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54.二日目が終わるのだが・・・

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 自身が披露した魔句の説明を終え、そう遠くない未来(地獄)に一人意気消沈しつつ、フラッド達は演習場を後にする。



「はぁ」

(夏休みとかは絶対帰省することになるから、早けりゃ今年の夏か…

 その頃には忘れててくれると俺としては非常に助かるんだが、こういう時に限って覚えてるんだろうなぁ)


「どうしたの?」



 何と無しに、教室へ戻る道すがら予想される最速を思いフラッドが思わずため息をつくと。

 自分の定位置はここだ、と当然のようにフラッドの横を歩くポーラが、自身の顔がフラッドの正面にくるように頭を傾げながらため息の理由を聞いてい来る。

 重力に従い垂れさがる銀髪に窓から差す斜光が当たった為か、ただでさえ美しい彼女の髪にキラキラとした粒子が舞っているような錯覚を覚えるフラッド。



「ぇぁ・・・な、なんでもないよ」



 常日頃から彼女の事を天使の様だと思い、考えてきたフラッドは、その光景に、その美しさに、酷く見惚れてしまう。

 呻き声ともあえぎ声ともとれる無意味な声を出して一拍、取り繕ったように何ともないと答えるが、気恥ずかしさから顔を逸らしてしまう。

 そんなフラッドの様子を見たポーラは、その表情を少し不安に曇らせながら、フラッドを案ずる。



「本当に?」


「ポーラ?フラッドがどうかしたのですの?」


「どうかしたのかい?」



 ポーラの言葉に反応する面々。

 フラッドと親しくしているルークとティアはポーラに状況を確認し、同行していたイワンとレギーナも表情こそ変わらないものの立ち止まり様子を見守る。



「大丈夫。本当に何でもないんだ。

 ただ、決闘で魔力を使い過ぎたから少し疲れたなぁって思っただけだよ」



 ため息の本当の理由を伝えるわけにはいかないフラッドは、事実実際に感じている疲労感を理由とし皆に語った。

 ルーク、ティア、ポーラは安心したような顔をしつつも少し残念そうな雰囲気を醸し出す。



「あれだけの魔句を使えば、やっぱりそれ相応の魔力を消費するんだね。

 本当はこの後、皆で学院を見て回ろうかなと思っていたんだけど、魔力疲弊しているなら後日にした方が良いね」


「フラッドを魔力疲弊させるなんて、あの魔句の消費魔力は・・・考えただけで恐ろしいですわ!

 でも、確かにルークが言った通り学院巡りは後日にするしかありませんわね」



 二人がここでいう魔力疲弊とは、個人の保有する魔力量が魔句の行使などの理由で減少していくと発生するもので、体自体は問題なく動かせるが、精神的な疲労感を感じる物である。

 例えるならば運動後の筋疲労の魔力版と言ったところである。

 魔力疲弊はここの魔力の三分の二が消費されたところから魔力が枯渇するまで消費すると、その疲労感は強力なものとなっていき、魔力が枯渇すると気絶に至る。

 そして魔力が枯渇し気絶することは魔力枯渇と呼ばれている。

 魔力を消費するだけで気絶に至るため、フラッドに休むことを勧めたのである。



「二人とも、その、ごめん」


「気にすることはないよ」


「そうですわ。

 もし、気になるのでしたら明日にでも廻ればいいのですし」


「・・・ありがとう」

(本当は違う理由なんだ!罪悪感がやべぇ)


「そしたら、私はフラッドを部屋まで連れていくね!」



 フラッドがひっそりと罪悪感を感じているのを置いてポーラがフラッドの手を取る。

 咄嗟の事に何もできなかったフラッドは、そのままポーラに連れられて行く。



「あぁ行っちまったよ。

 もう一回謝ろうと思ったんだけどな」


「謝罪はしてるから要らないと思う」



 ポーラに連れられて行くフラッドの背を見送りながらイワンとレギーナが零す。



「そんなに謝りたいのでしたら、明日もう一度謝ればいいのではなくて?」


「いや、そもそもアイツの疲労の原因は俺にあるわけだから」


「フラッドはそんなこと気にしないと思いますし、そもそも今回の件は私たちの落ち度でもあるのですから、貴方が気にすることでもないと思いますわ。

 仲良くしたいのでしたら、普段使わない頭を一生懸命使うのではなく、いつもみたいに豪快に笑っていればいいと思いますわ」


「俺は真面目に考えてんだぞ?

 …実際いつもみたいにやれば案外何とでもなりそうだな。

 レギーナお前も明日どうだ?」


「?」



 明日、レギーナに一緒に行動するかイワンが尋ねるとレギーナは不思議そう小首をかしげる。



「イワンが彼と友達になりたいのは解るけど、何で私を誘うの?」


「いや、そりゃぁ…きっかけはアレだがコレも何かの縁と思ってよ。

 それにそこまで悪い奴とも思えんし、何よりアイツの魔句はすげぇ!

 お前も少なからずアイツの魔句についてはそう思うだろ?

 だから誘ったんだよ」


「彼の魔句が強いのも、イワンが彼と友達になりたいのもわかってる。

 でも、なんで私を誘うの?」


 

 イワンの説明を受けてなお要領を得ていない様子のレギーナに、提案したイワンも、それを聞いていたティアとルークでさえも困った顔をしていた。



「だからそれはだな…」


「レギーナ?

 そこのデカ物(イワン)は貴方の為を思って提案しているんですわ。

 行く行かないどちらにしても、もう少し言い方があると思いますの」


「ティアまでそんなことを…」


「さっきの事もあるし、やっぱりレギーナさんはフラッドの事を許せないとかかな?



