53.決闘の魔句について説明しているんだが・・・
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5人に見つめられ、やりづらいと感じつつもフラッドは決闘で使用した魔句について説明を始める。
「あれは、空気や泥、氷壁とかの水や氷に働きかけて氷の刃を形成したものなんだ。
だから、アレを使う前に霧を作ったり氷壁を出したり、イワン君にアクアバレットを撃ったりしてたんだよ」
自身が使った魔句の性質を答えたフラッドは、これだけで問題ないかを確認すべく、一人ひとりに目を向ける。
そうする中で満足そうな顔をしていたのはポーラだけであった。
彼女は鼻から魔句の説明を聞いておらず、それまでの間幸せそうな表情でフラッドの事を見つめ続けていたのだった。
ポーラを除く4人が、これだけでは満足していないことを理解したフラッドが内容を掘り下げようとした時、それを助けるかのようにティアから質問が飛んでくる。
「フラッド?
基本的に魔句は、行使する前に元となる媒体を用意しなくても問題なかったと思うのですけれど、何故この魔句には媒体が必要なんですの?」
「いい質問をありがとう。
これについてだけど、ティアが言ったように基本的には魔句を行使する際の媒体は要らない。
でも、行使する際にその媒体となるものが術者の近くにあった時はそれを使うだろ?
その理由は、発動までの時間が短縮されることや想像すべき物を省略できたりと色々あるんだけど、一番の理由は、魔力消費量が少なく済むからなんだ」
「確かに、親父の話を聞いてる限りでも戦場での魔句師は
近くに水や土とかがあれば、それを基に魔句を使っているらしいしな」
魔句師共通の常識とも言える事象説明に、イワンは父親から聞き及んでいた話と突合し、理解を示す。
質問者であるティアもこのことについては知識として保有していたが、咄嗟にその事に思い至らなかった為少し悔しそうな表情をしていた。
そんなティアの様子を見て、質問の答えに行きついていると察したフラッドだが、その他の4人にも解るよう話を続けた。
「ティアはもう解ったみたいだけど続けるね。
つまり、今回の魔句はその性質を利用するために、媒体となるものを先に生成したんだ。
正直、一から作るより媒体を魔句で生成してからの方が魔力消費が少なくなるし、何より発動が早くなるからね」
「媒体を作った方が魔力消費が少ないって、あの魔句を一からやったらどれだけの魔力を使うんだろうか・・・」
フラッドが行使した魔句を、一から発動させた際の魔力消費量を想像して顔を青ざめさせるルーク。
そんな彼の表情を見て、フラッドはこの魔句を開発した時のことを思い出していた。
◇
フラッドがプロデンス学院の入学試験を受けてから数週間後。
フラッドは魔句の師匠たるフラーナとイリーナには内緒で魔句の特訓もとい実験をしていた。
(よし、感づかれずに此処までこれた)
周囲を見渡し、イリーナから教わった逆探知の魔句を使用したフラッドは、誰にも発見されていないことを確認すると、安心したように一息ついていた。
現在フラッドが居るのは、以前イオが虐められていた公園の林の中、それも手入れがそこまで行き届いていないのか、雑草やら何やらが生い茂り薄暗い、見る者によっては不気味な雰囲気を覚える場所である。
その雰囲気ゆえに公園で遊ぶ子供たちも、度胸試しの一環以外の理由で寄り付くこともなく、大人たちもよっぽどのことがないと立ち寄らないような場所であった。
そんな薄暗い林の中で一息ついたフラッドは、ここ最近熱中しているあるものについて考察を始めた
(んん~。
母さんやイリーナさんが言うには、魔句は想像力と魔力操作が上手くできれば最悪詠唱を口にしなくても発動できるんだろ?
あくまで詠唱は想像力を補うのと魔力動作の補助が主で、副次効果として微弱な強化と魔力成型の補助が入ることがぐらいだったはず。
想像力って点なら、前世でかなりの量の小説を読み、数々の妄想に耽っていたし
魔力操作については、暇さえあれば練習してきたんだ。
そんな俺に不足はないはずなんだが…
何故に成功しない!)
以前、二人の話を基にオリジナルの魔句を作ろうという試みのもと、フラッドが必死に、鮮明に思い浮かべた情景は最初こそそれらしい物を生み出したのだが、途中からただの氷の塊と化したのだった。
その際フラッドが行使しようとしたものは氷の槍。
二人から氷の適性が非常に高いことを聞いていた為、その属性も氷を選択していたのだが、結果は残念なものとなったのだ。
(う~む・・・
前回は無詠唱で、本当に想像力と魔力操作だけで行使しようとしたんだよな。
なら、詠唱を入れれば成功するのか?
