50.決闘が始まるんだが・・・
12/22
担任ことマーシーのホームルームが終わり放課後になると、教室内は先ほど交わされた決闘の話で持ちきりとなった。
話題の矛先であるフラッドとイワンであるが、イワンの姿が教室にないことから、すでに演習場へと移動したことが窺える。
片やフラッドは、今日の測定から解った圧倒的強者との決闘にいかにして立ち向かうかを未だに思考していた。
実力差を踏まえ、フラッドには決闘中の魔句の使用が許可されて入れているが、それを加味しても勝てるビジョンが見えない本人としては、出来得れば早々に降参して終わりにしたいと考えていた。
(どうするかな~。
いくら魔句を使っていいって言われても、どうしろと?
そもそも、攻撃用の魔句なんぞほとんどと言っていい程教わってないし、使ったとしてもあの化物並みの動きで躱される気しかしないんだよな。
んん~あとは、二人に内緒で作ったアレを使うしかないけど・・・)
思いつめたように暗い顔をしたフラッドに不安を覚えたのか、隣に座るポーラが声を掛けてくる。
「フラッド、大丈夫?
イワン君はすっごく強いから、ダメだと思ったら降参するんだよ?
フラッドは謝ってるんだから、無理だと思って降参しても許してくれるよ。
…でも、やっぱりフラッドには格好いいところ見せて欲しいな」
優しくフラッドの背を撫でながら慰めてくるポーラ。
最後の小さな願望とも言える呟きは、本人は聞こえていないと思っているのだが、間近で言われたフラッドとしては聞き漏らすことの方が難しかった。
(んな事言われたら、やるしかねぇじゃねぇか)
ポーラに遅れて、ルークとティアが近づいてくる。
ティアはいつもの堂々とした様相だったが、一方のルークは今回の決闘の一因が自分にあることから、申し訳なさそうな顔をしていた。
「フラッド。何をそんなに落ち込んでいるんですの?
決闘に負けたのならまだしも、決闘の前ですわ。
貴方も殿方なのだから落ち込むより先に、闘志を燃やして決闘に備えなさいな。
それに、今回は魔句が使えるのでしょう?
貴方の魔句は誰にも引けを取らないんですから、きっと勝てますわ。
もし負けてしまったのなら、わたくs…コホンッポーラが慰めてくれるでしょう?
だから、堂々と挑んできなさい」
(今、私って言おうとしてたよな?
これって一応ティアともフラグが…
そんなことより、ティアにも期待されてんだ、ここで格好つけないと男が廃るってもんだな)
小さな失言から少し頬を赤く染めながらも、激励の言葉を送るティア。
そんなティアの言葉に、期待に、更なるやる気を漲らせるフラッド。
そんなフラッドの様子を見て、最終確認のようにルークが口を開く。
「フラッド、本当にすまない。
今回の件は僕にも大きな責任があるのに、何もしてあげられない。
正直、イワンに勝つのはとても難しいとしか言えない。
決闘の前に降参することもできる。
その上でも挑みに行くのかい?」
「あぁ。
正直、勝てる気はしない。
けど、ポーラやティアにこれだけ応援されて、負けると解ってるからって降参するんじゃ恰好がつかない。
そう囁くんだよ…俺のghostが」
「そっか。
僕もイワンには悪いけど、君が勝つことを信じて応援してるよ」
「あぁ!
