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52.決闘が終わったんだが・・・

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「――出しうるすべてをもって勇敢に闘った二人の健闘を称え、本決闘を終了とする」



 その、レギーナによる宣言でフラッドとイワンの決闘は幕を下ろした。

 未だ見たこともない魔句や予想外の結果に熱の冷めやらぬ観戦席を見てしばらく。

 観戦席の方からフラッド達に近づく三つの影があった。

 そう、ポーラ、ティア、ルークの三人だ。

 彼らは驚いたようなそれでいて安心したような表情を浮かべており、彼我の距離が声が届くまで近づくと開口一番フラッドへの称賛を口にした。



「おめでとうフラッド。

 まさか、本当にイワンに勝ってしまうなんてね」


「負けるとは思っていませんでしたが、正直驚きましたわ。

 まさか貴方があんな技を使えるなんて夢にも思いませんもの。」



 二人から送られる称賛に、どうにも顔がにやけてしまうフラッドだが、ティアの驚きを否定するように声を挙げた

ポーラによって、それも慌てたものに変わる。



「何言ってるのティア!

 フラッドは凄いんだよ?あれぐらい使えて当然だよ!」



 ポーラはそう言いながら、ここに来るまでの間ずっとそうしたかったのだろう、勢いよくフラッドへと抱き着く。

 勝つのも高度な魔句も使えて当然という、思い込みとも言える信頼に、喜びを感じる反面それに答えられなかった時のことを思い恐れを抱くフラッド。

 そんな感情も、無防備に自分に抱き着くポーラにそれ泥でなくなり霧散する。

 変わりに、子供特有の体温の高さの為か、はたまた好意を寄せる異性に抱き着かれた為か、フラッドは急激に身体が熱くなるのを感じつつもどうにも抵抗できずにいた。



「うおっ!?

 ポ、ポーラ?ポーラさんや?どうか離れてもらえないかね?

 これは色々と、本当にいろんな意味で良くないから、な?」

(あぁ頼む離れてくれ!このままだと本当に俺はロリコンに目覚めてしま…いや、もう目覚めてたな…

 ってそれはそれとして、色々とマズイ。

 これが前世の記憶とかなくて、純粋な6歳児ならまだ平気なものをォ・・・)



 どうにか離れてもらおうと懇願するフラッドを無視して、より強く抱き着くポーラ。

 そんなポーラは、フラッドのフラッドの肩に顎を乗せ何事かを囁く。



「――凄く格好良かったよ。フラッドの事もっと好きになっちゃった」



 その様子を見ている二人は、ボソボソと何かを言っていることは解るが、その内容までは聞き取れない。

 片や耳元で囁かれ、内容を全て聞き取っていたフラッドは、身を硬く硬直させたかと思えば、その肌は次第に紅く染まっていった。



「そ、そか…」

(おうおうおう、これって告白ってやつなんでは?

 あれ?でもどうなんだ?

 ポーラは俺の事が好きって言っている。

 んでもって俺も前に何回か好きだって伝えている。

 相思相愛なのは自明の理。

 ・・・俺たちって付き合ってんのか?)



 珍しくいやらしい笑みを浮かべずに、純粋に照れるフラッド。

 その心に起こった本人にとっては重要とも言える疑問を解消すべく、未だ方に顔を乗せるポーラへと恐る恐る声を掛ける。



「な、なぁポーラ。

 その、俺たちって…」



 そんなフラッドのある意味、覚悟を決めての質問は全文を言い終える前に途切れることとなる。ほかならぬポーラの手によって。

 ポーラはフラッドが口を開いたタイミングでさっと身を引くと、その場で勢いを利用した軽いターンをした後に満足そうなとろけ顔でフラッドを見つめるのだった。



「フフッ♪

 フラッドの珍しい顔が見れた!

 満足ぅ!」



 自身の覚悟をあざ笑うかのようなその行為に、小さな苛立ちを感じるフラッドだったが、その先にあるポーラの表情に、その言葉に再度気恥ずかしさに襲われたのだった。



(くうぅ…なんて顔でなんてことを言いやがる!

 ポーラがこんなこと言うのも絶対あの人(エリーゼ)のせいだな。

 何時か仕返ししてやる・・・)



 そんなことを二人でやっていると、途中から蚊帳の外に追いやられた二人から呆れたような声が飛んでくる。



「ま~た二人だけの空間を作っていますわ。

 仲睦まじいのは良いですが、私達に見せつけるのはいか

 がかと思いましてよ?」


「まぁ時と場所は選んだ方が良いとは思うけど、僕はあまり気にしないよ?」



 ルークの相槌を聞いたティアは予想とは違う内容だったが為に一瞬動きが止まる。

 その後、ブツッと何かが切れたような音とともに、彼女の身体から薄っすらとした闘気の様なものが感じ取れる。



「いつも社交界で人気な()()()()は慣れていますものね?

