45.魔宝玉へ触れたんだが・・・
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フラッドが意を決し、魔宝玉へその手を触れさせると、一拍の間の後に、一面を光が照らした。
「うぉっ!?」
その光は、底冷えするような寒さを覚えさせる青紫色の光で、その眩しさは、言うなれば車のライトを正面から浴びたかのようであった。
ティアの時の様な蛍光灯程度の光を予想していたフラッドは、予想外な、それも目の奥がキンと痛むような眩しさに襲われ、小さな悲鳴を上げながら手を翳す。
クラスメイトも同様なようで、光に目を閉じるフラッドの耳に少なくない悲鳴が聞こえてくる。
その中には某天空城の大佐の様な悲鳴もあり、思わず笑いそうになってしまうフラッドだったが、直後に飛んできたマーシーの指示にそれも落ち着く。
「フラッド君、早く手を放して!」
言われるがままにフラッドが魔宝玉から手を離すと、光源とも言える魔力が無くなった為、光が消えていく。
ティアの時もそうだったのか、ある一定以上の魔力保持者が触れると、その魔力が残留するのか、放たれた光は魔宝玉から手を放してもすぐには消えず、徐々に弱くなり、最終的に消えていく。
周囲が窺える程度には光が治まったタイミングで、フラッドが周りを伺うと、ほとんどの者が目を手で覆っていたり、瞬きを繰り返していたりと言った様子だったのだが、その中に二人、何事も無かったかのようにこちらを見ていた者が居た。
その内の一人であるティアは、フラッドが自分より上であると認識していた為、この惨状を予想していたのだろう何かしらの手段をもって目を守ったのだろう。
残るもう一人は、ポーラと思いきやルークであった。
彼も、直前のティアとフラッドのやり取りから察したのか目をその脅威から守っていたのだ。
そんな彼の表情は、少しやりすぎでは?と言う気持ちがそのまま表れたような、引き攣った笑みを浮かべていた。
かく言うポーラは、光を直視した為か、他の面々同様瞬きを繰り返していた。
「ティアさんだけでも驚きだったけれど、フラッド君、貴方はそれ以上よ!
貴方はティアさん同様宮廷魔術師団に入団できるのは当然として、研鑽を積めば、師団長は無理でしょうけど副師団長辺りになら成れると思うわ!」
ティアの時以上に興奮した様子でそう語るマーシー。
彼女も光を直視した為か、軽く眉間を揉みながら語っていた。
「――嗚呼、素晴らしいわ!
今年の新入生はとても優秀!
彼らが活躍すれば、その担任である私の評価も自然と上がっていって・・・フフフッ
それ以上にこんな世代に巡り合えたこの喜びは――」
誰も止める者が居ないマーシーの語りは、何時しか独り言と言う名の妄想へと変わっていった。
そんなマーシーの様子に目もくれず、フラッドはふと疑問を覚え、質問をする。
(みんなの反応からして、結構上だってことが判ったし、
これだけ魔力があるのも珍しいってことも判った。
けど、何で魔術師団長にはなれないんだ?
血統とかが影響してんかね)
「先生、何で副師団長なんですか?
師団長ってやっぱり貴族出身でないと成れないんですか?」
自負からか願望からなのか、そう質問するフラッドに対し、マーシーはキョトンとした顔で答える。
「え?
特に師団長になるのに出自は関係ないわよ?」
(出自が関係ない?
それなら、研鑽を積めばなれるんじゃないのか?)
「それなら、俺…僕でも成れるんじゃないですか?」
「んん~、確かにフラッド君の魔力量は、他の魔句師と比べると多い方なのだけど」
「それなら!」
「それでも、なれるとしても副師団長までね」
(訳が分かんねぇ!一般的な魔句師より魔力があるんなら、それこそ経験を積んで技術を磨けば成れるもんだろ!)
「なんでですか!」
「なんで?ん~・・・なんでかぁ・・・
単純に言って魔力量が圧倒的に足りないのよ」
(は?)
「は?」
マーシーから告げられた答えに、思考が止まり目が点になるフラッド。
クラスメイト達も同じだったのか、一部を除き、疑問に頭を傾げる。
そんな彼らの様子を見たマーシーは、少し考える素振りをした後、徐に口を開く。
「これは、もう少し後の授業で説明しようと思っていたのだけど、魔句師にも冒険者のようにランクがあるの。
ランクについては、冒険者のランクと同じでFから始って、最高がSよ。
ランクの上昇についても、実力が認められれば、それに応じて上がっていくの。」
(魔句師にもランクがあるんだな・・・
ザック達との冒険者活動もあるし、並行して上げていかないとな)
「だからFからAまでは、その人の努力次第で変動するわ」
(FからAまで?
