67.無茶ぶりに備えているんだが・・・
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(ふぅ・・・
ポーラはいったいどんな無茶ぶりを仕掛けてくるんだか。
一応今の様子を見る限り、すぐにってわけじゃないみたいだが、油断は大敵だな。
格好いいとか、好きとか、ドストレートに好意をぶつけてくるのは嬉しいし、正直もっと言ってほしいまであるんだが・・・
如何せんその感覚を他人にまで求めるところがあるから困るんだよなぁ。
できればその気持ちに応えたいって気持ちはあるんだが、それをすると周りの目が痛いのもあるし、何より俺自身恥ずかしい。
でも、ポーラの頼みって言うか望みだし…
ハッ!?これじゃあまるで俺が前世で疎んでいたバカップルと一緒では!?
ポーラと俺がバカップル・・・カップル・・・フヘッ。
いかんいかん!
とにかく、このままだと周囲の目に俺が殺されるッ
それに、疎んでおいて自分がそれに成り下がるなんぞ言語道断だッ!)
自信を戒めるように頬を張るフラッド。
突如としてそんな行為に出たフラッドへ周囲の者が怪訝な表情をするも、思考の坩堝にあるフラッドが気付くことなどなく、再度その中に没入していく。
(しかし、どう対処する?
そもそもどういう切り口で攻めてくる?
考えろっ!考えるんだ俺ッ!
今までのポーラの行動を思い出すんだッ!
そうすれば、それを糸口に対策を考え付く!)
「フラッド?急にどうしたの?
ほっぺに虫でも止まってたの?」
それまで瞳に怪しげな光を灯し、悪だくみをするかのように口元に弧を描いていたポーラが、目をまんまるにさせ、そう問いかけるも案の定フラッドが気付く様子がない。
そんなフラッドの様子に少し憤慨したのかポーラはぷっくりと頬を膨らませる。
「ポーラ。
フラッドがこうなったら、なかなか戻ってこないのはいつもの事でしょう?
それよりも、そろそろ授業が始まりますわ。
先生がいらっしゃる前に、ソレを席に連れて行ってあげなさいな」
またか、といった顔で呆れるティアだが、事情を知らないルーク達は疑問を顔に浮かべている。
「その、ティア。
フラッドはいつもこんな感じなのかい?」
代表して質問するルークに対し、フラッドへ困った子を見るような目を向けつつティアが答える。
「そうですわ。
コレは、考え事に夢中になるといつもこの様な状態になってしまいますの。
この状態になると、考えが纏まるまで周りの声やら視線やらにまったく気付かなくなるものですから、最初の頃は何度も注意をしたものですわ。
それでも何度も続くものですから、もうそういうものと思って今では邪魔にならない場所へ動かすようにしていますの」
「そ、そうなんだ」
心底呆れているのだろう、深いため息と共に語られるティアの説明に、何とか笑顔の体裁を整えられた苦笑いを浮かべる二人。
これが学院生活が始まって最初の一回ではないことを伝えるべく、ティアはこれまでの事を思い出すよう促す。
「これもここに来てから最初のモノと言うわけではないですわ。
ルークも今を除いてすでに何度か見ていると思ったのですけれど?
