47.クラスメイトが凄いんだが・・・
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ガンッ
硬質な、金属を殴りつけるような音を立てながらぶつかり合う剣と剣。
今、フラッド達の前で繰り広げられる模擬戦は、開始からすでに30分以上が経過していた。
半分の生徒たちが模擬戦を終え、そのどれもが長くとも10分程度であったにも関わらず目の前のコレはそれを超え、今なお続いている事実に息を呑むA組の面々。
相対しているアイザックも、それまでの子供相手が故のかなりの余裕が見て取れる表情ではなく、一剣士と相対するような真剣そのものと言った表情に変わっていた。
齢6歳にして、本気とまではいかないまでも大人をその気にさせるほどの実力に、フラッドは下を巻いていた。
(アイツ、えぐい程に強いな。
え?本当に俺と同年代なんだよな?
俺の喋りについては前世の知識があるからアレだけど、剣技や剣術で、大人相手に張り合えるって化け物だろ!?)
A組の面々が食い入るように見るなか、アイザックが鍔迫り合いからバックステップで距離を取ると、手にした大剣を納刀する。
「さすがぁ、戦闘技術で文句なしの満点を取るだけあるな。
俺も少ぉし力を入れちまった。
レギーナ・ヴェルテ、お前さんは今後、実技Aで学んでもらう。
よし、次!」
アイザックからの評価を受けた彼女は、軽く頷くと、腰まで伸びた栗色の髪を風になびかせながら、列へと戻る。
そんな彼女の姿は、絵物語で聞く戦乙女を思わせ、その技術も相まって、見る者に畏敬の念を抱かせた。
中にはそれを通り越し偶像視する生徒たちも見受けられたが、当の本人はどこ吹く風と、気にした素振りもなく平然と次の模擬戦を眺めている。
(レギーナ・ヴェルテ。
無口で強い、孤高の騎士って感じだなぁ。
前世での俺なら、仲良くなって、俺にだけよく話すようになって、キャッキャうふふと妄想が捗っただろうが・・・
今じゃあ、話しかけるのは良しとしても万が一を考えるとそれ以上は怖くて堪らん。
あれだけの剣戟を披露するだけでなく、大剣をただの直剣で受け止めんだぞ!
そこには熊先生の力が加わってんだ、どんな膂力してんだよ!
それに、あれだけやって呼吸もそんなに上がってねぇ。
下手なこと言ったらソレが俺に向くんだろ?
・・・あぁ、恐ろしぃ。
ただまぁ、見た目はなぁ…結構好みだったりするんだよなぁ)
フラッドが妄想とも誰に向けた言い訳とも言えないことに思考を割いていると、隣から小さく抑えられた声がかかる。
「これで、実技Aは4人だね。
今のところ彼女が一番強いのは、模擬戦の結果からも、先生の言った試験の評価からも伺えるね。
次点で言うとイワン君かな?」
そうルークに話しかけられ、イワンの模擬戦を思い出すフラッド。
バーミリオンカラーの角刈りに、煤色の瞳を持つ彼は、アイザック同様、大剣で模擬戦に挑んでいた。
そのガタイの良い身体によって振り下ろされる大剣は、アイザックの大剣と交差すると、レギーナの時とは比較にならない程の音と衝撃が周囲を襲った。
その後力に任せた威力に突出した剣戟で、果敢にアイザックへ攻め入るも、何振り目かの大振りな攻撃を繰り出したとき、もう十分と言った表情を浮かべたアイザックに足を払われ、終了となった。
技術面に問題はあれど、年齢に見合わないその膂力を評価され、実技Aの判定を貰っていた。
レギーナの模擬戦が始まるまで最も長く続いたのが、イワンのものだったことから、彼も年齢に見合わない相当な実力を持っていることが窺えるだろう。
「そうだな。
と言うよりも、俺の気のせいでなければ化け物クラスが多くないか?
俺たち、まだ6歳だぞ?
