58.手紙を読み終えたんだが・・・
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ザックの分を読み終えたフラッドだが、終始擬音やら何やらで、具体的な工程や経緯という物がなかったザックの文章に彼らしいなと感想と皆に遅れをとる訳には行かないという決意を覚えながら、次の文章へと視線を滑らせる。
その文体はその人物の性格が現れているのか、癖のない丁寧なもので、全体的な印象もスッキリとしたものである。
自分の中のイメージから、エルロスかイオが書いたのだろうと予想しながら、その内容を読み込んでいく。
『フラッド、そっちは学院に着いてからどんなかんじ?
ザックが先に書いていると思うけど、私達はこの前コボルトの討伐をしたんだ。
初めて依頼を受けようとした時は、受付の人に止められたんだけど──』
最初こそスラスラと読み進めていたフラッドだったが、途中から自身の想像する2人が使わないような一人称や言い回しを何度も目にするうちに、これを書き上げた人物が自身の想像した者では無いことを理解し始める。
(私って一人称は、場面によって使い分けることはあるが、それ以外がなぁ…
イオだったら、まぁ、使ってもあまり違和感はない…それもそれで変な話なんだよなぁ
でもだ、わざわざ話す時と違う口調で書くか?
まして俺宛でだぞ?
そうなると、そもそも書いた人物が間違ってるってことになる。
それで上がってくるのがローナなんだが…一人称とか言い回しって点では全く違和感がないんだが…まさかなぁ?)
自分の行き着いた考えに、彼女の普段の言動などから確証を得られないフラッドであったが、そんな疑問対する答え合わせをするかのようにある一文が目につく。
『──そっちでポーラとなにか進展はあった?
ポーラへの手紙にも書いたんだけど、すごく気になるなと思って。
まあそれについては返事を期待するとして、これをフラッドに伝えるのも変な話だけど、この前ポーラが欲しがってたある物を一緒に送ったの。
だから、もしあの娘の見た目に少しでも変化があったなら、すぐに気づいて感想を伝えてね。
ここでフラッドが気づいてあげないと、今度会った時に私が大変なんだから
私がまた胸を揉まれないためにもよろしくね。
あの時、変に力が入ってて痛かったんだから』
(これはもう、ローナで確定だな。
てか、話し方あれなのに書き言葉は普通なのかよ!
これがギャップってやつか?
ああも普通に文章を書けるってことは、あれはわざとやってんのか?
ザックとエルロスの様子から素だと思ってたが…
ローナ、なかなかに侮れないな)
友人の隠された一面に驚愕を覚えるフラッド。
その後も続くポーラとのあれこれについての質問に、少々うんざりとしながらも読み終える。
「ふぅ…」
読み進める過程で感じた諸々を吐き出すように息を吐くと、気合いを入れるかのように自身の頬を叩く。
(…女子って本当に成熟が早いんだな。
てっきり情報化が進んだ前世だからそういうものだと思っていたが、ローナのを読む限りだと全世界共通なんだろうなぁ…
…アァ!何がエッチなことした?だ?俺達はまだ二桁にも届いてない年齢だぞ?
ませ過ぎだろ!
そして、その場面を想像して悶々してる自分が恥ずかしい)
邪念を払うかのように首を振るフラッドの頬は、頬を叩いた為か、はたまた想像してしまった何かによるものか、うっすらと紅潮している。
それから少しして、残る二人のものを読むために手紙へと視線を戻す。
今度こそ書き手を間違いまいと意気込んで読み始めるフラッドだったが、その思いも虚しく、早々に解答を提示される。
『フラッド、調子はどう?
僕はね、フラッドと離れ離れで正直寂しいよ。
早くフラッドに会いたいって思ってるんだ。
これを言うと、ザックもエルロスも変な顔をするし、ローナに至ってはよく分からないニマニマっとした顔をするんだ。
友達と離れて寂しいって思うことは、おかしな事じゃないと思うんだけど、フラッドはどう思う?──』
(いや、その考え自体は分からなくもないが、表現だろ!
なんだ、この乙女チックな表現は!
やっぱりイオはあれだな、女の子だ。
うん、そうに違いない。
あんな可愛い顔をして、股の間に凶悪なモノをぶら下げているなんて、俺は断固として認めない!
