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38.クラスに行ったんだが・・・

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 ルークとティアが他人が聴けば卒倒しそうな会話をしている最中、フラッドは入学受付でなされる説明の内容に、さしものポーラですら身を引くほどの汗をかいていた。



「――クラスについては以上よ。

 本来ならこれで説明は終わりなのだけど、貴方は今期の

 新入生の中で最も優秀な成績を修めた、所謂首席なの」


「ッ!?俺が首席!?」

(嘘だろ!?ってことは色々面倒くさそうなことが・・・

 てか、あんだけ簡単だったんだから、俺以上に出来る奴いんだろ!

 ・・・ハッ!つまりあれだな?首席になることで起こる面倒事を回避するために他の奴らは手を抜いたと、つまりそう言うことだな!)



 目の前で説明を続ける、自分のクラス担任でもある、マーシー・エイワーズの口から出た『()()』と言う言葉に思わず声を漏らし見当違いなことを考え始めるフラッド。

 そんな様子に気付いたマーシーは、首席であることを喜ぶのではなく驚愕し嫌そうな表情を浮かべ始めたフラッドを疑問に感じながら、フラッドの質問とも言えない呟きに答える。



「――えぇそうよ。貴方が首席なの。

 まぁ、貴方がって言うよりも、貴方()が正確なのだけれど」


「「()?」」



 マーシーの口から出た、首席が少なくとももう一人はいることを匂わせる発言に、直接話を聞いていたフラッドだけでなく、それまで傍で静かに聞いていたポーラまでもが聞き返す。



「あの、先生。普通は首席者は一人なんじゃ・・・?」


「えぇ、ポーラさんが言う通り、通常なら首席者は各代に一人よ。

 ただ特例があってね、最優秀者が複数、つまり同得点の者が複数出た場合はそれらが首席になるのよ」


「…今回がそれに当たると?」


「その通りよ。さすが首席だけあって察しが良いわね。

 今回は歴代でも稀に見ない首席が二人も出た代なの」


「稀に見ないってことは、過去にもあったんですね?」

(どうせ10年に一回とかそんな頻度で――)


「えぇ。と言ってもそれもかなり昔の話よ?昔と言っても10年や20年なんて近いものじゃないのよ。

 そんな奇跡とも言えることが起こっただけでなく、それ以外の生徒たちの成績もここ最近と比べるとかなり上を行ってる!

 嗚呼!こんなにも優秀な代のそれもAクラスを担当できるなんて…フフッフフフフフフッ!」



 主席が二人出たことの珍しさを説明したかと思えば、恍惚の表情で中空を見つめ始めたマーシー。

 そんな彼女の有様にドン引きするフラッド達だったが、種類は違えど似たようなものをいつも家で見せられていることを思い出したフラッドは彼女を元に戻す為、否、早くこの場を離脱する為に声を掛ける。



(・・・ハァ。まさかこの人が()()()()と同じタイプの人だったとは。

 この手の奴は何もしないと永遠と浸っているかんな~

 とにかく正気に戻すか、もしくは時間もないしそれっぽいこと言って――)

「あの~、先生?そろそろ時間が無くなってきたんで、説明が終わりなら僕達教室に――」


「ハッ!?ごめんなさいね。

 フラッド君の言う通り時間も少ないし、教室に行っていいわよ。

 代表挨拶については後で時間を取るからその時間も使って考えておいて。

 順番についてもその時で良いわね」


「エッ!?代表挨拶って!?」

(代表挨拶あるなら先にソレを言え!

 冒頭で軽く触れてたから、薄々そうかなと思ってはいたけども!)


「ほら、時間も少ないんだから早く行きなさい!」


(そうだ!一緒に教室に行けば、移動時間に説明を!

 この際、先生と同時入室なんて恥じらっていられるか!)

「いや、でも!

 それにそろそろってことなら先生も一緒に!」


「私は、あと数人確認できていない者が居るから時間までここに残らなきゃいけないの。

 わかったらほら、教室に行きなさい」


「わ、わかりました」

(ちくしょう!どうすれば、考えろ考えるんだ俺!

 なんでもいい、とにかくラノベのセリフを思い出せ!

 それっぽいセリフを思い出して繋げるんだ!

 考えろ!考えろ!――)



 確認が取れないことを理解したフラッドは、この世の終わりを告げられたかのような様子で教室へと向かう。

 ボソボソと何事かを呟いているその姿は、初恋の女性に振られ消沈しているようにも見え、それを間近で見ていた二人を勘違いさせるには充分であった。

 道中、迷うことなく自身のクラスであるAクラスに進んでいった二人であったが、その雰囲気はとても良いものとはいえず、片や断首台へ向かう囚人の如く、絶望のオーラを纏う少年、片や笑顔でありながら、その瞳、表情には一切の感情が乗っていない少女。

 先のティアとの一件で、その二人の特待生を一目見ようと集まった、他クラスの生徒たちは、その姿を見て一様に何か見てはいけないものを見たと思ったのだった。

 二人が様子をそのままにガヤガヤとした特有の喧騒が漏れ聞こえる教室へ入室すると、それまで廊下で向けられていた好機や羨望、怨嗟の視線ではなく、じっくりと相手の力量を推し量らんとする鋭い視線が、静けさと共に二人を出迎える。

 向けられた視線と共に感じた空気の変化に、それまでの様子は何処へやら、同じように視線の主たちへと目を向ける二人。

 視線の先には金銀茶髪、赤に黒と様々な髪色とそれを持つ少年少女達が居た。

 そんな20名程の中に一人、二人の目を留める人物がいた。



「「ルーク!」」



 二人が声をそろえてその人物の名を呼ぶと、彼もソレに答えるように人の好い笑みを浮かべ口を開く。



「やあ二人とも、試験以来だね。

 ここに来たってことは二人とも特待生ってことだね?

