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5.ようやくできた状況整理

 ガラッド達親子がダリウスに絡まれ、会話に参加してから早数刻。最初の頃は酒場の売り子の呼び声や、そんな売り子に足蹴にされ叫ぶ酔っ払いの声、それを見て笑う者たちの声などが混ざり合った、夜特有の喧騒が壁越しに聞こえていたが、今では外は静寂に支配されている。

 しかしそんな外の静寂とは裏腹に、二組の家族は楽し気な雰囲気で会話に興じていた。



「――ということがあってな。俺は九死に一生を得たんだ!

 それからはお前たちの知るように・・・」


「――ダリウス、それはこの前も聞いたよ。

 君が何度もエリーゼさんにプロポーズして、余りのしつこさに折れたエリーゼさんと結婚し、今に至るんだろ?

 こう何度も同じ話を聞けば嫌でも覚えてしまうよ」



 酒気を帯び少し赤くなったダリウスが語るエリーゼとの馴初めに、呆れた様子で返すガラッド。その会話を聞き、同じく呆れるフラッド。



(あのおっさん、さっきからその話ばっかだな。

 どこの世界も酔っ払いは同じなんだな。)



 そんな彼を見つめ続ける存在が居た。



「………」 ジィーー


(それで、俺はどうすればいいんだ?

 さっきからあの赤ん坊、こっちをずっと凝視してきやがる)



 彼を見つめ続ける存在とは・・・そう、ポーラと呼ばれた赤子であった。

 彼女はガラッド達が会話に加わり少しして、泣き止んだかと思えば、それから今の今までフラッドのことを見つめ続けていたのである。

 そんな彼女の視線に痺れを切らしたフラッドは、行動に出る。



「んみ」

(ん~、自分と同じような存在に興味が湧いて凝視しているのか、はたまた敵か何かと思われているのか・・・

 もしかして、俺に惚れたとか?

 …いや、それはないな

 しかも相手は赤ん坊だぞ?赤ん坊に惚れられても何も嬉しくないだろ!

 取り敢えず手でも振ってみるか?)


ファサファサ


「……んへっ!」 プイッ!


「みゃっ!?」

(なんだあの赤ん坊!?

 こっちが気を遣って手ぇ振ってやったのに、そっぽ向くとか感じ悪ぃなぁおい)



 小さな顔を勢いよく他所へ向ける、彼女のあんまりな態度に思わず声を挙げるフラッド。

 予想以上に大きく出た彼の声に、大人たちの関心は会話から子供たちへ移る。



「――ふふっエリーゼは旦那様に愛されてるのね?

 ってあら?どうしたの?」


「――愛されてたらさっきもしっかり心配・・・

 ん?ポーラもなんでそっぽ向いてるの?」


「「どうしたん(だい)?」」


「えぇそれが…」



 我が子たちの突然の行動に、意図が掴めない大人たち。

 それから考えること幾ばくか。

 あることを思い出す。



「そういえば、この子たちにそれぞれの紹介をしていなかったね」



 そうガラッドが言ったことで、大人たちは気づくのであった。

 子供たちからしてみれば、知らない人間が3人もいるという状況に。

善は急げと言わんばかりに子供たちへお互いの紹介を始めた。



「そうだったな!早速だが、坊主。俺はダリウスだ!

 お前さんの親父と同じく――」



 こうして、フラッドが長らく待ち望んだそれぞれの紹介を受けたことで、3人がどういった人物なのかを理解する。

 まずはダリウス。

 彼はどこかくすんで見える鈍色の短髪と影の差したような暗い橙色の瞳を持ち、誰もが自然と姿勢を正してしまいそうな厳格な雰囲気を醸し出している。

 日にでも焼けたのかその肌は健康そうな小麦色をしており、彼の大柄な体格と相まってまるで、圧制者はいないか!と叫ぶ剣闘士を思わせる。

 会話するときの言動から、かなりガサツな性格であることもわかった。

 続いて、エリーゼ。

 肩で切り揃えられた絹のようにサラサラと美しい銀髪と、二の腕やふくらはぎから垣間見れるしなやかでありながらも力強さを感じさせる筋肉、そしてスラっとした無駄のない身体。

 例えるならば、明るい毛並みのコラットをそのまま人にしたかのようである。

 そんな彼女の持つ山吹色に輝く瞳は、見られたものに鋭く刺されたような感覚を覚えさせるだろう。

 そして、最後にポーラ。

 彼女は母親であるエリーゼの遺伝を濃く受け継いでいるようで、髪は絹のようにサラサラとした銀髪で、母親同様右目尻に小さなほくろがある。

 瞳は上手く混ざったのか、見たもの全てを見通すような澄んだ琥珀色をしている。

 母親譲りのつり目と父親譲りの高い鼻は、将来彼女がひとかどの美少女になると誰もが思うことだろう。

 また、この三人がフラッドの家の隣に住んでいることや、ダリウスがガラッドと同じく領主の下で働いていることなど、おおよそフラッドが知りたかったことが分かったのであった。



