドへ近づく。

 己の新たな性癖の発見にフラッドはドギマギしており、ポーラの接近に気づくのが遅れる。

 そして二人の距離が拳一つにも満たない程に近づく。



「うひっ!?」

(近いっ!?マジでキスするつもりか!?)


「フラッド君・・・ごめんなさいっ!

 んっ」


チュッ



 仲直りのキスと言うことから、頬にされるものかと思っていたフラッドだったが、その予想は儚くも消える。

 mouth to mouth。

 つまり唇を重ね合わせるキス。

 一部例外もあるが、本来なら恋人や夫婦でない限りは行うことがまずないこの行為を、ポーラは仲直りという名目で行ったのである。

 予想外の部位へのキスであるとともに、三歳児のものとは思えないほどに情熱的で蠱惑的なキスであったため、フラッドは自身の脳を襲う刺激に少し惚けてしまう。

 そして、もっと続けたいという気持ちから無意識に抱きしめようとしたその瞬間、ポーラは身を引いた。

 直前まであった彼女の感触に名残惜しい気持ちが湧いてくる。



「・・・・・。」

(俺の今世でのファーストキスか…もっと続けて欲しかった)



 少しづつ冷静になるにつれ、自分の抱いた感情とそれを抱かせる程のポーラの技量に驚き、目線を向けた。



(ってまたしても何を考えてんだ俺っ!

 もっと続けて欲しかった…ってこれじゃ隠れじゃなくてガチモンのロリコンじゃねーか!

 そもそも何でアイツあんなに上手いんだよ!

 百戦錬磨のデリ〇ル嬢並みだったぞあれ!)


「ポーラ、私の教えた通りにちゃんと出来たみたいね~

 さすが私の娘~」


「ママくすぐったいよぉ」



 目線の先には、自分の教えを忠実に実行した娘をべた褒めするエリーゼと揉みくちゃにされながらも何処か嬉しそうなポーラの姿があった。

 それを見てフラッドともう一人、ポーラのキス技術の原因を理解した者が居た。



(お前が原因かー!!

 娘に何教えてんだよ!)


「エリーゼ?あなた、ポーラちゃんに何教えてるのっ!

 仮にもあなたは母親でしょ!」


「母さん!」

(母さん言ったれ言ったれ!)


「あははは~・・・。フラーナ違うのよ?

 決して将来の息子(ポーラの旦那)候補云々は考えてないからね~」


「はぁ。

 二人の仲が気になるのはわかるけど、もう少しやりようがあるでしょ?」


(そうだそうだ!もっと言ったれ!)


「今のうちはハグあたりで止めておくものよ」


(・・・え?いま何て?

 HAHAHA!聞き間違い、そう聞き間違いに違いない!)



 そう言うと、フラーナはフラッドへ向き直りこう言うのであった。



「フラッド、あなたからも仲直りのチューとは言わないけ

 ど、ハグぐらいはしなきゃダメでしょ?」


「えっ!?」

(あるぇぇぇ?なんでこうなった?)



 突然の裏切りに困惑するフラッドであったが、慈悲はないと言わんばかりに追撃が入る。



「ホントにしなきゃ(ハグしなきゃ)ダメ?」

(拒否権はないのですか?)


「我が儘言うと、もう魔句を教えてあげないわよ?」


(はい。もうね、仕方がないよね。うん)



 言葉を話せるようになってからたびたび行われている、一番の楽しみとも言っていい魔句の授業を質にされたフラッドは、色々言いたそうにしながらも素直に従うのだった。



「わかったよ・・・

 ポーラ、さっきは強く言ってごめんね」 ギュっ

(やべぇ。超恥ずかしいんだが)


「う、うん!これで仲直りだよね?」 


「うん」



 気恥ずかしさからさっと終わらせようと考えていたフラッドだったが、離れようと抱擁を解こうとするもソレが出来ないこと理解する。

 その原因は抱擁相手であるポーラなのだが、彼女は一向に回した腕を解く様子がない。

 いろんな意味で早急に離れたいフラッドは、恐る恐るポーラへ声を掛ける。



「・・・ポーラ?離してくれないと動けないんだけど?」


「やっ!もうちょっとこうしてたい!」


(ダニィ!?)

「その、ね?もう十分だと思うんだ?」


「やっ!もうすこしこうするの!」



 フラッドが説得を諦めてから半刻ほど経つと、ポーラは満足したのか満面の笑みを浮かべフラッドを解放する。

 その後ポーラはエリーゼと共に隣家に帰って行くのだが、その去り際、幸せそうなポーラの様子を見て、エリーゼとフラーナはニマニマとした笑みを向けてくるのだった。


 その日の晩、親バカに定評のあるダリウスが、話しを聞いて乗り込んで来るという出来事があったとかなかったとか。

お読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字等、ご指摘いただいたものに関しては極力修正していく予定ですのでよろしくお願いします。


次話は2/10を予定しています。

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