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51.決闘が始まったんだが・・・

12/30


「それでは、始め――!」



 開始の声と共に手刀が振り下ろされると、一瞬の間を開けることなくフラッドは駆け出す。

 先の測定で、イワンの戦闘技術は自分を遥かに凌駕すること、また、その戦闘スタイルはパワー型であることを知ったフラッドは、己の魔句を使う短期決戦で勝利をもぎ取ろうと考えたのだ。

 対するイワンは、最初こそフラッドの動きが予想とは違ったために小さく眉尻を上げ驚きを表していたが、それも一瞬。

 今では駆け寄ってくるフラッドを迎え撃つべく、堂々とした構えでその時を待っている。



(流石、貴族界隈で騒がれてるだけあるなぁ。

 あんまり驚いてる様子もないし、慌てた素振りもない。

 これ、勝てるかぁ?)



 がっしりと構えるイワンを見て、内心臆するフラッドだが、

当初の予定に変更はないのか勢いをそのままにイワンに近づいていく。

 彼我の距離が剣の間合い迄あと一歩と言うところでフラッドが小さく言葉を紡ぐ。



「フリーズエア」



 その言葉に反応して、二人の周囲の空気が急激に冷えていく。

 そうなることを理解しているフラッドは、その身が寒さを自覚するよりも先に、手にした剣をそれまでの勢いを乗せ横薙ぎに払う。



「シッ」



 魔句が来ることを予期していたイワンだったが、その魔句の即効性に対する驚きと急激な気温の低下により体の反応が遅れる。

その結果、本来なら難なく往なし反撃にでたであろうフラッドの斬撃を無理な体勢で受け止めることとなる。



ガンッ


「ウグッ」



 硬質な音と共に聞こえる小さな呻き声。

 体勢が体勢だけに、逃がしきれなかった衝撃が関節を襲ったが為に漏れた声。

 それはフラッドに、確かに攻撃が通じたという希望を見せることとなる。

 受け止められたことで鍔迫り合いになることを恐れたフラッドは、そうなる前にとバックステップでイワンから距離を取る。



「これが魔句か。

 意外と地味なもんなんだな。

 てっきり火の玉やら水の矢やらが飛んでくると思ったぜ」



 そう、楽しそうにそう口にするイワンは、自身の予想以上に動けるフラッドを見て、その声とは裏腹にその目は真剣そのものといった状態であった。



「次は俺の番だ!」



 そう言って駆けだしたイワンの速さは、フラッドのソレとは比較にならない程速く、そして迫力に満ちたものであった。



「クッ!」



 近づいてくるイワンに、大きな壁が迫ってくるような錯覚を覚えたフラッドは、慌てた様子で魔句を次々と唱え始める。



「ソイルウォール! クリエイトウォーター!」



 フラッドに従うように、土は隆起し腰ほどの高さの壁を作り、その先には生成された水が地面と合わさり泥濘(ぬかるみ)が出来る。



(あれを飛び超えるにしても超えた先はぬかるんでいて動き辛い。

 回り込むにしても少しは時間がかかるから、その隙に―!)

 


 フラッドが流れを予想し、それに合わせた戦術を組み立てていくが、それをあざ笑うかのようなことが目の前で起こる。



「んなもんは意味がないぞ!

 フッ!…ウゥラァ!」        バチャンッ!



 確かな呼気と共にイワンが跳躍し、壁を飛び超え泥濘にはまるかと思えば、イワンは手にした大剣を地面に叩きつけ、その勢いを利用して泥濘を抜け距離を詰めてきたのである。

 さしものフラッドも、そんなアニメや漫画、ゲームの様な動きを予想することが出来ず、目の前で起きた現象に一瞬目が点になってしまう。

 それを見て取ったイワンは、好機とばかりに先ほど地面に叩きつけた大剣を同じ要領でフラッドへと振り下ろす。



ドガッ!


 すんでのところで我に返ったフラッドは、左へ飛び退きその一撃を回避する。



(おいおい、なんだよあの動きはよ!

 魔法があるファンタジーだからって、あの動きにあの威力

 ・・・おかしいだろ!

 モ〇ハンかよ!?)



 イワンによってなされた、前世ならあり得ないような動きや、攻撃によって小さくひび割れた地面を見て戦々恐々とするフラッド。

 そんなフラッドが体勢を整えるべく、立ち上がろうとするが、未だ(イワン)の攻撃は終わっていなかった。



「カハッ!」



 回避したが為に無防備な背中をイワンへ向けていたフラッドに、強烈な鈍痛と幾時かの浮遊感が襲う。

 その感覚にいつの日かダリウスに殴り飛ばされたことを思い出したフラッドは、浮遊感の消失と共に全身を襲う衝撃から、自身が吹き飛ばされたことを理解する。

 痛みに霞視界で捉えたイワンの姿から、振り下ろした大剣をフラッドの方へ切り上げたことが窺える。

 決闘が始まって一番の状況の変化に、それまでも魔句が使われたりで少なくないざわめきが起きていたのだが、大きな盛り上がりを見せていた。

 吹き飛ばされ動きの鈍いフラッドの様子から、ギャラリーたちは決闘の終わりを確信していたのだが、対戦相手であるイワンはもちろん、審判であるレギーナの油断のない表情から、未だその時ではないと悟る。



「ゴホッゴホッ…うぅ」

(クソッ!めちゃくちゃ痛ぇ!

 これ、骨の何本か折れてんじゃねえか?

 書激に比べて威力が低いであろう二撃目でこれだろ?

