61.自分も注文したんだが・・・
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「――でも、食べるのが好きってわけじゃなくて、体の為って言うか――」
ポーラの意外な一面を知り、未だ動揺を隠せないフラッド。
そんな中も必死に弁明を口にする彼女であったが、乱れる思考を落ち着けるのに必死なフラッドには届かず、その言葉は綺麗に右から左へと流れていく。
(え~・・・いや、いいんだよ?
よくあることじゃん。
騎士系の女の子が実は大食いで――みたいな設定。
うんうん。よくあるよくある。
物語に出てくるヒロインに、そう言う意外な一面を付け加えることで、読者を楽しませる。
だから、別にそこまで驚くほどのモノじゃあないわけだ・・・ってなればいいんだけどよぉ!
ここは、ファンタジー小説の中じゃなくて現実なんだよォ!
小説ならいいんだよ?物語の中なら、客観視出来て面白いって思う。
でも、現実で起きるのとは訳が違うんよ!
だからと言って、こんなことでポーラの事を嫌いになるとかは万に一つもあり得ないんだけど・・・こう、驚くじゃん!?
いや、物語の中でも驚くよ?
でも視点が違うわけよ。今は神様的な読者視点でなくて所謂主人公視点なわけ!
面白い云々の前に、頭真っ白になるわけ!
だから、動揺してもしょうがないだろ!
って俺はさっきから誰に対して説明してんだ!
動揺し過ぎだろ!とにかく落ち着け!落ち着くんだ俺――)
フラッドがどうにか気持ちの整理をしようと躍起になっている間も、ポーラの弁明は続いているのだが、その内容もフラッドへの弁明に見せかけた自分への言い訳と言った体を見せ始めていた。
つまり、互いに焦り動揺しているのである。
延々と続くかと思われたその流れから先に抜けたのは、フラッドであった。
「ポ、ポーラ。
とりあえず、俺、飯貰ってくる」
最初、噛みながらもそう言いのけたフラッドは、勢いを落とすまいとドンッとテーブルに手をつき食堂のカウンターへと動き始める。
「ッ!?
う、うん!いってらっしゃい!」
その音と声に意表を突かれたおかげか、ポーラも多少冷静になり何とか返事をする。
彼女の声を背に、フラッドはカウンターへと移動していく。
(とりあえず、これで仕切り直す。
ポーラのアレは意外と言えば意外だが、内容としてはそうでもない。
ただ、絵面のインパクトが強かっただけで、一度でも冷静に慣れれば大丈夫だ。
とにかく、今は食堂のメニューをどうするかを考よう)
なるべくあの場面を思い出さないようにと考えたフラッドは、受付に掲示されているメニューを見ながら云々と頭を悩ませ始めた。
(う~ん・・・ポーラと同じ肉炒めもいいけど、一応とはいえ俺、朝飯食べてるしなぁ~。
んん~、それ以外となると、目玉焼きとソーセージセットかくず野菜のスープとサワーベリーのジャム、もしくはウーバンウィードの香草炒めかぁ~
軽くってならスープ&ジャムなんだろうけど、ジャムはどうにも好かんからなぁ。
腹の減り具合もそれなりだし目玉焼きセットにしとくか。
てか、ここにもウーバンウィードはあんのな。
あれってどちらかと言うと、飯ではなくつまみの部類じゃねぇか?)
シュティーアで食べた塩炒めの味を思い出しつつ、フラッドは注文をする。
「すみません、目玉焼きのセットお願いします」
「あいよ!目玉焼きセットね!
あんた、特待生だろう?
さっきのお嬢ちゃんみたいにたっくさん注文しなくてもいいのかい?」
注文に対し、威勢の良い返事と共に質問が飛んでくる。
声の主はもちろん、受付で対応をしている中年の女性だ。
彼女はフラッドの胸に輝く記章とその顔を捉えながら、特に気にした風もなく返事が来るのを待っている。
初日のやじ馬達の視線とは違うその視線に、少し居心地の良さを感じつつフラッドは口を開く。
(この人、俺が特待生って言うことをまったくもって気にしてないな。
やっぱり、こういう自然なのが一番だよなぁ。
まぁソレは置いといて、疑問なのが、何故特待生だからって一杯注文するみたいな解釈になってんだ?
ポーラが頼んだからって、それを俺に当てはめるなよな。
その点を除けば、このおばちゃんは俺的に好感が持てる)
「特待生なのは間違いないですけど、だからと言ってたくさんは頼みませんよ。
そんなに食べられませんし」
無理のない、ごく自然な笑いを浮かべながらそう言うフラッド。
特に何も感じなかったのだろう、女性は気にした素振りもなくソレを受け取ると、引き換え用の木札を渡してくる。
「そうかい?それならいいけど。
まぁあたしゃとしちゃあ、男の子なんだからもっとしっかり食べなって思っちまうねぇ。
子供はたくさん食べて、たくさん遊んで、そんでもってTACさん寝るのが仕事だと思ってるよ。
もちろん勉強も大事だけど、そういう所も大切にして生きて欲しいね。
ッと、説教みたいなこと言っちまったね。
はいよ、コレが札だ。これを持って受け取り口に行けば料理と交換してくれるから、そのまま列にそって移動しな」
「わかりました」
突然始まった小言に少し驚きつつも札を受け取ると、フラッドはそのまま列を進んでいった。
その後10分も経たない内に料理を受け取ったフラッドは、前世の食堂と遜色ない速さだと感心しつつポーラの待つ席へと向かおうとするのだが・・・
お読みいただきありがとうございます。
そしてお詫び申し上げます。
投稿予約をしたつもりが出来ておらず、結果このような形となってしまいました。
いつもの事ながら、注意していく所存ですので何卒寛大な措置をお願いいたします。
次話は3/15投稿予定です。




