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6.ハイハイができるようになったから探索をしてみたんだが・・・

 ポーラ達一家との出会いから早半年。フラッドはハイハイができるようになっていた。

 自分の意志で移動ができるという感動と己が内から湧き出る知的好奇心を満たしたいという欲望から、フラッドは時間と体力が許す限り、暇を見つけては家の中を探索していた。

 また、その行為はフラーナ達両親の有無に関わらず行われたこと、そしてその頻度により二人の…特にフラーナの精神を大いに疲労させた。



「もぅ・・・またなの?

 フラッド~!どこ行ったの~?」



 ここ最近日常に追加された()()()に、若干の諦めと少なくない苛立ちを漂わせながら声を挙げるフラーナ。

 そんな中、探されている本人であるフラッドは絵本とおぼしき書物とにらめっこをしていた。



「むぅ~・・・」

(ん~、やはり読めん。

 内容はわかってるから・・・)



 一家との出会いからひと月ほど経てから、フラーナに読み聞かせをされていたおかげで、内容自体はわかっていた。

 そのため、視線の先にある()()読みたいという気持ちは希薄と言っていい。

 では何故、そんな希薄な気持であるにもかかわらず読もうとしているのか。

 それは(ひとえ)に、文字を覚えるためである。



「・・・ふむ」

(――これは絵本のはずだから、単純な文字しか使われていないはず。

 だから、あとは文字に当てはめていくだけなだが…)


「見つけた!

 もう、ここに居たのね?」



 文字を読もうと集中するあまり、周囲の状況が把握できていなかったフラッドは、間近から聞こえた声に驚愕する。



「ふぃにゃッ!」

(うおっ!・・・なんだ母さんか)


「あら?余っ程この本が気に入ったのかしら?

 ほら、戻るわよ」


「あうぅ…」

(お怒りになってらしゃる。もう少し考えたかったが、今は大人しくしておこう)



 フラーナの醸し出すチリチリとした雰囲気を感じ取り、大人しく抱きかかえられるフラッド。

 フラーナは、腕の中で大人しくする我が子の様子に満足しながら、いつもの部屋へと歩を進める。



「お部屋に着いたらご飯にしましょうね。

 そのあと絵本を読んであげるから、また勝手に抜け出しちゃダメよ?」


「あい」

(はいよ。

 まあ、個人的には絵本より()()()を読み聞かせて欲しいんだけどな)



 フラッドの言うあの本とは・・・

 遡ること二か月前。

 フラーナが風邪をひき、ガラッドが家事育児を請け負った日が何日かあった。

 普段からその関係はフラーナに任せているため、ガラッドは細々とした事が解らず、悪戦苦闘しながらも家事育児に勤しんでいた。



「――あれは何処に置いてあるんだ?んん~。

 彼女に聞くわけにはいかない・・・もう少し探してみよう」



 そう思い、別の場所を探そうと動くガラッドの肘に何かが当たったと思えば、その直後、ガシャンという大きな音と共にこの家には数枚とない白磁の皿が砕け散る。



「やってしまった。

 皿については謝るとして、破片ともども片付けるには…

 あまり使わないから忘れてしまったなぁ。

 久々にあれを使うか」



 ガラッドは何かを思い出したのか(おもむろ)に部屋を出ると、数分もせずに戻ってくる。その手には、長らく使われていなかったのか、埃をかぶり所々日に焼けている一冊の本が握られていた。

 すると、目的のものはそこに書かれているのか、ガラッドはその本をめくり始めた。



「えぇ~と、どの項だったかな?

 ・・・あったあった!

 コレクトオブジェクト リモーバルデブリ」



 ガラッドが本を見ながら唱えると、破片は一か所に集まり霞のように消え去った。



「よし!上手くできた。腕は鈍ってないな!

 後はどう謝ろうか…」



 大きな音に反応し、ガラッドの行った一部始終を見ていたフラッドは、彼の手に持つ本へキラキラと期待に輝く瞳を向けていた。



(あれ、絶対魔導書かなんかだよな?

 だって父さんあれ見ながら呪文?唱えてたし!

 あれを読めば魔法についてわかるかもしれん!)



