63.なんだか認められたんだが・・・
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(どうしてこうなったんだ・・・)
フラッドは、現在進行形で進んでいく現状を思い、内心で困惑を吐露する。
ポーラとの何気ない会話の延長として、何と無しに食堂を利用したら、ポーラが絡まれ、名も知れぬ少女がそれを治めた?かと思えば、今はこうして共に食事をしている。
ポーラが男子生徒に絡まれている場面を目撃した時の感情の昂ぶりや、それを追い払った少女への感謝や、その少女の一面に恐れおののき逃げ去っていった男子生徒を見て感情の昂ぶりが嘘だったかのようにスッキリしたのは事実だが、それで終わりと思っていたフラッドからしてみれば、その少女と共に食事をすることになるのが予想外であることは当然と言えよう。
(え?いや、なんで?
あれで終わりでいいじゃん!
それが何で、こんな何とも言えない空気で食事を続けなきゃいかんの?
まぁ、ポーラの料理が残ってるし、そもそも俺に至っては手すら付けてないから食べること自体は間違ってないんだけどさ。
普通、そこはポーラと俺の二人っきりでって感じでしょ!?
なして君も一緒になのかなぁ!?
てか、せめて何か話してくれよ!)
内心を隠しきれていないフラッドは、チラチラと少女へと視線を向けてしまう。
そんな視線を意にも介さず少女はとても幸せそうな表情で、手にした料理を口に運んでいる。
しかし、その視線を快く思わなかった者が居た。
そう、渦中の人であったポーラである。
彼女からしてみれば、フラッドが自身の事を助けてくれると信じ、自身を颯爽と助ける彼の姿を妄想しながらその時を待っていると、それをあざ笑うかのように、今隣で幸せそうに料理を口に頬張る、名も知れぬ少女が乱入し、解決してしまったのだ。
想定外の事態に、当の本人は何も口にできず、それを傍観することとなり、その最中に同じように傍観している彼の姿を見てしまった。
それだけでも彼に対して思うところがあるのだが、その時の姿勢から助けに入ろうとしていたことや、自分と同様に予想外の事態に思わず傍観してしまったことが解るため、まだ許せる。
しかし、どういう流れかその少女を交えて食事をすることになったかと思えば、彼はチラチラとその少女の事を伺っているではないか。
一欠けらの興味もない男子生徒に言い寄られた挙句、自分の理想とする展開とは程遠い結末に至ったことで苛立ちを覚えていたポーラは、普段なら、その視線が探るような困ったようなものだと解るのだが、今はただ、視線を注いでいるという事実のみに反応し、フラッドの事を睨みつけてしまう。
(んん~。フラッドは何であの娘の事を見てるの!
もうちょっと私の事気付かってくれてもいいじゃん!
ローナに貰ったコレだって全然気付いてくれないし。
っもう!)
ポーラは依然として強くフラッドを睨みながら、今朝から付け始めた髪飾りを撫でる。
(うわっ・・・ポーラがめっちゃ睨んでる。
助けに行けなかったのは申し訳ないとしか言えないけど、そこまで睨む必要ないだろ!
それに、ほら。
端から助けるつもりがなかったわけじゃなくて、いきなりコイツが出てきたから、出る場を無くしたわけだし・・・
うん、俺はなんも悪くない!)
行動の正当化を図ったフラッドは、ポーラへ顔を向けると曖昧な笑みを浮かべる。
彼としては爽やかな笑みを浮かべたつもりなのだが、その実態は間の悪そうなぎこちないもので、それを向けられた当人の苛立ちをさらに助長することとなる。
二人が視線や表情の応酬を始めると、それまで黙々と食事を勧めていた少女が口を開く。
「ねぇ?ご飯食べないの?
冷めるとおいしくなくなるけど?」
二人の何かを見ぬかんと向けられた瞳は、おおよそ感情と言ったものが感じ取れない程無機質なもので、それを向けられた二人は、何が彼女にとっての地雷となるかと少々怯えつつ何とか口を開く。
「い、いや~、こうも会話がないと落ち着かないなぁ~なんて思ったりして・・・」
「そうそう、フラッドの言う通りなんだか落ち着かなくて~」
二人の回答を聞き、少女は可愛らしく小首を傾げると、その疑問を口にする。
「話さなくてもご飯は食べられるけど?
