44.魔力測定が始まったんだが・・・
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フラッドとポーラによる痴話喧嘩もとい言い争いが終結してから幾ばくか、ホームルームでマーシーが今日の予定を話している中、二人は先ほどの一件から回復しておらず、その耳を赤く染めていた。
「二人とも、初めて会った時から仲がいいとは思っていたけど、まさかあんなにとは僕も想像していなかったよ」
意地の悪い笑みを浮かべながらそう茶化すルークに対し、二人は何も言えずにもじもじと身を捩らせる。
それを見て更に茶化そうとしたルークだったが、横合いから飛んできたティアの睨みつけるような視線により、自重した笑みを浮かべる。
初対面で受けた印象からは想像もできないルークの一面に、意外性を感じると共にたった二日弱で随分と仲良くなれたものだと思うフラッド。
(ザック達とのことを思えば、二日ぐらいならまぁ・・・
大人びて見えるけど、ルークも年相応の子供なんだなぁ)
ザック達との出会いを思い出し、ルークとのそれも子供特有のものだと結論付けるフラッド。
何となくルークへ目を向けると、いつの間にか真剣な表情を浮かべマーシーの話に聞き入っていた。
それを見て、今まで環境音として聞き流していたマーシーの声に意識を集中すると、測定の順番などの詳細な説明がなされていた。
これはまずいと居住まいを正し、話に集中し始めるのだった。
◇
ホームルーム終了を知らせる鐘が鳴ると、生徒たちは各々測定へ席を立ち始める。
前日のホームルームで体操着を着用する旨を伝えられており、それに着替える為であった。
曲がりなりにも、ここは貴族や大商人などの子息が通う学校である。
フラッドの前世であったように、教室内で着替えるような者は居らず、別個用意されている更衣室へと移動していく。
フラッド達も例に漏れず更衣室へ移動しようと立ち上がったのだが、ポーラだけが立ち上がらずにいた。
(もしかして、体操服忘れたのか?)
「ポーラ?大丈夫か?」
そう思ったフラッドがポーラへ声を掛けるが、ポーラは俯いたまま動かない。
不審に思ったフラッドがポーラの肩へと手を触れると、その身は驚いたようにビクリと跳ねた。
「ッ!?」
当然、触れた直後にそのような反応をされれば、さしものフラッドも手を除ける。
理由は何であれ、とりあえず謝ろうとフラッドが口を開く。
「その、急に触ってごめん」
「ううん。急に触られたからビックリしただけで、フラッドは悪くないよ。
でもどうしたの?」
フラッドの謝罪に対し、行動の意図を尋ねるポーラ。
そんな彼女の発言に、フラッドを含む三人はあることに思い至った。
彼女は今までの話を朝の一件の恥ずかしさから、全く聞いていなかったのだと。
そう思い至った三人は三人三様な表情を浮かべながら、これまでの、これからの流れについて説明をする。
三人に説明されたことで自分がどういう状況だったかを理解したポーラは、恥ずかしさに再度顔を赤く染め、ティアの手を握り颯爽と更衣室へと走り去っていった。
そんな彼女たちの後姿を見て、曖昧な笑みを浮かべるフラッドとルークだったが、フラッドは内心で、ポーラの態度を可愛く感じていたのだった。
◇
着替えを終えたA組は、稽古場へと集合していた。
学院で支給されている体操服とは緋色のプールポワンに黒色のアンクルパンツなのだが、特待生は別でプールポワンは紺青色となっていた。
「すごい!」
着替えに手間取り到着が遅れたフラッドは、それらを着こなし整列するクラスメイト達を見て、驚嘆の声を漏らす。
一緒に来ていたルークは、その言葉を聞き不思議そうに尋ねる。
「何が凄いんだい?」
「いや、なんか皆兵士みたいだなぁって」
(アニメとかで見た兵士見習いのそれって感じだ!)
フラッドの返答に意外そうな顔をするルーク。
「僕たちがある程度の年齢になれば、徴兵されるし、それ以前にこの学院を卒業した後、武官や文官になるんだよ?
その時に備えて前々から教育を受けていて当然だと思うよ」
学院に入学できるものはその程度出来ると、案に言うルークに対し、フラッドは内心でギョッとする。
(俺、そんなん受けてないぞ?