最初は槍っぽい形になったんだから、成形に補正が入るからには成功するはず!
・・・で、詠唱文だが、氷だからアイスなのは良いとして槍は…スピア?でもどちらかと言うと相手に飛んで突き刺さる方だから投槍だよな?
投槍って英語でなんて言うんだ?)
この世界で使われる魔法言語が前世で言う英語と同じであることを知っているフラッドは、現在投槍の英訳を思い出そうと躍起になっていた。
考え始めて10分ほど経過し、ようやく英訳を思い出したフラッドは、以前と同じ情景を思い浮かべながら魔句を詠唱する。
「…アイス…ジャベリン!」
フラッドが詠唱をすると同時に、中空に以前の様な氷塊ではなく、しっかりとした短槍が生成される。
それを見て、魔句作成の成功を確信したフラッドはなんとも言えない達成感から体を小さく震わせていた。
(よし!
これでオリジナルの魔句作成が可能なのが分かった!
この要領でオリジナルを作っていけば、ワンチャン俺TUEee的な事が出来るかもしれん。
でも、アイスジャベリンって俺が知らないだけでありそうだな)
一瞬、今自身が行使した魔句が既存のものかもしれないと気落ちするものの、これからの展開への期待から暗い気持ちもなくなり、むしろワクワクとした様子である。
次にどのような魔句を作ろうかと思案をしていると、ふと魔法言語が魔法言語たりうる原拠についてズレていく。
(そもそも魔法言語ってなんだって話だよな~
母さん曰く魔力が乗りやすい、つまり親和性の高い言語が魔法言語で、それは古代に使われていた言葉とか何とか。
それが、前世で言う英語な訳だろ?
古代に使われていたから、遺跡の調査が進めばその解析も進む、イコール魔句のバリエーションが増えるってわけだ。
魔法言語は言葉に魔力を乗せやすいって訳で、それ以外の言語に魔力を乗せることが出来れば、それに限らなくてもいいわけだ。
言語が変われば魔句の性質も解り辛くなる。
んでもって、最もなじみ深い言語なら詠唱の効果もより強くなるはず。
もしダメなら今のままで考えればいいし、試してみるか)
そうして、フラッドにとって一番なじみ深い言語、日本語による詠唱実験が始まった。
善は急げと、早速日本語による詠唱を開始するフラッドだが、フラッドが生まれるまでの間、同様の事が魔句師たちの間で幾回も提唱され実験されてきた。
しかし、現実に魔法言語は現在のそれしか使われていないことから、それらも失敗に終わっていることが解る。
少し考えれば、そのようなことは解るはずなのだが、開発成功の達成感やら何やらである意味冷静でないフラッドがそれに気づくことは無い。
(よし、まずは簡単にアイスアローを日本語で唱えるか)
既に覚えている既存の魔句を日本語に置き換えることを考えたフラッドは早速とばかりに詠唱を唱える。
(まぁ、普通に氷の矢だよな)
「氷の矢」
魔法言語の時同様、言葉に魔力を乗せつつ唱えるフラッド。
親和性はバカにならないのか、いつもより魔力付与するのに大きな疲労感の様なものを感じたフラッドは、額に玉の様な汗を浮かべながら詠唱を終える。
詠唱に反応してか、中空に魔力が集まる動きを感じる物の、結局それは形にすらなる前に霧散してしまう。
「・・・ダメか」
試しては見たものの、最初から成功するとは思っていなかったフラッドは、実際に起きた現象が自身の予想通りとなったことを確認し再考を始める。
(そりゃ一発で成功するわけないわな。
詠唱自体に問題があるのは前提として、それ以外に魔力の動きやらも比較してみるか)
そう思い、使用する魔句をアイスアローに限定し、交互に詠唱を繰り返し、相違点が何処か比較を始めた。
それからどれほどの時間が経っただろうか、日も傾き、もともと薄暗かった林は今では夜の様に暗くなっている。
比較に根注していたフラッドも、その暗さに数刻が経過していることを理解し、実験を切り上げる。
そして今日時点で判明した事柄をガラッドに買ってもらった羊皮紙に書き記していく。
もちろんボールペンなど存在することもなく、羽ペンや万年筆のようにインクを必要とする書き物で書くのだが、そんなものをもってコソコソと動けるはずもなく、フラッドは羊皮紙と共にしまっていた小さな黒炭でそれらを記すのだった。
(現状としては、まず魔力関係としては付与の効率や分配が大きな改善点だな。
詠唱に関しては並行して考えるとしても、魔力関係が解決してからの方が検証しやすいかもしれないな。