となるとSにはどうやって上がればいいんだ?)
説明を聞いていた誰しもが思ったであろうその事に、質問が上がるのは当然と言えよう。
「せ、先生ぇ~、えっとSランクにはどうやって上がるんですか?」
そう質問を口にしたのは、初日の入室時に慣れない視線に緊張し身を硬くしていたニックであった。
ニックは、当初と変わらずおっかなびっくりと言った様子で質問を口にしたのだが、前髪の間から覗くその瞳は真剣さに満ちていた。
質問をされた当のマーシーも、質問が出るのは予想していたが、ニックがそれを行うとは予想していなかったのか、その目が軽く見開かれていた。
すぐにそれた思考を戻す為、マーシーは頭を振ると、ニックの質問に答える。
「ニック君良い質問ね?
皆も話を聞いて同じことを思ったと思うわ。
これから、その疑問について答えるのだけれど、それがフラッド君の言った師団長になる条件の答えでもあるから、興味の有る人、特にフラッド君はしっかり聞くように」
(先生、その言い方だと俺が問題児みたいに聞こえるからもう少し表現換えてくれ)
名指しのされ方に不満を覚え、内心でため息を履くフラッドだったが、マーシーの説明が始まるころには、その表情は真剣な物へと変わっていた。
「皆も知っての通り、Sランクとはその手の最高峰であり、それ以上のものは存在しないわ。
最高であると言うことは、それ相応に求められる水準が高いと言うこと。
その中には、俗にいう天才や、魔句に特化したような体質の、つまり規格外も含まれるの。
例えば、生まれつき魔力量が一般の魔句師の100倍あるとかがあるわね。
そう言った、イレギュラーを入れるランクでもあるから、いえ、そんなイレギュラーの為のランクと言った方が良いわね。
だからこそ、常人の域を出ない限りはSランクには成れないの。
そして、師団長は王国最強の魔句師が就く。
つまりはSランク魔句師と言うことよ。
ただ、魔句師のランクはあくまで実力であって、人間性や仕事の面についてはあまり考慮をされていないの。
だからこそ、副師団長は実力を求めるのはあるけれど、
それ以上に人間性や仕事が出来るかどうかにも重点が置
かれているの。
師団長については飾り、力の誇示といった側面が強いのよ。」
そんな表現を使ってもいいのかと誰もが思うようなマーシーの説明に十人十色な表情を浮かべる生徒達。
誰もが規格外とも言えるSランクを想像しようとするも、そもそも魔句師にランクがあることを初めて知った者が多い程である、その姿を想像することもできず頭を悩ませるのは仕方がないことだろう。
「先生!Sランクって最低でもどれぐらい凄いんですか?」
とある女生徒が想像力をカバーしようと質問をすると、マーシーはフラッドの事を一瞥し口を開く。
「そうね、仮にSランク魔句師が魔宝珠に触れたとしたら、最低でもフラッド君の10から15倍の光を発するわ。
少なくとも、直視したら失明するほどよ。」
先のフラッドの状態から、その異常さを想像できたのか皆一様に驚愕の表情を浮かべる生徒達。
例に漏れずフラッドも内外共に驚愕を露わにしていた。
(最低でも俺の10から15倍!?
マジモンの化け物かよ!
まぁ、そのレベルでないとSランクや師団長になれないって言うなら納得できるな。
しっかし、失明ねぇ、ゲームとかにある閃光弾レベルってことだろ?
少し期待とかしちまったけど、やっぱり物語みたいにはいかないよなぁ。
でも転生物の主人公たちは、それぐらいもしくわそれ以上のステータスなんだよな、現実にそんなんと会ったら恐怖以外の何物でもないわな)
前世で思い描いた淡い希望が叶わなかったことを悔しく思う反面、もしものことを考え安堵や恐怖と言った感情を覚えるフラッド。
いつの間にか、周囲も色々な事から落ち着きを取り戻したのか残る生徒たちの測定へと戻ろうとしていた。
その後、残る者の測定で、ティアの時のような光が照らしニックに魔句師の素養があることが解ったりとちょっとしたことが起きていたのだが、未だに思考の埋没しているフラッドはその事について気付くことは無かった。
お読みいただきありがとうございます。
そして投稿が遅くなりすみません。
次回はようやっと測定(体力)になります。魔力測定に引き続き体力測定と、どれだけ引っ張るんだと言う程に長くなってしまいますが、ご容赦を。
ここ最近少しづつですがブックマークが増えていたりと、嬉しいことが続いています。
正直に言ってとても励みになっていたりします。
少しでも楽しく読んでもらえるよう努力しますので今後ともよろしくお願いします。
さて、次話の投稿予定ですが11/17を予定しています。