不味いかもしれん…)
話ながら列に加わる二人。
フラッドは不安から、自分以外でそう言った教育を受けていない可能性がある者としてポーラを探し始める。
しばらく辺りを見回していると二列ほど前に並ぶポーラとティアの姿を確認する。
しかし、ティアはともかくポーラまでもが、否ポーラがその列で一番綺麗な姿勢で待機しているさまを見て、しっかりと教育を受けていたことを理解したフラッドは、心に生じる焦りを抑えながら見よう見真似で周囲と同じ姿勢を取る。
その後幾人かが列に合流すると、全員が揃ったのか正面に立つマーシーが口を開く。
「全員揃ったようだから、これから測定の方を始めるわ。
では、ホームルームでも伝えたように最初は魔力の測定を行うわ。
前列から始めるから、右から順にこの水晶玉に触れてもらえる?」
そう言うとマーシーは横にズレ、背後にあった水晶玉を指す。
それはバスケットボール程の大きさで、大層な銀細工の台座にはめ込まれていた。
水晶の中では小さな半透明な十数個程の光球が、振り回したスノーボールのようにふよふよと舞っていた。
それを見てフラッドは、母やイリーナに教わった魔道具の名前を思い出していた。
『魔宝玉』
それは今の状況からも解るように、触れた者の魔力量や性質を調べることが出来る魔道具で、材料自体は教えてもらえなかったが、その材料の希少性から数が少なく、王族や大貴族、教会の大神殿など、特定の者、組織でしか所持していない物であった。
そんな希少な魔宝玉があることに驚きを覚えたフラッドだったが、王立のそれも貴族にとってそこを出たことがステータスになるほどの学院である。
そんな特別な、権力が集まるような場所が所持していないほうが可笑しいと思い直したフラッドは、聞いていた通りの動きをするかと言うことに思考が移っていた。
魔宝玉での判別方法はとてもシンプルで、生物が魔宝玉に触れるとその保有魔力に応じて内部で舞っている光球が光り、その量に応じて光量が増すのだ。
性質については、その光の色によって現され、火の系統であれば赤く、水の系統なら青く、土なら黄、風なら緑、光・闇はそれぞれ白と黒である。
各系統の中でも種類があり、それによって色も変わってくるのだが、基本的にはその色の枠から大きくはズレない。
稀に治癒や消失などの特異な性質を持つ者が居るのだが、その場合も、それに近しい性質の色で現れる。
フラッドの場合、性質は氷なので、この場合氷の元となる水と温度の観点で火が対象となる為、青よりの紫と言った具合になる。
次々と魔宝玉に触れ、自身の魔力量やその性質を確認していくクラスメイト達。
何れも光量は蛍の光かマッチの光程度の弱弱しいもので、魔句師にはなり得ない量なのだが、それでも王国の平均からすれば頭一つ分ほど多いようだ。
流石は優秀な学院生且つ特待生と言ったところであった。
しばらく魔宝玉の発光バリエーションを楽しんでいたフラッドだったが、途中今までにない程の光を目にし息を呑む。
蛍光灯のように周囲を照らす緋色の光に持ち主に視線を向けると、自慢げに胸を張るティアの姿があった。
(まさかのティアかよ!?
確か、周辺が明るくなるぐらいの光量が魔句師に成れるレベルって母さんとイリーナさんは言ってたから…
ティアは魔句師に成れるってことか!)
ティアが魔句師に成れる事実に至ったフラッドへ、答え合わせをするかのようにマーシーの声が届く。
「ティアさん凄いわ!
これなら魔句師いいえ宮廷魔句師団も狙える程よ!」
少し興奮したように放たれたマーシーの言葉に、ティアのポテンシャルの高さを理解しクラス中から感嘆のどよめきが広がる。
それを耳にし、更に誇らしそうな態度をするティア。
そんな彼女は少しすると真面目な表情に戻りフラッドへと視線を身体ごと向ける。
ティアの動きに釣られてクラス中の視線がフラッドへ集中した時、ティアは報告するような自慢するような調子でフラッドへ声を掛ける。
「フラッド、今しがた見ていただいた通り、コレが私の魔力量ですわ!