それじゃぁ、行ってくる」
三人の激励を受け、やる気十分と言った様相で演習場へと移動していくフラッド。
そんな彼の背中を見送る三人だったが、彼の背中が見えなくなると、口をそろえて同じ疑問を漏らす。
「「「ghostって何?」」」
思い当たるものが、魔物のソレしか思いつかなかった三人が、フラッドはアンデット系の魔物が好きかもしれないと思う事になるのだが、当の本人がそれを知るのはかなり先の話になるのだった。
◇
ところ変わって演習場。
現在演習場の中央で二人の男子生徒が相対していた。
そう、イワンとフラッドである。
イワンは六歳にしては大きすぎるその体で腕組をしながら、つい今しがたやってきたフラッドを見据え、口角を上げる。
「放課後になってすぐ来なかったから、逃げたかと思ったぞ。」
「遅れてしまったことについては謝る。
俺も覚悟が足りなかったみたいでね。
…でも、今はこうして来てる」
「あぁ」
イワンの笑みは戦いに対する闘志に因るものか、はたまた、未だ経験のない魔句を使うものとの戦闘がそうさせるのか、フラッドの返事を聞きそれはより一層はっきりとしたものとなる。
演習場の観覧席には既にA組の生徒たちの姿があり、全員とはいかないまでも、そのほとんどが観覧に来ている様子である。
それどころか、他の組の生徒と思われる姿もちらほらと見つけられる。
「予想以上に人が来ちまったが、問題ないか?」
衆人環視の下では実力を発揮できないかと暗に聞いてくるイワンに、フラッドはゆっくりと首を振る。
「そこは気にしないから大丈夫。
因みに、この決闘って審判とか居るの?」
イワンの質問に答えながら、質問を返すフラッドに、イワンが一瞬バツの悪そうな顔をしながら答える。
「お前からすれば、卑怯とか感じるかもしれねぇが、審判にはコイツにやってもらう」
そう言ってイワンが顎をしゃくった先を見ると、先ほど、イワンと共にフラッド達を糾弾していたレギーナの姿があった。
レギーナは二人の丁度真ん中に当たる位置へ移動すると、立ち止まり口を開く。
「私がこの決闘の審判をする。
私は君の事を許したし、戦いにおいて不正は嫌い。
だから平等に見る。
それに、私なら二人の動きを見失わない」
淡々とそう述べる彼女は、自分を信じて欲しいと真っすぐとフラッドを見つめる。
先程の件があったと言っても、色白で端正な顔立ちの所謂美少女に見つめられたフラッドは、頬を薄っすら紅色にしながら頷く。
(クゥ・・・そんなに見つめられたら、NOって言えねぇだろ!
鼻からその点は気にしてなかったからいいけどよ。
しかし、これも含めて作戦だったら、それはそれで凄いと思っちまうな)
フラッドがそんなことを考えている内も、レギーナは確認の意味も込め淡々と言葉を発していた。
「彼の了承も取れた。
ここの使用許可も貰ったし、使用事由も報告済み。
怪我を負った際の医務室への依頼が未だだけど、応急処置なら私が出来る。
二人からそれ以外で何かなければ、このまま決闘を始める」
そう言い、二人の顔を交互に見るレギーナ。
そんな彼女の問いに答えるように、二人は静かに頷く。
決闘直前の緊張感からか、その二人の返事に音はなく、ギャラリーのざわめきだけが聞こえる静けさが場を満たしていた。
二人が各々の獲物に手を添え、万全の体勢になったことを確認すると、レギーナは声を張り、開始の宣言をする。
「これより、A組イワン・ボロノフとA組フラッドの決闘を開始する。
ルールはどちらかが倒れるか降参をするかで勝敗を決す。
今回はハンデとして、フラッドの決闘中の魔句使用を許可以上遵守の上、戦いに挑むよう。
それでは、始め――!」
勢いよく振り下ろされた手刀とともに決闘が始まった。
お読みいただきありがとうございます。
投稿者、現在、急性胃腸炎と謎の発熱に苛まれて碌に頭が働いていなかったりします(笑)
なので、言い訳になってしまうのですが作中で、いつも以上におかしな文面があるかと思います。
そう言ったものがあればどうにか教えていただけると幸いです。
体調が回復次第修正していきたいと思います。
また、本話が決闘(戦闘シーン)と期待されていた方々。申し訳ありません!
次話は確実に戦闘シーンになると思うので、もう少しお待ちいただければと。
さて、次話の投稿予定ですが12/29ではなく12/30を予定させていただきます。
所用があり、どうしても投稿が出来ないと思いますのでそこはお許しいただければと。
そして、年内にどうにか50話目を上げることが出来ました。
これも、応援していただいている皆様あっての事です。今後も精進していきますのでどうぞよろしくお願いいたします。




