49.話を聞かれていたようで、絡まれたんだが・・・
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「「おい」」
後ろから掛けられた、つい先刻耳にしたものと同じ声に、フラッドは嫌な予感を覚え、身を硬くしつつゆっくりと後ろを振り向く。
振り返ったその先には、先ほどまでの話を聞いていたのであろう、険しい表情でこちらを見据えるイワンとレギーナの姿があった。
掛けられた声の雰囲気とその表情から、二人が大層腹を立てていることが容易に窺える。
「や、やあ。確かイワン君とレギーナさんだよね?
さっきは凄い活躍だったね!
どうやったら先生相手にあそこまで動けるのか聞きたかったんだ。
俺はあんなに上手く立ち回れないから、正直憧れちゃうよ。
ところで二人は――」
二人から漏れる怒気に当てられ、ぎこちない笑みを浮かべながら返答するフラッド。
なるべく穏便に事を進める為に、二人に称賛の言葉を送るフラッドだったが、それがいけなかったのだろう。
イワンは最初、焦れったそうに話を聞いていたが、それも我慢が出来なかったのか、フラッドが話し終える前に断ち切る。
「そんな御託が聴きたくて来たんじゃねぇ。
お前等、いやお前、俺たちの事を何て言った?」
「い、いやぁ~他に比べて頭一つ抜きんでた実力だなぁと」
(これは絶対、化け物っていったことについて怒ってるよなぁ・・・)
イワンの詰問から逃れらないと知りながらも、白を切ろうとするフラッド。
その視線は大いに泳いでおり、どんなに鈍い者でもお茶を濁そうとしているのが解ってしまう程にあからさまな態度であった。
そんなあからさまな姿を晒すフラッドに、更に苛立ちを覚えたイワンは感情のままにフラッドへ詰め寄ろうとする。
「おい、いい加減にしろよ?」
二人の距離はどんどんと狭まっていき、互いが手を伸ばせば届いてしまう程になったその時、それまで無言の圧力を放ちつつも成り行きを静観していたレギーナが二人の間へ身体を差し込む。
「イワン、コレにイライラするのは解るけど、それはダメ」
話の流れから自信を襲ってくるのを予想し身構えていたフラッドは、自身とイワンの間に割って入ったレギーナへ髪でも見るかのような視線を向ける。
しかし、その後に続いて聞こえたその言葉と、薄っすらと浮かぶ青筋を見て、それも幻想であると悟る。
「君は私たちの事を化け物と呼んだ」
動きの乏しい表情で淡々と述べられるその言葉は、話し手である彼女の雰囲気から、事情を知らない者からしてみれば、ただただ事実の確認を行っているようにしか聞こえなかっただろう。
しかし、それはあくまで事情を知らない者からしてみればの話である。
この状況の当事者であるフラッドからすれば、その姿はただ怒鳴られるよりも相当に恐ろしいものであった。
「私たちからすれば、そんな言葉は今まで聞き飽きるほど聞いてきた。
それにこれからも聴くと思ってる。
だから、努力を知らない人の言うことは気にしないし、どうでもいい。
でも、君は、君たちは違う。
ここに居る以上は、そう言うことにも理解があると思ってた。
特に君は。
だから、私達は君の言ったことが許せない」
淡々と、されど強く語られるそれに、彼女がどれほどその言葉に怒りを覚えたかが伝わってくる。
状況が火を見るよりも明らかに悪化していることに、フラッドは内心で慌てふためきつつも、別の事に驚愕を覚えても居た。
(やばいやばい。
これは学院生活始まって早々やらかしたとしか言えねぇ
バカ貴族とかならまだしもこの二人となると・・・
どう謝ったもんか、、、てか今更謝っても遅いよなぁ?
――しかし、それはそれとして、コイツ等本当に6歳だよな?
いや、何回驚くんだって話だけど、普通に考えておかしいだろ。
俺は例外として、何でこんなに大人びてるって言うか、理性的なん?