アレは男の娘と呼ぶには凶悪すぎる。
ん?俺は何を考えているんだ?
イオは女の子じゃないかぁ?)
イオの乙女な丸文字や表現に触発され、現実逃避もといい発狂しつつあるフラッド。
そんな状態も数分経つと治まりをみせる。
(ハッ!俺は一体何を考えていたんだ!?
イオが凶悪な男の娘であることなんてあの日からわかっていた事だろう…
…ってそうじゃない!いや、間違ってはいないが今はそこじゃない!
イオ、お前ってやつは、女の子よりも女の子してるぞ。
もう一層のこと女として生きて言った方がいいぐらいに)
フラッドは、大きく観点をズラしながらも落ち着きを取り戻す。
その後は、何度か悶々とさせられながらも何とかイオの文章を読んでいく。
要約すると、フラッドと離れ離れで如何に寂しいか、また、最近見つけた店が可愛い商品を多数扱っていることなどであった。
恐らく、4人の中で1番長居であろうイオの文章を読み終える頃には、フラッドは言葉では表し難い何とも言えない感情を感じていた。
(男の娘に萌える奴ってのはこんな感情に包まれてるんだろうな…)
その感情は、記憶にあるイオの姿と、文中に描写によりそれが脳内で再現される度に強まり、読み終えたフラッドの額にはうっすらと汗が滲んでいるのが伺える。
(ふぅ、何とか持ちこたえたか?
可愛すぎるだろ!チクショウ!なんで男なんかに産まれちまったんだお前はよォ!)
再度、心の昂りをみせるフラッドは、その心を落ち着かせるためにもと最後にある得るロスの文章を読み始める。
彼の文章は、フラッドが彼へ向けて感じているイメージ通りのもので、正確に、そして丁寧に書かれた文字たちは、皆のこれまでを分かりやすく、簡潔に纏めた報告書のようなものであった。
そこには、ザックやローナが触れていなかったコボルト討伐までの経緯や、皆の状態、街の変化などが書かれていた。
それにより、コボルト討伐に漕ぎ着くまでに幾つものクエストをこなし、どれほどの準備をしたか。
そして討伐に挑んだ4人の誰一人も怪我の類を負っていないこと、それを成し遂げた為にギルドの期待が大きく上昇したことなどがわかった。
その他にも、普段から贔屓にしてる「肉火のシュティーア」に新メニューが追加されたことや、イオの文章でも触れられている店が増えたことなどがわかった。
(これ、エルロスだけで事足りたのでは?)
一生懸命に書いたであろう他3人を申し訳なく思いつつも、そんなことを考えてしまうフラッド。
エルロスの報告書とも言える文章で情報の補完を行いつつ最後まで読み進める。
『──その、みんなも初めての手紙だから一生懸命書いたんだ。
2人が王都に行って寂しいって気持ちもわかるし、正直僕も少し寂しいよ。
だからこそ悪く思わないであげて欲しい。
2人がこっちに…いや、3人がこっちに戻ってきた時はもっと驚かせられるようになるから期待してて。』
(エルロスが最後なのは、やっぱり纏めるのが主だったんだろうな。
どんな時でもお前は苦労してるんだな)
その最後に、エルロスからの謝罪とも言える一文を見て、思わず苦笑いを零したフラッドは、少し固くなった体を解すため、大きく伸びをすると窓へと視線を送る。
窓から差す光はいつもの高さまで上がっており、それと共に廊下からは快活な学生たちの声が漏れ聞こえる。
ちょうど良く読み終えたとフラッドが思うと同時に、扉からは在室を確認する為のノックが聞こえてくる。
お読みいただきありがとうございます。
開幕早々ですが、お約束に間に合わせることが出来ず申し訳ありません。
楽しみにお待ちいただいていた皆様には深くお詫び申し上げます。
して、その理由ですが…不覚にも寝落ちでございます。
仕事やら用事ならまだしも、寝落ちという体たらく…本当に申し訳ありません。
次回からはこのような事がないよう注意致します。
さて、次回の投稿ですが3/1を予定しておりますが、今回の件のお詫びも含め、それ以前に投稿しようかと思っています。
ただ、それが出来なかった時の保険として、3/1を投稿予定日とさせていただければと。
今後とも当作品と投稿者ともどもよろしくお願いします。