 その後、隙をみて読もうとするも、そもそも文字が解らないという事実を思い出し落胆するとは露にも思っていなかった。

 そのような経緯から、フラッドは文字を覚える為に暇を見つけては絵本を読もうと躍起になっており、叶わないと思いながらもあの本…魔導書の読み聞かせを願うのだった。



「あーん。ほら口を開けて?」


「うぅ・・・あま!あむ」

(正直これは食べたくないがしょうがないか)



 フラーナに差し出されたグチャグチャとした亜麻色の何かを口にするフラッド。

 おそらく離乳食と思われるそれは、穀物ならではの仄かな甘みと、牛乳でも入っているのか何処となく乳臭い独特な味をしている。

 毎日の食事がこれに替わってから、フラッドの食事への意欲は大きく低下していた。



「ゲプッ!ま゛ぁ゛」

(うへぇ。相変わらず絶妙な不味さだな、これ)


「は~い。ごちそうさま。

 片付けが終わったら絵本の時間にするから待っててね?」



 慣れた手つきで木皿などを片付け始めるフラーナをそわそわと期待したように見つめるフラッド。

 しばらくして、食後の満足感からフラッドがうとうとしてきた時、新しいようで古い、そんな印象を与える本を手にフラーナは語り始める。



「お待たせ。

 今日は勇者様の物語ね!

 とある村落に一人の少年が居りました――」



 その物語は、とある村落に住む少年が神や精霊の助力を受け、強大な魔物を打ち倒すといったどこにでもあるような内容だ。

 前世で幾多の小説やライトノベルを読んできたフラッドにとっては王道過ぎてどこか物足りないものであったが、彼はこの本の内容に強い興味を抱いていた。

 それは、神や精霊といった存在である。物語の中のそれらは、少年に沢山の力を授けていた。

 授けられた力とは、読み書きなどの知識であったり、竜のブレスであっても殺すことのできない強靭な肉体や人々を惹きつける魅力など多岐にわたる。

 また、ときたま入るフラーナの余談から、これらは実際に人々へスキルやステータスといった形で授けられるという。

 フラッドが前世で読みふけった小説の中で、特に没頭した異世界物の記憶なども相まって、自分も神や精霊などの存在に会えるのではと考えるようになった。



「・・・・・」

(俺自身異世界に転生しているわけだから、神とか精霊とか伝説の魔法使いとかの接触があっていいと思うんだが?

 あれか?

 今後、どこかで降臨なすって何かくれる的なやつか?

 まさか、イベントなしとかないよな・・・?)


「あまり気に入らなかったかしら?

 いつもなら楽しそうに聞いてくれるのに…」



 沈黙を不満と受け取ったのか、フラーナは悲しそうな表情で申し訳なさそうに言う。

 一方フラッドは、特別な存在との邂逅が発生しない可能性について考え続けた結果、どんよりとした雰囲気を帯び始めていた。



「うぅ・・・。グスッ」

(チートイベントが発生しない・・・

 いや、まだ決まったわけじゃぁない。

 でも、現に今まで接触はないし、言葉だって自力?で覚えてるしなぁ)



 残念そうな雰囲気を放ったかと思いきや愚図り始めたフラッドに、珍しくもフラーナはオドオドする。

 それから数分が経ち、フラーナはあることを思い出し呟く。


「たしか、()()を使うとこの子は喜んだから…。」


「まう?」

(魔句?)



 聞き慣れない単語に思わず聞き返すフラッド。

 そんな彼の疑問に気づくことなくフラーナは動き出す。



「フラッド、見ててね?

 クリエイトファイア マニピュレイトフェノメノン」



 フラーナがそう唱えると、空中に火が発生したと思えば、彼女の指の動きに合わせて火が移動し、部屋のランタンにあかりを灯した。



「キャッキャッ!」

(魔句って魔法のことか。

 それにしてもいつ見てもすげぇな!

 俺も大きくなったら使えるようなってやる!)


「ふふっ!笑ってくれた。

 あなたが大きくなったらお母さんが教えてあげるから」


「まっ?にひゃ!」

(まじ?よっしゃ!)



 フラッドは魔句という総称が知れたこととそれを学べるという将来に、フラーナは魔句を見て喜ぶフラッドに、格段の笑顔を浮かべる。

 そこには絵画に描かれているような優しくも微笑ましい母子の姿があった。

お読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字等、ご指摘いただいたものに関しては極力修正していく予定ですのでよろしくお願いします。

2/3に次話の投稿を予定しています。

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