模擬戦用でも金属製だぞ?相当な重さだ。木剣とは訳が違う。
それを、あんなに軽々と振り回すだけでなく、しっかりと当ててんだ。
どう考えてもおかしいだろ」
技術測定上位の実力に理不尽を覚え、語気を強めに返すフラッド。
そんな彼の様子は何ら可笑しくないのだろう、ルークも苦笑いを浮かべる。
「二人は例外みたいなものだよ。
何せ、ここに来る前から色々と期待されて、貴族の間じゃそれなりに有名だったんだ。
だからこそ、二人は例外なんだよ。
それに、他の二人は強いと言っても彼らほどではなかっただろう?」
ルークに言われた通り、四人いるうちの他の二人は、レギーナとイワンに比べ、お世辞にも強いとは言えないものだった。
しかし、それでも他の生徒と比べれば長くアイザックと模擬戦を続けられていたし、足運びや剣筋なども他と比べ様になっていた。
「本来はあれぐらい動けるだけでも凄いんだ。
僕だって、あそこまで動けるかと聞かれれば難しいと思う。
あの二人はは才能や身体、環境、全てにおいて恵まれていたんだ。
そのどれか一つでも欠ければ、あそこまで強くなれない程にね。
それ故の前評判で、今の評価な訳だよ」
ルークの解説ともつかない話に、彼らがどれほどのイレギュラーか理解したフラッドは、それと共に、自分にもそんな環境があればと、嫉妬ともとれる感情を抱いていた。
◇
その後順調に技術測定は進んでいき、魔句で実力を示したティアは、実技の方はそうでもなかったようでDに、逆に両親ともに騎士であり、それも隊長クラスであるポーラは、血筋による才能と今まで教わってきたのだろう戦闘技術を遺憾なく発揮し、Aの判定を受けていた。
ルークも家柄からして相当な教育を受けていたのだろう、本人は難しいと言っていたのにも関わらずAに選ばれていた。
フラッドは、ティア同様に魔句がメインになるのだが、いつかのジャイアントローチ戦やダリウス直々の特訓などの経験から、ギリギリBに選ばれていた。
その際、自分と同等か高くともCだろうと予想していたティアが、予想が外れ悔しそうにしているのを見て、フラッドがドヤ顔をし、小さな諍いが発生したのだが、それを除けば何事も無く終わりを迎えた。
「これで技術測定は終わりだぁ!
今年の一年は結構豊作じゃねぇか!
頭が良いのも居れば、魔力が高ぇやつも居る。
んでもって、戦闘技術も高い!
こりゃぁ、学院史に残る傑物が何人も生まれそうだ」
その未来予想に興奮を禁じ得ないのか、豪快に笑うアイザック。
その隣では、自分の受け持つ生徒たちの実力に、同じく興奮しているのか、目を血走らせ、鼻息を荒くするマーシー。
そんな二人の様子も仕方がないもので、このA組において実力判定の最低がEなのである。
非常に稀なことで、例年A組であっても、個人の得意不得意からどうしても最低ランクであるFが出てしまうのだが、今回フラッド達を含むA組はそれがない。
その事実は、学院の意向に共感し、優秀な人材を輩出することを是と考える職員たちにとって、大変喜ばしいことであった。
国の成長を喜ぶ者や、優秀な生徒を育成したと評価されることを望む者、ただただ自身ではたどり着けなかったその道の頂を見ることを望む者など多岐に渡るが、全てにおいて共通することは元が優秀であればあるほど、そこへたどり着くまでが早くなるということ。
だからこそのこの喜びようだったのだ。
「うし、そんじゃ今後は割り振られたレベルに応じた実技クラスに行くとして、Aになったやつら!
お前らは十分に強いがそれ以上になれる、これからビシバシ鍛えてくから、ちゃんとついて来いよ?
その他の奴らも、ちゃっちゃと吸収して追い付いて来い!
はぁ、今から楽しみでしかたねぇ!」
アイザックの鼓舞激励にやる気を漲らせる生徒達。
一部、実技を苦手とする生徒たちが暑苦しそうな表情を浮かべていたが、その瞳には静かな闘志が宿っていることが解る。
A組に入る者は、総じて向上心が高いのである。
かく言うフラッドも実技Aを目指すべく闘志を燃やしている。
その後、アイザックによって各実技クラスの場所やらの説明を受け、解散となったのだが、その間マーシーがいつものように自分の世界に浸っていることについては誰も触れることは無かった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
ようやく測定が終わりました。測定にどれだけ話数を掛けるんだって話ですよね(汗)
次話については、現状特に思いつかないので、通常授業などの学院風景を書こうと思っています。
もしかしなくてもグダグダする可能性が高いですが、そこはご愛嬌ということで・・・(笑)
さて、次話の投稿予定ですが、12/1を予定しています。
また、誤字脱字報告などについても継続して募集してますので何卒よろしくお願いします。
キャラクターが増えてきて設定などに頭を悩ませ始めている私ですが、今後とも当作品をよろしくお願いします。




