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42.学院生活二日目が始まったんだが・・・

10/20


チュンチュン



 朝日と共に聞こえてくる小鳥のさえずりに、フラッドは重い瞼を薄っすらと開け見慣れぬ天井を眺める。



「んんぅ・・・」

(・・・ここ、何処だ?

 俺の部屋じゃない・・・そうか、学院の寮に入ったんだっけか)



 徐々に覚醒してきた頭で、入寮したことや、入学式を終えたことを思い出したフラッドは、のろのろとした動きで身支度を始める。

 ただでさえ、代表挨拶で精神的に疲労困憊と言った状態であったにも関わらず、その後のアルゲンとのいざこざで限界を迎えたのか部屋に戻るなり、食事をそこそこに眠りについたの思い出していた。



(とりあえず、歯を磨いて、寝癖を直して・・・

 そう言えば、昨日は色々あったなぁ)


グゥゥ…



 掛け布団を畳みながら大まかな段取りを考えていると、胃が食事を寄越せと主張してくる。



(飯、食わないとな・・・)



 身体の求めるままに、食事を優先したフラッドはキッチンへと向かう。



(確か、母さんが作り置きしてくれたのがあったはず…)



 入学式までの間、心配だからと付いてきてくれた(フラーナ)の言葉を思い出し、キッチンを一望すると、かまどの上に鍋を発見する。

 蓋を開け、中を確認すると、昨晩も食べた猪肉のシチューが入っていた。

 早速火を起こすと、シチューが焦げ付かないように番をする。

 今、フラッドは部屋に備え付けられた調理場で朝食の準備をしているが、これはひとえに彼が特待生だから出来ることであった。

 寮は無料とまでは行かないまでも非常に格安で、入学金に数万ロート追加するだけで卒業まで寮に居られるのだ。

 その分部屋は四人部屋で、寝具以外は勉強机以外ないと言える程の、本当に寝るためだけの部屋となっている。

 勿論、キッチンなどは付いていないため寮内には食堂が在り、食事についてはそこで取るか、近隣の飲食店で取る形となっている。

 食堂の料金についても寮生であれば、前述の数万ロートに含まれており、それらの意味ではとても財布に優しいものであった。

 その為、寮に入る大抵の者は、遠方から来た平民出の者や金のない貧乏貴族の子女等が多い。

 逆に金がある者や王都に住んでいる者は、宿や実家・別荘などから通学をする。

 食堂は寮生以外でも料金を払えば食事が出来るようになっている為、宿や実家通いの者も利用していたりと、そこそこの賑わいがあったりもする。

 そんな学院寮であるが、特待生だけが例外で、彼らが寮を利用する場合は、利用料が無料となり、その上で1Rの部屋が用意される。

 なので、金のある貴族以外の特待生は大抵が寮に入寮していたりする。



コポコポ



 程よく温まったシチューから湯気が立ち上る。

 それを確認したフラッドは、鍋をかまどからよけシチューを小鉢に装う。

 水を入れたコップと小鉢をテーブルに並べ、昨日買っておいた黒パンを出す。

 全ての配膳を終え席に着くと、食事の挨拶をする。



「いただきます」



 前世の習慣で述べるこの挨拶。

 最初は耳慣れないその言葉に、疑問の表情を浮かべていた両親だったが、その意味をフラッドが説明したことで、二人も復唱するようになってから随分と久しい。

 ただ、今日から一人暮らしになった為、その声に続くものはない。

 パチパチと薪の爆ぜる音と外から漏れ聞こえる小鳥の囀りが響く中、フラッドは少し硬くなった黒パンをシチューに浸し咀嚼する。



(母さんの作ったシチューは美味いなぁ

 これが食えるのも当面先って考えるとなんだか寂しいような…

 父さんと母さんが居ないだけでこんなにも静かになるんだもんな…

 っていかん、前世も含めるとオッサンと言っていい程の奴がホームシックなんて、キモいだけだろ!)



 (フラーナ)の作ったシチューを食べ、今までの環境との違いから早くもホームシックになり掛けながらも、フラッドは食事を終え、洗い物をする。

 洗い物が終わるころには、それまで少しばかり微睡んでいた意識もシッカリとしたものとなる。

 


(さてと、そろそろ行かないとなぁ

 昨日みたいにギリギリになるとまずいし)



 歯磨きをしながらそんなことを思うフラッド。

 彼の髪は、寝起きのボサボサとしたものから、少し湿り気の残っているもののしっかりと整ったものとなっていた。



「フラッド~?起きてる?