むしろ、話してばかりだとご飯に集中できないと思う」
彼女の言葉に何かを感じ取ったフラッドは、少女が次の言葉を放つ前に会話を差し込む。
「もちろんその食事に全神経をもって集中したいなら会話は邪魔以外の何物でもないだろうけど、何気なく行われる食事では一種のスパイスになるって言うか~何というか・・・
とにかく、会話は最高の引き立て役足り得るんじゃないかな?」
少々焦っているのか纏まりもなくそう語るフラッド。
そんな彼の語りを聞いた少女は考え込むように手を顎に添え一拍、二拍と間を置くと、少女の中で何かしらの結論が出たのだろう。
バッと顔を上げフラッドを見据える。
その姿に、思わずフラッドもポーラも先ほど繰り広げられた最悪の展開を予想するも、彼女の口から告げられる次の言葉に肩の荷を下ろす。
「その考えはなかった。
アンタのこと最初バカだって言っちゃったけど、そのことについて改めて謝るわ。
むしろアンタはご飯の大事さがよくわかってる同志だってことが解かったもの。」
目をランランと輝かせそう告げる少女。
その生き生きとした様子に二人は若干引いてしまう。
「そ、そうか・・・わ、わかってくれたか」
「よ、よかったねフラッド?」
(なんだか面倒くさい感じになっちゃったね?)
「う、うん」
(そう思うなら助けてくれてもいいのだけども?)
口とは別に視線で会話をする二人。
その二人の事も特に気にならないのだろう、少女は嬉々とした様相のまま一人盛り上がる。
「これでご飯同盟の同志が増えたわ!
え~とフラッドだっけ?
アンタをご飯同盟の一員として認めるわ!
これからは同じご飯同盟として、ご飯の重要性や、よりご飯を楽しむために頑張りましょ!」
(ぐおぉぉ・・・何故こうなった!?
名前も知らん少女に、しかも頭が少しイカれてるであろうこの娘に、謎の同盟に加入させられたんだが!?
せめて名を名乗れよ!
いや、名乗られても普通に入る気しないけども!
脱退したいけど、この娘の感じからしてそれは無理!
あぁ神様、この同盟、クーリングオフは有効ですかぁ?)
「あ、ありがとう・・・その、よろしく?」
内心とは裏腹に感謝の意を伝えるフラッド。
そんな彼の様子を見て、ポーラは同情とも言えぬ視線を向けつつ、自分が巻き込まれないようにと少しづつ距離を空けていた。
(クソッ!ポーラの奴、巻き込まれないように遠ざかってやがる。
さっきまで俺の事を射殺さんと睨みつけていたあの姿は何処へやったんだ!
あぁ~いつもの癖で肯定しちまったし、この流れで行くしかねぇか)
「これから同盟の同志になるわけだし、君の名前を聞いてもいいかな?」
色々な意味で諦めたフラッドは、今更ながら少女の名を尋ねる。
フラッドの問いに、キョトンとした顔をする少女だったが、自分がまだ自己紹介をしていないことを思い出したのか納得した様相で名を名乗る。
「え?
あぁ、そういえばまだ名乗ってなかったわね。
私はファーミ。ただのファーミよ。
これからよろしく、同志フラッド!」
満面の笑顔で差し出された手を握り、フラッドは今世最大の作り笑いで答えるのだった。
「よろしく、ファーミ」
お読みいただきありがとうございます。
はい、前話に引き続きご飯大好きっ娘ファーミちゃんの回でした。
自分で考えておいてなんですが、頭おかしいですね(汗)
それでもまぁ、世の中に溢れる作品群を見てみればとっても可愛い方になるんですけどね。
そんなこんなで新キャラ追加となります。
次回は漸く食堂からでて、教室→授業と言う流れを想定しています。
投稿予定としては3/29を考えています。
今更こんなことを書くと卑しく感じてしまうのですが、ブックマーク、評価いただけますと読んでもらえていると言う実感が得られるので、もしそれに値するなと思っていただければ是非にと思います。
また、ここ最近ブクマしていただいた皆様にはこの場を借りてお礼申し上げます。




