43.宥めてたはずなんだが・・・
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「はぁ・・・」
教室について早々、フラッドはため息をついていた。
その最たる原因は、寮での一件で機嫌を損ねたポーラへの弁明ではなく、教室までの道中、様々な者から向けられる数多の視線と囁きであった。
学年主席というだけで、同期からの注目が集まるのだが、そこへ昨日の代表挨拶が加わり、その注目は同期だけに留まらず、上級生や職員など学院全体に及ぶこととなった。
その為、寮を出てから教室に至るまでの間、話しかけられるまではいかないが、不躾な視線と共に漏れぎ超える囁き合う声に、性根が小市民なフラッドが耐えられることもなく、居心地の悪さに心労を溜めこみながらポーラへの弁明に励んでいた。
「はぁぁ・・・」
(やっぱ、昨日の挨拶で悪目立ちしてるよな?
ティアの言う通りもう少し考えて・・・
でも仕様がねぇじゃん!王国の将来を担うようなエリートを輩出してる屈指の学校とか言われたら、下手な挨拶して鼻で笑われたり、蔑まれたりするかもって思うじゃん!
それが嫌で必死に考えたら自重しろって!
俺は悪くない!
お貴族様特有のスーパー英才教育を受けてんじゃないの!?
そもそも――)
再度の深いため息と共に、後悔やら何やらでどんよりとした暗い雰囲気を出し始めるフラッド。
それまで可愛らしく頬を膨らませ不満を露わにしていたポーラだったが、フラッドの様子の変化が自分の行動に因るものと勘違いしたのか、不安に瞳を震わせながらボソボソと話しかける。
「フ、フラッド?
その、怒ってる?」
不安に震えるか細い声に我に返ったフラッドは、声のまま目の前で不安そうに此方を窺いみるポーラを見て、やってしまったと焦りを感じる。
「そんなことないよ。
怒ってるように見える?」
これ以上ポーラを不安がらせまいと、努めてとぼけたような返事をする。
しかし、それだけではポーラの不安は拭えず、むしろ助長する形となってしまった。
「嘘!
フラッド君が嘘ついてるときの顔だもん!」
感情で口に出したのだろう、朝一番での呟きの様に素で幼少期の敬称を付けるポーラ。
それを発したポーラの瞳は、感情の為かうるうると潤み、今にも涙が零れそうになっている。
一瞬、なんでこんなことでと思い浮かぶフラッドだったが、自身に責があることは解っている為、優しく宥めようとする。
(なんで泣きそうになってんだよ…)
「泣かないで、ポーラ。
本当に怒ってないから」
「別に泣いてないもん」
「いやまぁ、そうだけど、でも泣きそうにはなってるでしょ?
とにかく、俺は怒ってないよ」
「嘘!
昔もそんなこと言って怒ったじゃん!
あの時みたいに――」
「あ、あの時は俺も――」
フラッドの言葉など聞く気はないのか、数年前の話を持ち出しヒートアップしていくポーラ。
必死に宥めようとしていたフラッドも、なかなか言葉を信じず、否定し続けるポーラの態度にイライラが募り始める。
そうして、何度か応酬を繰り返しながらも何とかイライラを抑え込んでいたフラッドだったが、次に放たれたポーラの一言でそれもピークへと達する。
「どうせフラッド君は私の事嫌いなんだ!」
感情のまま言い放たれたその言葉は、フラッドの心へ少なくない傷を与えた。
ポーラの荒い呼吸音だけが響く中、しばしの沈黙を経てフラッドがぼそりと何事かを漏らす。
「――う」
その声は酷く低く、聞き取りずらいものだった。
フラッドの顔は下を向いているのもその原因の一つだろう。
そして、再度発せられたそれは、先のポーラに負けず劣らず大きな声で告げられた。
「違う!
俺はポーラを嫌ってなんかいない!」
「嘘!」
間髪入れず放たれたポーラの否定に、フラッドは顔を上げポーラを見据える。
「嘘なんかじゃない!
俺がポーラを嫌いになるわけがない!
だって、俺は――」
先程と同じような内容に、再度否定しようと口を開きかけたポーラだったが、その後に続くフラッドの言葉に、その口は言葉を発することもなく、ただただ開くに留まることとなる。
「――俺はポーラの事が好きだから!」
その言葉が教室に響き渡る。
正面から大声で、それも思いがけない場面で告白を受けたポーラは、否定をしようと開いた口をパクパクと魚のように動かすことしかできない。
それまで二人の勢いに呑まれ、二人以外言葉を発する者が居なかった教室で、その当事者たる二人が黙り込むと、教室は誰もしゃべることのない完全な静寂に包まれる。
扉一枚を隔てて漏れ聞こえる喧騒が響く教室。
室内にいる誰しもが、そんな静寂がしばらく続くだろうと思ったその時。
不意にそれは破られる。
「まったく・・・二人とも、痴話喧嘩はもう終わりまして?
終わっているのでしたら、話しかけてもいいですわよね?」
それを成した者は、他でもないティアであった。
彼女はやれやれと言った様子で話しかけると、二人へと近づいていく。
「朝から何かあったかと思えば・・・
ポーラ?貴女のフラッドへの愛情は解っているけれど、彼を困らせるのはほどほどにしなさいな。
フラッド?貴方はいつも頭がよく回るのだから、こういう時こそ冷静にならなくてどうしますの」
ティアの説教にシュンとする二人。
そんな二人の様子を見て、ティアはため息をつきながら言葉を連ねる。
「朝から痴話喧嘩も結構ですけど、もう少し時と場所を考えた方が良いと思いますわ。」
「「はい」」
「それとフラッド?
淑女へ愛を囁くのなら、あんなに大きな声で、それもクラスメイトの前でするのはご法度ですわよ。
それにしても、二人だけの世界に入って周りが見えなくなるのは、どうにかして欲しいものですわ」
ティアの指摘に、己が何をし、何を言われたかを理解した二人は、恥ずかしさのあまり急激にその顔を赤く染める。
互いに相手を窺いみようと視線を向けた結果、自分と同じように赤くなっている相手と視線が交わり、咄嗟にそっぽをを向く。
逸らされた二人の顔色は更に赤く高揚しており、今にも湯気が出そうなほどである。
そんな二人をやれやれと言った様子で見守るティア。
その後、マーシーが教室に来るまでの間、ニヤニヤと意地の悪い笑顔を浮かべたルークに、フラッドが弄られたりしながら、時間を過ごすのだった。
お読みいただきありがとうございます。
当初の予定では、本話は測定の場面にしようと考えていたのですが、そこまでの触りがかなり長くなってしまったのでこのような形になってしまいました。
測定などを楽しみにされていた方々については次話に延びてしまい申し訳なく思います。
ここ最近グダグダが続いて申し訳ありませんが、引き続きお付き合いいただけると幸いです。
さて、次話の投稿予定ですが11/3を予定しているのですが、もしかしたら少し早く投稿が出来るかもしれません。
ただ、基本的には11/3だと思っていただければと・・・
今更ですが、ブックマーク及び評価、誠にありがとうございます。
投稿者としてそれらが頂けると、少しでも興味を持っていただけてると励みになっていたりします。
今後ともご愛読とは言い難いですが、応援のほどよろしくお願いします。