 遅刻しちゃうよ?」



 扉をたたく音と共にそんな声が届く。

 うがいをしている為声を出せないフラッドは『んー』と返事をする。

 しかし、扉の向こうにいる彼女は、それを寝ぼけ声と判断したのかより強く扉を叩いてくる。



「本当に起きてるの?

 もう、入るよ?」


 少しも待つことなく扉は開錠され開き、昨日と同じ制服に身を包んだポーラが現れる。



「あっ起きてたんだ。

 おはよう」


「返事はしただろう?

 もう少し待ってくれても良かったと思うんだけど」


「えぇ~、昨日の事もあるから不安だったの!

 ご飯も食べ終わってるみたいだから早く行こう」


「はいはい、ってどうしたの?」



 支度を済ませ進み出たフラッドの正面に立ち、彼を見続けるポーラ。



(これはあれか?

 制服に身を包んだフラッド君格好いい的な?

 でも、それは昨日も聴いたような?)



 その意味が解らず思考を巡らせていると、ポーラは起こったのか頬を膨らませる。



「まだフラッドに返事してもらってない」


「?」

(返事?返事ってなんかあったけか?)



 ポーラとのやりとりを一つづつ思い出していくフラッド。

 それを二巡程して、ようやく朝の挨拶の事だと理解したフラッドは、申し訳なさそうに返事をした。



「あぁ、その、おはよう」


「うん!おはよう!」



 再度のおはようと共に身体ごと抱き着いてくるポーラ。

 特有の柔らかさに思わず鼻の下を伸ばすフラッドだが、間抜けな表情を隠さんとポーカーフェイスを意識する。

 ポーラに組み付かれている方とは別の手で施錠をすると、廊下を歩き始める二人。



「そう言えば、どうやって鍵を開けたの?」



 素直に疑問を投げかけるフラッドに対し、ポーラは当たり前の事のように答える。



「え?普通に合い鍵を使っただけだよ?

 おばさんに貰ったの、ほら」



 そう言って胸ポケットから部屋の鍵を取り出すポーラ。

 それを見てフラッドは眉尻をぴくぴくと引き攣らせながら、フラーナに対して内心で恨み言を零す。



(…母さん、ポーラを信頼して、尚且つ俺たちの距離を詰めさせようと思っていても、これじゃあの人(エリーゼ)と変わんねぇぞ。

 いや、待てよ?この流れで俺がポーラの部屋の合い鍵を手に入れれば…グへへ色々と妄想が…)

「母さん、ポーラに合い鍵渡してたんだ。」


「うん。何かあったらって」


「そしたらさ、俺もポーラの部屋の合い鍵、持ってた方が良いよね?」


「エッ!それは、その、まだ早いよ。

 私の心の準備が…」


(まだってことはいずれくれるんだよな?

 これは上手く事を運ばないとな。

 何せポーラは俺のハーレム要員一号だからな!

 てか可愛いぃ)

「そ、そっか。」


 

 互いに顔を赤くする二人。

 この空気に我慢が出来なかったのか、ポーラが徐に今日の授業内容について話し始めた。



「そう言えば、今日は体力測定と魔力測定があるんだよね?」


「そうだね。でも正直やる意味あるのかなぁなんて思ったりしてるよ」

(試験の時に技能やらの測定があったしなぁ。

 魔力に至っては魔句が使えるほどの者が少ないって言うし、やる意味あんのかね。

 魔句師の発掘って意味ならあるだろうけど、それにしたって試験の時に申告やらで解るんだよなぁ)


「そうだよねぇ。

 でも魔力測定は試験の時はやってないから!」


「う~ん」


「ほら、フラッドがどれだけ凄いかが皆にも解るんだよ!

 …それにフラッド君が褒められるのは私も嬉しいし」



 素で幼少期の敬称で呼ぶポーラ。

 その声は非常に小さく聞き取りづらく、本人も聴かせるために言ったのではないだろうが、フラッドは聞き逃さなかった。

 彼女の発言に、またも鼻の下を伸ばすフラッド。



「フラッド、何ニヤニヤしてるの?」



 フラッドの表情を見て半眼で睨んでくるポーラ。

 フラッドは何気なしに中空を見据えていたのだが、居り悪くその先には、転んだのか地に両手をつき、盛大に下着を披露している女性とが居たのだった。

 それを見たポーラは、フラッドの腕を強く抓り、悪態をつき始める。



「フラッドの変態」



 その言葉に現状を理解したフラッドは、必死に誤解を解こうとしたのだが、叶わず。

 必死の弁明が教室まで続いたとか。

 

 お読みいただきありがとうございます。

 次話の投稿は10/27を予定しています。

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