 オッサンの時もそうだけど、この世界容赦がねぇよ)



 あまりの痛みに、今すぐにでも意識を手放したくなるフラッドだったが、幸か不幸かダリウスによって鍛えられた痛みに対する耐性と、ギャラリーの中で固唾を呑んでこちらを見守る三人の姿から、諦めることは出来なかった。

 会場に居る全員が見つめる中、フラッドがゆっくりと地に手をつく。

 彼の表情は誰にも窺うことは出来ないが、小さく動く顎の動きから、何事かを呟いているのが解る。

 それは、イワンとて同じこと。

 彼は次にどんな魔句が来るかと、警戒の色を濃くする。


(クソったれ、もっとスマートにやりたかったけど、現実はそう上手くいかねぇよな…

 かなり早いが()()を使うほかねぇ)

「…ソイルバインド アイスバインド」



 小さく紡がれた言葉に答えるように、地面や泥濘からそれぞれで形作られた茨がイワンを拘束する。

 それは、以前セフィラム邸で行われたスケルトン戦の時よりも太く力強いものになっており、土や氷で形成されたそれらはイワンの手や足、関節、腰に首元など身体を動かすのに必要となる箇所に巻き付いていく。

 全ての茨が巻き付くころには、フラッドの体勢も整っていた。



「はん

 拘束系の魔句か、最初の含めて地味なものが多いな。

 だが、俺にはこんなもの――」



 立ち上がったフラッドを見据え、イワンが啖呵を切ると、

イワンは拘束を振りほどこうと力を籠め始める。

 最初こそ張り合っていた茨たちだが、その身に備えた棘による抵抗もむなしく、その力が強くなるにつれ(ひび)や綻びが生じ始める。

 幾本かが断ち切れると、かかる力も増しそれに比例して崩壊が加速していく。

 その光景に驚愕を通り越し、畏怖を覚えるフラッドだが、イワンが茨の拘束を抜けきる前に、愚直に次の行動へと移る。



「アイスブレット×3 クリエイトウォーター 」



 生成された氷の弾丸は九つ、それらはどういう原理か中空に浮遊し、次の指示を待つかのようだ。

 同時に創られた水はフラッドの周囲を濡らし、先の様な泥濘を形成する。

 その様子に異様な何かを感じ取ったイワンは、ついに茨の拘束を脱すると、その何かを阻止せんと擦り傷に塗れた体でフラッドへと突撃する。



「シュート」



 イワンの脱出から間髪入れず、中空に待機していた弾丸を射出するフラッド。

 その弾丸をイワンは手にした大剣を盾にすることで防ぎつつ、距離を詰めてくる。



 ガガガカンッ

「こんなもん、いくら撃っても俺には聞かねぇぞ!」



 攻撃をものともせずに迫ってくるイワン。

 そんな彼に臆した様子もなくフラッドは攻撃を続ける。



「アイスブレット ウォータブレット…シュート

 アイスウォール …クリエイトミスト」



 氷の弾丸に混じり水の弾丸が射出されるも、大剣を盾にしているイワンの身体を濡らすにとどまる。

 それどころか、自身の退路を塞ぐように展開された氷の壁に、迫るイワンだけでなく、フラッドを除く会場のすべての人間が疑問を覚える。



「お前が何を使っても、俺がねじ伏せる!」



 それまでの攻撃から、抑え込めると判断したイワンがそう叫びながら加速する。

 彼は、自身を含め周囲が異常なまでに水気を帯びていることに気付かない。

 あと三歩でも近づけば剣が届くまで、二人の距離が近づくと、フラッドは最も真剣と言える表情で呪文を唱える。




()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 それは()()()で紡がれた魔句だった。

 フラッドの言葉に答えるように、幾本もの鋭利な氷の刃が顕現する。

 それらは、泥濘や氷壁、霧や体表等いたるところから現れ、今にもフラッドへ切りかからんとしていたイワンの身体を傷つけ動きを阻害していった。



「クォッ、んだこれ!」



 これまでの攻撃とは一線を画すそれに、動きを止めざるを得なかったイワンは、自身が動きを止めた後も続くその現象に目を見開くことしかできなかった。

 氷剣たちはイワンが動きを止めた後も増え続け、彼の首筋から足先までの全身を、その鋭利な刃で固めたのだ。

 少しでも動けば、その鋭利な刃はいともたやすく己の皮膚を切り裂くことを身をもって理解したイワンは、しばしの沈黙の後、降参を口にする。



「・・・降参だ」



 イワンの降参を聞き、レギーナが決闘の終了を宣言する。



「イワンの降参を確認した。

 これにより、A組イワン・ボロノフとA組フラッドの決闘の勝者はフラッドに決まった。

 神聖なる決闘の決まりに則り、出しうるすべてをもって勇敢に闘った二人の健闘を称え、本決闘を終了とする。」



 こうしてイワンとフラッドによる決闘は終了したのであった。



 今回も当作品をお読みいただきありがとうございます。

 本話が年内最後の投稿になるかと思いますが、戦闘回いかがだったでしょうか?

 いささか、状況としてはあっさりし過ぎだとは思うのですが、そこは私のスキルが未熟なのでご容赦いただければと。

 長期戦って正直どう書いていいのか解らないところがあるんですよね(汗)

 その点で、迫力ある戦闘を書ける作家の方々には畏敬の念を抱く次第です。


 さて、次話の投稿予定ですがいつもの流れで1/5を予定しています。

 年末年始は休日になっていますので、状況によっては投稿が早くなるかもしれません。

 一応、次話の内容に触れておきますと、本話後半の説明兼決闘後の会話を予定してます。

 いつもながらで申し訳ありませんがよろしくお願いします。


 それでは皆様、少し早いですが良いお年をお過ごしください。

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