 ルークが確信とも言える部分について質問をすると、普段ならあまり動きのないその表情が、珍しくキョトンとしたものになる。



「ルーク様は何を言ってるの?

 私はもう彼とは友達。

 だから、私が友達になりたいって言う意味が解らなかっただけ」



 無表情で淡々と述べられた言葉に三人は呆気にとられる。



「・・・はぁ。

 そう言えば貴方にはそういう所がありましたわね」


「そうだったな。

 俺も長く居るのに忘れてたぜ」


「僕は彼女にこんな側面があったことを今知ったよ」



 三者三様な感想を述べながらも、その表情は同様にやれやれと言った者であった。

 そんな三人の様子を見て困惑したのか、レギーナはいつもの切れが少し陰りながらも口を開く。



「私、何かおかしな事、言った?」



 そんな彼女の言葉に三人は一拍の間を開けると、見事に同じ言葉を重ねる



「「「・・・いや、気にしなくていいよ(いいですわ)」」」



 その後四人は、二、三言世間話をすると各々の部屋へと戻っていくのであった。


 一方、ティアたちがレギーナと不思議なやり取りをしている最中、フラッドはポーラの手によって寮へと戻ってきていた。



「ちょっ、ポーラ、何もそこまでしなくても普通に歩けるって」



 フラッドが現状を打開しようと必死にポーラへ声を掛けるも、そのポーラは聞く耳を持たずフラッドの部屋目指して進んでいく。

 現在フラッドはポーラの肩を借りている状況にあり、怪我や病気で歩行が困難なわけではないフラッドとしては、嫌に注目を集める居間の状況は避けたいものであった。

 事実、道行く生徒や教師らからは幾つもの視線が刺さり、何度か介助を手伝おうと申し出があったほどだ。

 その度に、フラッドが申し出を固辞し何とか寮へと戻っているのだが、人の善意に触れ、それを断るたびに少なくない罪悪感を感じるのであった。

 また、それ以上に間近から香る女の子独特の甘さを感じる匂いや、密着することで感じられる体温や体の柔らかさを意識することとなり、その状況から早く脱却するためにもと、延々と説得を試みていたのだ。



「だから、ポーラさん?聞いてますか?

 お願いだから、話していただけませんでしょうか?

 ・・・せめて返事だけでも・・・」



 最初こそ、フラッドの説得に返事をしていたポーラだったが、それも面倒くさくなったのだろう、今では笑顔を返すのみで返事がないのである。

 そんな彼女の態度に益々フラッドの精神力は削れていく。



「あら、フラッドさんにポーラさん、お帰りなさい」



 二人が寮に入るや否や掛けられた朗らかな声の主は、二人の寮の寮長であるケーテである。

 彼女を一言で表すなら宿屋の女将その一言に尽きるだろう。

 恰幅の良い体格に、温和な性格、そしてあらゆる面での包容力。

 それらの要因から彼女への生徒たちの評判は非常に良く、寮生たちからは親しみを込めて「ケーテさん」もしくは「ママさん」などと呼ばれている。

 因みにフラッドは前者、ポーラは後者で呼んでいる。



「ただいま~ママさん」


「ケーテさん、ただいまです」


「色々あったのは聞いてますよ。

 大方フラッドさんはその疲れか何かでそんな状態なのでしょう?

 今日はしっかりと休むべきですね。

 そうそう、二人にお手紙が届いてたので部屋に置いておきましたので後で確認しておいてくださいね」



「「は~い」」



 ケーテの言葉を受け取り返事をすると、二人は部屋へ行くべく階段を上がっていく。

 


「手紙ってパパとママからかな」


「んん~どうだろう?

 ザック達かもしれない」


「ザック達か~

 みんな元気にしてるかな?」


「元気も何も、街を出てから一か月もたってないんだ。

 あんまり変化もないと思うぞ?」


「それもそうだね」



 二人で手紙の送り主を予想していると、いつの間にか部屋へと到着していた。

 ポーラは腰袋に仕舞っていた部屋の鍵を取り出し、開錠すると部屋の中へと入っていく。

 昨日ねて今朝起きたこれからの住まいたる部屋に戻ったフラッド。

 慣れていないはずなのになぜか安心感を覚え身体から力が抜けていく。

 重みが増し、状況を察したポーラはベッドへ近づくと優しくフラッドを寝かせる。

 フラッドも自身で感じていた以上に披露していたのだろう、ベッドに寝かせられると強烈な睡魔に襲われる。

 睡魔で朦朧とする意識の中、自分以上に自分の事を理解し、此処まで支えてくれたポーラに一言お礼を言おうと口を開く。



「・・・ポーラ・・ありが・・と・・」



 フラッドは、全てを言い切る前に眠りについた。

 そんな彼の様子を、子をいつくしむ母の様な表情で見守るポーラは、彼が安らかな寝息を立てると同時にベッドから腰を上げる。



「おやすみフラッド君。

 頑張ったね」



 その際に、彼の唇に軽く口づけをするのだが、そのことを知るのは彼女だけである。


 少しの間を開けたのち、部屋に扉が閉まる音と施錠する音が響く。

 その後に続く音はフラッドの静かな寝息だけであった。


 お読みいただきありがとうございます。

 今回は、まぁ日常パートになるんですかね?

 取り敢えず、未だ始業式含めて二日目で引っ張り続けるのもおかしな話なので、決闘関係終了後から二日目終了までといった感じです。

 正直物足りなさがありますが、そこはどうかお許しを・・・


 さて、次話についてですが、投稿予定日は1/26を予定していますのでそれまでお待ちいただければと思います。

 今回後書きも少なめですがまた次話でお会いしましょう。

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