 それならば気にしないのも納得ですわ」


「何を言っているんだい。

 ()()()()こそ、数多の誘いを切り捨てて、多くの貴族子弟を泣かせたことで有名じゃないか。

 それこそ君の方が慣れていると思うんだけど?」


「フフフフフ」


「ハハハハハ」



 口では笑っていても目が笑っていないという、そんな突如として始まった二人の闘い?に、それまで桃色にそまっていたフラッドとポーラも現実に戻り、何事かと慌て始める。



(いったい何が起きてんだ!

 なんでティアとルークは笑いあってんだ?

 てか、目が笑ってねぇ!)


(ふぇ?二人ともどうしたんだろう?

 もしかして、私がフラッド君に抱き着いたから怒ってるのかな?)


 二人の表情に恐れ慄くフラッドと、見当違いなことを考えるポーラ。

 まるで役に立たない二人を置いて、ティアとルークの見つめ合いもといにらみ合いは続く。

 そんな彼らに後ろから呆れたような声がかかる。



「お前等、何やってんだ?」



 その救世主(メシア)もとい声の主は、イワンであった。

 彼は決闘でフラッドの魔句によりその身を拘束されたが、決闘の終了と共にフラッドが魔句を解除したため、彼を拘束していた氷の刃は徐々にその形を崩していった。

 そしてようやく脱出でき、色々と魔句について聞こうと近づき現状に至るのであった。

 彼の表情には状況が理解できないとありありと書いてあり、その傍らには同じく理解に苦しむ表情を浮かべたレギーナが立っていた。



「いや、俺にも状況がよくわからなくてさ。

 気が付いたらルークとティアが笑い合ってて、どうしたものかと・・・」


「ルーク様が何かをするとしたら、大方お前がらみだろ。

 お前なんかしたのか?」


(ひどい偏見だなぁ)

「なにもしてないよ。

 さっき、ポーラに抱き着かれただけ」


「ポーラ?あぁ、そこの女か」



 イワンはポーラの名前は知らなかった為、一度首を捻るもフラッドの傍に居る彼女を見て、当たりを付けたのだった。



「しっかし、そんなんでこんな空気になるか?

 それと、なんで相手がアンタなんだか」


「アンタとは失礼ですわね。

 流石、頭の中まで筋肉で出来ていると噂されるボロノフ騎士爵家の一族なだけありますわ。

 もう少し言葉遣いと言うものを覚えてはいかがですの?」



 イワンにアンタ呼ばわりされたことが気に食わなかったのか、ルークに向き合うのを止め毒を吐くティア。

 そんなティアの発言にイライラしているのが見て取れるイワンだが、その雰囲気は決闘前にフラッドに向けた物とは違い、旧知の中であるような軽いものであった。



「うるせぇ!

 (うち)は剣さえ取れればいいんだよ!

 化かし合いが日常の上流階級なんてなりたくもねぇ。

 んなことより、社交場でいつも冷めた目をして他の子弟を見てるアンタが、コイツ等(フラッドとポーラ)と仲良く話してることの方が驚きだ」



 自身の驚きを伝えるイワンに、それまで事の成り行きを見守っていたレギーナが賛同の声を挙げる。



「それは同意。

 いつも男たちを切り捨てるティアがどうして?」


(え?ティアって社交界ではクール、冷淡系女子なん?

 てっきり、フレンドリーでお友達いっぱいな、ですの系お嬢様かと…

 てか、レギーナちゃんと知り合いなん?)



 イワンとレギーナによってもたらされた、社交界でのティアのスタンスに、それまでのイメージがガラガラと崩れ落ちるフラッド。

 そんなフラッドを他所にティアはやれやれと言った様子で首を振る。



「別にそれがなんですの?

 社交界ではあの方たちが余りにも幼稚だから距離を取っているのであって、そうでない方とはしっかりとお話ししてますわ。

 それと、フラッド達ですけど、この方達とは友人ですわ。

 貴族でないのに、これだけの能力がある。

 それでいて、私に物おじしない――」


(最初は結構(かしこ)まってたような・・・

 いや、ポーラは全然だったけど)


「――そんな二人だから友人になったのですわ。

 あの親の功績を自慢げに語るあの方々よりよっぽどマシですわ。

 レギーナも、今回の出会いは最悪でしたけど、話してみれば私の言いたいことが解るはずですわ」


「わかった、話してみる」


(え、何その返答!?

 てか、ティアさん?いくら貴族だからって6歳児に何をお求めに?

 そりゃ、普通その年の子供なら親が凄けりゃ自慢するよ?