ええと、入学式の前なんてまさにそうだったと思いますわ」
そう言われ当時の事を思い出すルーク。
当時のフラッドは、クラス内挨拶を終え、式が始まるまでの間何事かをぶつぶつと呟き周りの様子が把握できていないと言った様子であった。
当初は、代表挨拶やら何やらでひどく緊張している物だと思っていたルークであったが、此度目の前で起きているその現象とひどく類似していることから合点がいったのか、既に浮かべている苦笑いを、より凄惨なものにしながら頬を掻く。
「あれはそう言うことだったんだね。
てっきりひどく緊張していたからかと思ってたよ」
ルークの言葉に、同じく事情を知らないイワンまでもが頬を引き攣れせていると、教室にホームルームを告げる予鈴がなる。
それまで談笑していたクラスメイト達もぞろぞろと近くの席に座っていく。
それまでつかみ合いをしていたファーミとレギーナに関しては既に着席しており、先ほどまでのソレが嘘だったかのように平然とした様子である。
予鈴に促されるまま席へと移動するティアたち。
その中には、未だ思考の渦から脱却していないフラッドを懸命に、それでいてどこか嬉しそうに引きずるポーラの姿があった。
◇
クラス全員が着席して少し。
教室の扉が開くと共に、クラス担任であるマーシーが姿を現す。
「うんうん。
皆揃っているみたいね。
それじゃ、ホームルームを始めるわ。
昨日は、個々人の実践能力を見極める為、能力テストを行ったけど、今日からは通常事業である座学よ。
なにやら、入学早々に騒ぎを起こした人もいるようだけど特に特別なものがあるとかではないから気にしないように。
っと言っても気になってしまうのは仕方がないと思うけど。
はぁ・・・それにしても今期の新入生たちは本当に優秀だわぁ」
若干自分の世界に浸っているのか、蕩けたような顔でホームルームを始めるマーシー。
そんな彼女の様子など生徒たちは敢えてそうしているのか、はたまた既に見切りをつけているのか、平然とした様相で話を聞く。
(――よし、仮にポーラがそのパターンで来たらこの流れで対応しよう。
・・・ってあれ?
何時の間にホームルームが始まって・・・っていつ俺は席に着いたんだ?
我ながら考えに集中しながら移動している自分が恐ろしい)
自分が他人の手によって運ばれていることを知らない、否気付いていないフラッドは、見当違いなことを考え、自身に戦慄していた。
ようやく周囲の状況が見え始めたフラッドが簡単に周りへ目を配ると、あることに気付く。
(ん?
ポーラにティア、それにルーク・・・あとはニック君だったか?
三人が近くに居るのは何となくわかるけど、なしてニック君まで前と同じところに座ってるんだ?
イワンとレギーナも前と同じところに座ってるし。
てっきり昨日の流れから近くに座るもんだと思ってたんだが・・・
え?自由席だよな?
俺が勘違いしてるとかじゃないよな?)
そう思い改めて周囲を見回すフラッド。
よく見れば多少場所が変わっている者もおり、自由席であることが証明されているとも言える。
しかし、最初の席の時点で親しいものと一緒と言うこともあるのか、現状で席を動こうと言うものはあまり見受けられないのであった。
(イワンもレギーナも昨日の今日ですぐ席を知覚にって言うのが間違いであって、コレが普通だよな。
まったく、俺は何を思ってそう考えたんだか。
ええい。
今はそんなことより無茶ぶり対策だ。
今現状でポーラに動きはないってことは、授業中に何かしら行動に移すと考えられるわけで・・・
特に想像しやすいのが、俺が何かしら解答をした時とかだな。
だが、そこについては既に準備は出来ているから、後は想像の埒外の行動について警戒をしないとな。
まずは一限目だ。
たしか一限は薬学だったよな―――)
先程までの時間であまり対策が思いつかなかったのだろうか、脱線した思考を追いやると再度対策について考え始めるフラッド。
一時的とは言え回復した様子の彼に色々と話しかけようとしていたポーラであったが、再度思考に没入したのを察し、再び頬を不満そうに膨らませる。
ささやかな仕返しなのか、自分の世界に集中するフラッドの頬をフニフニと摘まんだり、引っ張ったりなどの行為に及ぶのだが、もちろん彼がそれに気づくことは無いのだった。
ホームルームを終えても未だ続けられるそれは、ついに一限目が始まるまで終わることは無かった。
もちろんそんな光景を目の当たりにした周囲の者は、二人へ生暖かい視線を向けたのは言うまでもないのだが、唯一人ニックだけが頬を赤らめながら羨ましそうにその姿を盗み見ていた。
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次話の投稿は5/3を予定しています。