俺が6歳のときは、なんかこう…感情のままにって感じだったぞ?
もしかしなくても、俺が勘違いしてるだけで、このクラスに居る奴にとってはこれが普通なのか?
でも、ポーラはそうじゃないんだよなぁ・・・)
フラッドの思考が、相対する二人への対処から、そのあまりにも早熟すぎる考え方に移行すると同じく、状況にも変化が生じる。
「おい、聞いてるのか!」
フラッドの悪い癖とも言える長い思考の旅に、話を無視されていると感じたイワンが大きな声を張ったのである。
その声に、それまでただの会話だと気にしていなかった他のクラスメイト達の注目が集まる。
(ハッ!いかん、いかんまた考え込んぢまった
あぁ~激おこぷんぷん丸だわ)
クラス同様、その声で我に返ったフラッドは、己の失態により更に悪化した状況に後悔をしながら、返事をする。
「その、すまないと思ってる。
俺の発言も、それについて二人が怒る可能性を考慮しなかった点も、本当に申し訳ない」
遅いと思いつつもフラッドが素直に謝罪を口にすると、それを聞いたレギーナの表情から険が抜ける。
しかし、もう一人の当事者たるイワンは許すことが出来なかったのであろう、些か怒気は薄れてはいるが未だ表情は険しいままである。
「君の謝罪は受け取った。嘘じゃないのもわかった。
だから許す。
でも、次はないから」
一拍の間を開けて放たれたレギーナの赦しの言葉に、そっと胸をなでおろすフラッドだったが、最後に添えられた言葉と共に向けられた殺気ともとれる圧に、刃物で首筋をそっと撫でられた気分になる。
「あ、ありがとう。」
レギーナの赦しに対し、何とか感謝を口にするフラッド。
これで、揉め事も終了と言った空気がクラス中に蔓延する中、何処からかボソボソとした声が聞こえてくる。
次第に大きくなっていくソレは、徐々に周囲の者にも聞こえるようになり、全ての者が知覚したとき、それはピークに達する。
「――いかねぇ。納得いかねぇ!」
先程から聞こえていた声の主であるイワンが、吠えたのだ。
レギーナとのやり取りから我慢をしていたのだろうイワンは、そう吠えるとフラッドとの短い距離を埋めると指を突きつけ声を上げる。
「俺はお前に決闘を挑む!」
声高らかに宣言された決闘に、ある者は驚愕し、またある者は興奮しと、周囲はどよめきに包まれる。
決闘を挑まれた当事者たるフラッドは、突然の出来事であったことと、彼我の実力差を理解していたことから、呆けたように口を大きく開けてしまう。
そんな、誰もが驚愕や興奮から身動きが取れない中、それまで事の成り行きを眺めていた者が口を開く。
「イワン、君が納得できないのは解るが、流石にそれは無理があるよ。」
そう口にしたのは、ルークであった。
「確かに、互いの意見が割れた時などは決闘によってそれをはっきりさせることは、一手段として正しいと思う。
だけど、今回フラッドは自分の非を認めている。
その上で行う決闘に、意味はあるのかい?
まして、つい先刻お互いの実力差も証明されてしまった以上それは、弱者を屠ることと同じではないか?
だからこそイワン、ここで君が――」
ルークがどうにか説得を試みていると、それを遮るようにイワンが声を張る。
「それが納得いかないんだ!
ルーク様、あんたは何でソイツの味方なんだ?
確かに、平民の出身で、それだけの能力があれば、そりゃ面白いだろうよ。
だから、あんたが近くに居るのはまだわかる。けど、今は違うだろ!
あんたは他人を見下したり、決めつけで物を考えない、それでいて、間違ったことは正そうと行動する人だっただろ!?