 6歳児に大人な対応を求めるなんて…

 ティア・・・恐ろしい子!)



 またも内心驚愕を浮かべているフラッド。

 フラッドの内心など、他が知る由もなく会話は続いていく。



「それよりも何かあったのではなくて?

 こんなことを確認するために声を掛けるような人ではないでしょう?」




 ティアが窺うようにイワン達を見据えると、イワンが頭を軽く掻きながら口を開く。



「ああ、俺たちも余計なことを聞いちまったな」


「私は聞いてない」


「お、おう。」



 自分を含めるなとイワンの言葉を遮り発言したレギーナに、さしものイワンも予想外だったのか一瞬ドモってしまう。



「でだ、俺たちが聞きたかったことってのは、フラッド、お前が最後に使った魔句。

 ありゃなんだ?」



 単刀直入に聞いてくるイワンに、フラッドはどう説明したものかと頭を悩ませる。



(魔句自体について教えるのはいいとしてだ・・・

 日本語(アレ)についてはなぁ、どうすっかなぁ)

「何って、そりゃあ氷属性の魔句だよ」


「んなこたぁ、見てるし、受けてるしで知ってるわ!

 あれはどういう攻撃の魔句なんだって聞いてんだよ」


「それとあの呪文についても」


「それって、手の内をばらせって言ってるようなもんだよね?

 いつ、また決闘になるか解かったもんじゃないし、それはちょっと無理ってものが…」


「なら、今後俺はお前に決闘を挑まないとここに誓う。

 これならいいだろ?」


「確証がないだろう?

 仮に、それでイワン君に教えるのはいいよ?

 でもレギーナさんには教えられないかな」



 胸を張って決闘を挑まないことを誓ったイワンに対し、苦笑いを浮かべながら説明をするフラッド。

 その内容にイワンは難しい顔をしつつも頷いているのだが、もう一人の質問者であるレギーナはキョトンとした顔で返事をする。



「何故?」


「え?何故ってそれは、レギーナさんが敵対しない保証がないからかな?」


「それなら大丈夫。

 君が変なことを言わなければ、私も敵対しない。

 今回のは、元をただせば君が悪いから」


(自分を怒らせなきゃいいってか?

 はぁ、何?レギーナちゃんって意外とそっち系の子なの?

 まぁ、今回の決闘はレギーナちゃんの言う通り俺が悪いわけだからなぁ、まぁいいか。

 ただしイワン、お前はダメだ。)

「わかったよ。

 レギーナさんの言う通り、今回の非は俺にあるからね。

 ただ、イワン君は謝ったのに無理やり決闘に持ち込んだから、その誓約はしてほしいかな」


「話の分かる人は好き」


「なっ!?

 しゃあねぇ、俺事イワン・ボロノフはフラッドへ今後決闘の申し込みをしないことをここに誓う。

 これでいいな?

 ちなみに見届け人はお前等だからな」




 一様に皆が頷くと、それまで空気と化していたルークが口を開く。



「それでフラッド、決闘中に使ってた魔句について教えてくれるんだよね?

 正直、僕もあのクラスの魔句は早々に見たことがないから気になっていたんだよね」


「それは私も気になっていたところですわ。

 ほらフラッド、早く説明をして下さる?」



 ルークの言葉に便乗するように、説明の催促をするティア。

 他の者も同じ気持ちだったのか、食い入るようにフラッドを見つめる。

 そんな、フラッドにとっては非常に居心地の悪い状況の中、魔句についての説明が始まる。


 

 明けましておめでとうございます。本年も当作品をお読みいただきありがとうございます。

 そして申し訳ありません!

 開幕の謝罪については最後まで読んでいただいた皆様ならお分かりかと思いますが、本話、前話で決闘の説明会にすると宣言しておきながら、会話パートで終わってしまいました。

 前話を読んで説明会を期待していただいた方がには頭が上がりません。

 して、言い訳になるのですが、私一話ごとを最低2000~最大5000字で区切るようにしております。

 これについては今まで明言していませんでしたので、ご存知でなくて当然です。

 では、何故区切るようにしているかといいますと、私のスキル不足や管理などが理由になります。

 主に今回の様な会話パートが発生した際、区切りを設けないといつまでもグダグダとした話が続くことになるため、そのような措置を取っている次第です。

 本話も例に漏れずグダついてしまっているかと思います。

 そんな私の身勝手な理由でこのような形になってしまったことを、改めてお詫びするとともに次話こそは説明パートになることをお約束いたします。

 

 さて、次回の投稿予定ですが、1/12を予定しています。

 詫びついでに早くできんのかと言うご意見もあるかと思いますが、何卒ご容赦いただければと。

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