「バブ」

(――よし。おおよそこいつ等がどういった立ち位置かは理解した。

 あとはアレだな。母さんが使ってた魔法。

 アレについてわかれば申し分ないな。

 ・・・鬱陶しいなこいつ)



 フラッドが話を聞いている段階からポーラはエリーゼの手によって彼の隣へと運ばれていた。

 そしてフラッドが考えをまとめている間、やることのない彼女はフラッドの身体を撫で、突き、時には赤子特有の、涎でべたついた口を擦り付けたりと様々な行動をする。

 結果として彼の衣服や顔はテカテカと輝こととなり、それは思考の海に沈んでいた彼を呼び戻すに充分な行為であった。



「みゃや!きゃっきゃっ!」


「ぴぃっ!?なうまっ!」

(やめろ!?その唾液でテカる指をこっちに近づけるな!)


「きゃう?あいっ!」



 そう声を挙げると、ポーラは己が唾液に塗れた指を勢いよく突き出すのであった。



「マッ!にうmッ~~~!」 ズポッ

(ちょっ!まじd~~~!)


「あふぁひゃひゃひゃ!」



 指を咥えさせられとても不満そうにしているフラッドを見て、ポーラは楽し気に笑うのだった。


 そんな二人のやり取りを尻目に、大人たちは別れの挨拶をする。



「ガラッドさ~ん。そろそろお暇するね~

 それでちょ~とお願いなんだけど、そこで赤くなって夢見てるソレを家に運ぶの手伝ってもらえないかなぁ~とね?」



 そうエリーゼがお願いすると、酔いつぶれたのか茹蛸のように真っ赤になり、ゴニョゴニョと何かを呟きながら気持ちよさそうに寝ているダリウスを、ガラッドは呆れたように眺めながら答えるのだった。



「わかったよ。

 多少引きずるようにはなるけどその点は見逃してほしいかな」


「ありがと~!

 引きずるのは起きないコレが悪いから気にしなくていいから」


「ははっ。それじゃあ私は先に彼を運んでおくね?

 ダリウス、たまには奥さんに何かしてあげたほうが良いと思うよ?」



 そうダリウスの耳元で囁きながら、ガラッドは隣家まで引きずって行くのであった。



「よろしく~。

 じゃあポーラ、もうお家に帰る時間だから、フラッド君にバイバイしてね?」


 エリーゼが語り掛けると、どういうわけだかポーラはフラッドにしがみつくようにして離れなかった。



「まうっ!グスッグスッ」 ガシッ


「にょっ!」

(いや、しがみつかんでいいからはよ帰れよ)


「いつの間にそんなに仲良くなったの?

 ほらポーラ、帰らなきゃいけないの!フラッド君を離して?」


「マッ!にゅぅぅぅ!・・・あぅぅ」


 ポーラは自分を抱きかかえようとするエリーゼに抵抗し、より強くフラッドにしがみつくと、最後は何か懇願するような瞳でフラッドのことを見つめるのであった。



「なうぅ」

(俺は何を求められてるんだ?)



 彼女が求めているものが解らず、悩むフラッド。

 ふと前世テレビ番組を思い出し、行動に移す。



「まにゃ?」

(これでいいだろ?)



 そっとポーラの頬を撫でながら囁く。

 その行為に満足したのか、ポーラは手の力を抜き、笑うのだった。



「にゃ!きゃっきゃっ!」


「はぁ。やっと離したぁ~。

 今のうちに帰っちゃうわね。

 フラーナ、フラッド君また今度ね!

 ほらポーラ、バイバイは?」


「――あうあ~」 フリフリ


 そう言うと、母子は家路についた。



「ええ、またね。

 ふふっ。フラッド貴方もいけない子ね?」


「まぁ?」

(なんのこっちゃ?)


 なにか面白いものでも見たのか、どこか楽し気に語り掛けるフラーナが気になりつつも、長い一日が終わるのだった。



お読みいただきありがとうございます。

前話あとがきでも記載しました通り、現在地の文を模索中です。読みずらいかと思いますがご容赦願います。

誤字・脱字等、ご指摘いただいたものに関しては極力修正していく予定ですのでよろしくお願いします。

次話は1/27を予定しています。


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