あぁ、オリジナル魔法とかワクワクが止まらねぇけど、頭使うのはなぁ…俺は文系より出し、何より社会人になってからそう言うことに触れることが皆無だったから、こういうのは凄く疲れるなぁ。
だから、転生物の主人公って何かしらで突出した才能を持ってんだなぁ)
問題点を書きだしつつ、物語の主人公の偉大さを痛感するフラッド。
その後、幾度となく頭を悩ませながら、数か月に渡る実験により完成形とも言える現在の形となるのだが、それだけの日数を要するなど想像すらしていないフラッドは、次回の秘密特訓もとい詠唱実験を楽しみにしながら家に帰るのであった。
◇
試案当初から完成に至るまでを思い出しながら、当時の自分の浅はかさに思わず苦い顔をするフラッド。
開発の思いでから、急に苦々しい表情を浮かべたフラッドを不審に思いながらもイワンが口を開く
「そういえばよ、アレ、なんて言ってたんだ?」
イワンの言うアレとは、正しくつい先ほどまで自身が思い出していた日本語による詠唱であること理解したフラッドは、ただでさえ歪んだ顔を、更に歪ませ、どう答えたものかと考え始める。
(う~ん。
どうしたものか、あれを説明するには時間が必要なんだよなぁ~。
それに、案だけ苦労したものをポンッて答えるのも嫌だしどう濁すか…
詠唱自体はイワンにしか聞こえてないはずだからイワンさえどうにかすれば何とかなるな)
少し考えたフラッドは、その問いに答えるべく視線をイワンへと向け口を開く。
「あれは、実家の秘伝だ。
だから教えられない」
「そうか」
実家の秘伝というまるっきりの嘘を述べたフラッドだったが、当のイワンは納得できるものだったのだろう、短く答えたのち、神妙な顔で謝罪を口にした。
「そりゃそうだよな。
家のそれも秘伝となれば、他人にそう簡単に教えられるわけがねぇ。
そもそも、見たことも聴いたこともないような魔句を使われた時点でそのことに思い至るべきだったのに、悪かったな」
そう言って深々と頭を下げるイワン。
そんな彼に対して、思った以上に深刻な様子で返されたフラッドは、余りの事態に動揺していた。
(え?こんなに畏まられるとめちゃくちゃ困るんだが?
いや、確かに簡単には教えたくないのはあるけど、もしかして家の秘伝ってそれだけ重いものなん?
ここはとりあえず気にするなとでもいうべきだよな?)
「い、いや、気にしなくていいよ」
フラッドが歯切れの悪い返答をするも、イワンは特に気にした様子もなく面を上げる。
「すまねぇ」
改めて、そう口にするとイワンもこれ以上の説明はいらないと表情で語る。
話を聞いていた他の三人も同様の表情を浮かべており、魔句についての説明は終わりを迎えるのだが、そこで今までフラッドの事を見つめ続けたポーラが口を開く。
「実家の秘伝ってことはおじさんもおばさんも使えるんだぁ。
ティアも教われば使えるようになるね!」
無邪気に言うポーラに、フラッドは自身のついた嘘が大きな失言になったことを理解する。
もともと、フラッドが二人に隠れて魔句の特訓もとい実験をしていたのは、危険が伴うこともあり禁止されていた為である。
その為、フラッドがオリジナルの魔句を作成したことも、日本語での、他の言語での詠唱を可能としていることは彼の師である二人は知らない。
このことが、ポーラまたはティアによって両親に伝われば、その結果に驚きと共に称賛を送ってくれるであろう。
ただ、その後言いつけを破り実験を行ったことについて大層厳しい処罰を受けるのは目に見えている。
それを避けるためにも、皆に内密にして欲しいと伝えようとするも、既に話題はその事で大きく盛り上がっており、今更どうこう言える状態ではなった。
フラッドは来るべき地獄に備え覚悟を決めることしかできないと悟ったのだった。
お読みいただきありがとうございます。
少し長くなってしまいましたすみません。
正直、実験の回想を省略せず2パートでお届けしようと思っていたのですが、説明パートで2パートはアレかと思い、消化不良な形ではありますが省略をさせていただきました。
機会があれば省略部分を書きたいと思っていますので、もしそこが気になる方が居りましたら、それまでお待ちいただければと。
さて次話の投稿予定ですが1/19を予定しています。
内容についてはお恥ずかしい限りですが、未だ決まっていなかったりします(汗)
今後も当作品をよろしくお願いします。