少しは見直していただけると嬉しいですわ。
・・・まぁそれでも貴方には敵わないのでしょうけど」
後半を悔しそうに述べるティアに対し、フラッドは驚き半分、諦観半分と言った表情で見つめる。
これは朝から変なものを見せられたティアなりの仕返しであり、フラッドの表情がそうなることを想定して成された事であったため、実際にその表情を見届けたティアは満足そうな笑顔を浮かべながら列へと戻っていく。
そんなこと等まったくもって知る由もないクラスメイト達は、ティアの発言からフラッドへ多くの期待を寄せることとなる。
(まったくティアの奴、アイツこうなること解ってて言ったな?
ってことは、街に居る時からずっと隠してたってことでもある。
はぁ~、ハードル上げんの勘弁してくれよ・・・)
自分に集まる視線の中に、マーシーの物が含まれており、その視線が一番熱を持っていることを認識したフラッドは、その期待値の高さに苦い顔を浮かべるのだった。
全体が落ち着きを取り戻してから、続いてポーラが魔宝玉へと触れる。
彼女の魔力量は他の生徒達と変わらない程度の光量だったが、その色はアイボリーであった。
珍しい光属性でありながら王道ではないその色から性質を把握したのか、またもマーシーは鼻息荒く説明を始める。
「ポーラさん、あなたの魔力性質は治癒だわ。
これはかなり珍しいのだけれど、魔力量が…
それでも纏いを習得すれば…」
ボソボソと何事かを呟き始めるマーシーを他所に、ポーラは魔力量が少ないことによる(ただし平均値よりは上)少なくない落胆と、魔力属性の希少性と言う、少しばかりの喜びの間で揺れ動いていた。
治癒と言う珍しい属性もとい性質に興味を示したフラッドであったが、マーシーの呟きから拾った纏いと言う単語に心は既に傾倒していた。
言葉の意味から、その能力などの考察を考えていたフラッドだったが、ついに自分の番がやってくる。
先の一件によってクラス全員の視線が自分の背に集まっていることを自覚しているフラッドは、
その視線からくる緊張で手に汗握っていた。
(頼むぞ神様!
さすがに魔句が使えるから全然光らないってことは無いだろうけど、これでティアより光が弱いようだと俺が笑われる!
・・・ってそうだったとしても俺、悪くなくね?
それもこれもティアがハードルを上げるのが悪い!
頼むぞぉ、ティアよりは光ってくれ、それでいて魔宝玉が壊れるとかのイベントはなしで頼む!)
物語の主人公のようになりたいと言う欲求はありながら、根っからの小市民ぶりもといヘタレな事を思うフラッド。
数秒魔宝玉の前で立ち止まると、意を決したようにソレへ手を伸ばす。
フラッドの手が魔宝玉へ触れると――。
お読みいただきありがとうございます。
前話の後書きで期待を煽るだけ煽ってこの様になってしまい申し訳ありません。
次話も引き続き測定となりますがご容赦のほどを・・・
話は変わるのですが、この度初の感想をいただきました!
もう、感想が来たということだけで感涙しそうなほどです。
私自身、この作品が初めてのもので、文章を書く勉強などせず、今まで読んできた数々の作品の構成などから執筆している次第です。
ですので今回の感想の様なものは大歓迎といいますか、なんといいますか、とにかく私の間違っているところを指摘いただけるのは私自身の勉強にもなり、読者の皆様にとっても改善されることで良い作品になっていくものだと思っています。
ですので、今後ともここが悪い、あーした方が良い等の意見がありましたら、遠慮なく感想やその他手法を使ってご教授いただければと思います。
さすがに現状ではないと思いますが「消えろ」や「辞めろ」などの言葉は控えていただければと思います。私も人間なので、感想が貰えて事以上に悲しくなりますのでご理解を・・・と精神防御の為記載させていただきました(笑)←正直もっと感想を貰えるようになってから言えって感じですけどね
さて、私の無駄話はそこそこに、次話の投稿予定ですが、11/10を予定しています。
感想等も私の方で確認でき次第返信していこうと思っていますので、今後とも当作品をよろしくお願いします。