そんなあんたが、コイツが俺たちの事を化け物と呼んだ時、注意をしなかった。
その上で、今はコイツを庇う!」
堰が外れたかのように、感情のまま言葉を吐き出すイワン。
その対象たるルークもどうにか弁明をしようと言葉を発するのだが、それは火に油を注ぐ形となってしまう。
「あの場で僕が仲裁に入るのは適切でないと判断したから、状況を見守っていたんだ。
決してフラッドに肩入れしているわけではな――」
「なら、なんで今は庇おうとするんだ!」
「それは、先ほど言った通り本来決闘はお互いに意見を譲らない時に生じるものであって、今回に関しては、既にフラッドが非を認めている。
それに、君と彼では実力差があるから、一方的な展開に成りかねない。
だからこそ――」
「それは解ってんだ!
だけどな、俺の事も考えろ!
付き合いで言えば、俺やレギーナの方がソイツよりよっぽど長いはずなのに、あんたはソイツを注意することもなく、庇う。
その事に納得なんてできるか!」
「ッ!?」
正面からダイレクトに嫉妬の感情をぶつけられたルークは、そう思ってもらえるほどの友人になれていたことに喜びを感じつつも、彼の言っていることが出来てしまい、どう反応することもできなかった。
「それに、ルーク様は言わなかったが、決闘は双方の同意があればできる。
つまり、コイツが受ければそれで成立するんだ」
そう言い、ジッとフラッドの瞳を見つめるイワン。
そのフラッドは、ちらりとルークの方へ一瞥を送るも、そのルークは、自分の行為にも非があることを理解し、これ以上はと首を振っていた。
ルークを除く、他の助け舟もないことを理解したフラッドは、今後の学院生活の為にも決闘を受ける決意を固める。
(そもそも、A組だからと言って努力やなんだ、理解が云々を期待すること自体がおかしいと思うんだが・・・
はぁ、ここで受けておかないとこじれた上に修復が効かないくなりそうだしなぁ。
受けるとしますかぁ。何かハンデ貰えねぇかな)
「その決闘、受ける。
ただ、ルークが言ったように俺とイワン君じゃ実力差が大きすぎるから、何かハンデが欲しいんだけど?」
ダメ元でフラッドがそう頼むと、イワンは少し考えた後、一つの案を口にする。
「お前は魔句が使えたよな?」
「あぁ」
「なら、今回の決闘。
お前は魔句も使っていいってのはどうだ?
そうすれば、差は縮まるだろ?」
(ん~
魔句が使えると言ってもなぁ
ただ、何もないよりはマシだからこれで行くか)
「わかった。それで行おう」
フラッドの同意によって、決闘が成立する。
貴族間でも滅多にないのか、にわかに浮足立つクラスの面々。
そんな祭りの前夜と言わんばかりのクラスを置き去りに、イワンが内容の確認をする。
「決闘は、今日の放課後。
場所は演習場。
ルールは、どちらかが倒れるか降参するかによって判断。
ハンデとして、フラッドの決闘中の魔句使用を認可。以上で良いな?」
「あぁ」
「ここに約束は交わされた!
・・・放課後、演習場で待っている」
イワンは宣誓の様なものを済ますと、自席へと戻っていく。
それを機に沸き立っていたクラスメイト達も席へと戻る。
全員が着席を済ませてから数分後に、マーシーが戻りホームルームが始まる。
その最中、フラッドはいかにしてイワンに対抗するかを考えるのであった。
遅くなりました!
今回も当作品をお読みいただきありがとうございます。
前話後書きで記したスキルアップですが、実際、作話の基礎についての参考書を読み、それを基に本話を作成した次第です。
まだ、参考書自体を読み終えていないため大きな変化はないと思いますが、少しでも改善されていれば幸いです。
改善どころか改悪だ! 変わってないよ! って形なら非常に申し訳ないです//更に勉強をします
さて、次話の投稿日ですが12/22を予定していますので、よろしくお願いします。
誤字脱字報告や感想など継続して募集していますので、余裕がありましたらそちらもよろしくお願いします。
※決闘の内容で出る、『演習場』は44話で生徒たちが測定を行った『稽古場』になります。
今後は『演習場』を主として使って行こうと考えています。