 これからよろしく。そしてようこそAクラスへ」

 


 そう言うとルークは、執事のように深々としたお辞儀をする。

 それを見た二人は、その所作に戸惑い惚けてしまったが、数秒と経たないうちに返答をする。



「よろしく、ルーク」

(ようこそってなんだよ!お前も今日からだろ!)


「よ、よろしく、ルーク」



 返事と共にルークと握手をするフラッドとポーラ。

 その様を見たティアを除くクラスメイト達から怒気や驚愕、困惑などが入り混じった小さな空気の歪みが発生するも、それも一瞬の出来事であった。

 このクラスに所属するものでそれを感じられない者は居らず、それは歪みの矛先足り得る二人も例外ではなかった。

 矛先を向けられた理由を探そうと視線を巡らせるフラッドとポーラだったが、まるで何もなかったかのように振舞う他のクラスメイト達によって答えが見つけられずにいると、ルークが困ったように苦笑いを浮かべ答えを教えていくれる。



「さっきのは二人の僕の呼び方で生じたものなんだけど――」


(ってことはルークはかなり高貴な身分ってことか!?

 それなら納得だし、もしそうならやべぇな。すぐ――)

「ご…すみません。今後はルーク様と――」


「いや、二人が悪いわけではないよ。

 だから今更そんなに余所余所しい呼び方はよしてくれ。

 今まで通りルークでいいよ。」


「しかし――」

(今更も何も、まだ二回しかあってないんだぞ!

 これ以上面倒な事になる前にだな!)


「この前も言ったけど、僕たちは学院生だ。

 ここには視野を広げ、人脈をつくり、数々を学ぶために来ているんだ。

 そんな場に身分なんてものは邪魔でしかない。

 もちろん、僕自身がそう言う扱いをされることが好きではないのもあるけどね。

 だから今まで通り気軽に接してくれ、もちろん敬語もなしだよ?」


「わ、わかったよ」


「うん。皆も聴いての通り、こういうことだからよろしく頼むよ?」



 ルークがクラスメイト全員に目配りすると、一部たじろいだ者も居たが、完全とはいかないものの納得したような空気が流れた。

 その空気にルークが満足したように頷いていると、飽きれたような溜息と共に足音が近づいてくる。



「まったく。私と言う友人が居るにも関わらず、私でなく真っ先にルークへ声を掛ける辺り、貴方達らしいですわ」



 そう声を掛けてきたのは、そのことが少し不満なのか、拗ねたように頬を膨らませたティアだった。

 ティアがルークを呼び捨てにしたことで、再度一瞬とは言え先ほどの空気が顔を出すも、ルークの目配せにより自重するようなものになる。

 だが、ティアが深く憤慨していると思い込んでいる二人は、彼女をこれ以上怒らせまいと宥めるあまりその空気の変化に気付けていなかった。



「ティア、そんなに怒らないでくれよ」


「そ、そうだよティア?怒ると、し、皺が増えちゃうよ?」


(ちょっ!ポーラのバカ!

 宥めてるのに皺だのなんだのって言うか!?

 そういうのはお前が一番わかんだろ!)


「私怒ってなどいませんわ!

 それよりもポーラ、皺ってどういうことですの?

 返答次第では許しませんわよ?」


「へっ?えぇ~と、ほら、こう眉間にギュゥ~って、ね?」


()()()()?」


「ティア!ステイ!お願いだ。止まってくれ!

 そしてポーラ!とりあえず喋るのやめて!」



 火に油を注ぐような、むしろ火を起こしに行くようなポーラの言葉に、案の定火のついたティア。

 ゆっくりと振りかざした握りこぶしを見たフラッドは必死にソレを止めようとし、併せてテンパってしまったポーラが更に油を注ごうとするのを必死に止める。

 そんな、見る人によってはコメディとも受け取れる一面を見てルークは可笑しそう笑うのだった。


 そんなことをフラッド達が繰り広げている最中、受付に居るAクラス担任ことマーシーは、去り際のフラッドの所作に悶々と考えを巡らせていた。



(フラッド君のあの寂しそうな、絶望したような表情…

 あの子は甘えたかったのかしら?いや、そうだったとしたらあんな絶望したような表情は浮かべないはずよ!

 ッ!もしかして、私に一目ぼれをしてしまって…

 嗚呼マーシー、私は何て罪づくり女なのかしら。

 いたいけな少年の気持ちに気付かず、あんなにも素っ気ない対応を。

 あの子の心を癒す為にも後でしっかりとカウンセリングを!

 ハッ!それで彼が諦めきれなくなってしまったら…

 嗚呼!だめよマーシー。

 私は教師であの子は教え子、それだけは変えられないわ!それでも―――)



 全ては勘違いと思い込みから来た間違った予想なのだが、その間違い…勘違いに気付かない彼女は悶々と考え続ける。



「あ、あの~・・・え~と~・・・」



 目の前で待つ少年の呟きは、もはや彼女の耳には届いておらず、周囲には少年と彼女を除いて人は見当たらない為、彼女を現実に戻してくれる者も居ない。

 そうこうしている間に受付時間は刻一刻と迫っていく。

 受付に立つ少年に彼女が気付くのは、受付終了とホームルーム開始を知らせるベルが鳴った時となる。

 

お読みいただきありがとうございます。

次話の投稿は9/29を予定しています。

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