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37.学校に到着したんだが・・・

9/15

 フラッドが珍しく遠足前の小学生の様な寝坊をしたため、正直なところかなり焦っていた二人が学院に到着したのは、指定時刻まであと9分と言ったタイミングであった。



「はぁはぁ・・・なんとか間に合ったね」


「そうだねって、それもこれもフラッドが寝坊するのがいけないんだからね?」


「ごめんって。

 間に合ったんだから良しとしてよ」


「はぁ。

 いつもはしっかりしてるのにどうしてかなぁ」



 整わない呼吸をそのままに寝坊したことについて愚痴りあう二人へ、横合いから声がかかる。



「お二人とも、登校初日から遅刻ギリギリだなんて、()()特待生として恥ずかしいですわ。

 何時ものようにしゃんとしなさいな」



 突如かけられた、高貴な口調の鈴の音の様な声に二人が顔を向けると、そこには右手で額を押さえ、やれやれと言った素振りをしているティアの姿があった。



「「ティア!?」



 思いもよらない彼女の登場に驚く二人へ、ティアは悪だくみが成功した子供の様な顔で二人へ近づく。



「お二人とも何を驚いてらっしゃいますの?

 ここは王国一の学び舎、プロデンス学院ですのよ?

 数多の貴族がここを出たことをステータスにするほどですのに、その貴族である私が入学しないわけがないではありませんこと?」


「まぁ確かにそうなんだけどさ」


「そうそう、ティアもここに入学するつもりだったんなら、前もって教えてくれても良かったじゃん!」


「それはまぁ、私なりのサプライズと言ったところですわ。

 ――それにせっかくお友達に成れたのに離れ離れ何て寂しいじゃないですの」


「サプライズって・・・

 あと、それにって言った後がよく聞き取れなかったんだけど――」


「なんでもありませんわ!

 とにかく、お二人とも早くその手に握りしめた入学通知を、あそこの受付に出してきなさい。

 そしたら、クラスの説明と特待生の証であるこの記章が貰えますわ」


「へぇ~、特待生には特別な記章があるんだな」


「すごくピカピカでかっこいいね!」


「そうだな。

 で、その記章をティアが持ってるってことは・・・」



 胸に輝く記章を誇らしげにしながら見せながら説明をするティア。

 その説明を聞き、記章についてそれぞれ意見を述べたフラッドとポーラだったが、ティアがそれを持っていることと、再開時に述べた『同じ』と言うものが何を指しているのかを理解すると、一拍の間をあけて驚愕の声を上げる。



「「ティアも特待生ってこと!?」」



 二人の声の大きさに周りの者の視線が集まる。

 特待生であることもばっちり聞こえていた為かチラホラとそのことについての声が漏れ聞こえてくる。



(あの子、特待生ですって)


(あっ本当だ。胸に記章を付けてる)


(それよりもあの二人、()って言ってたよな?

 て言うことはあの二人も…)



 ただでさえ難関と言われているプロデンス学院の入学試験で更に優秀な成績を修めた者のみが選ばれる特待生は、その難度から常に羨望の的となっていた。

 そんな特待生とそうであろう者が居れば、周囲のざわめきと規模は増していくのも仕方がないものであった。

 普通なら委縮してしまいそうなほどに向けられる、不躾な値踏みをするような数多の視線や、ボソボソと耳を犯す小さなざわめきを気にも留めずティアは口を開く。



「お二人ともその程度の事で驚き過ぎではなくて?

 私を誰だと思ってらっしゃるの?」


「その程度って」


「そのことについては後でたっぷりとお話しますから、今はとにかくその入学通知を受付に出してらっしゃい。

 せっかく特待生での入学だと言うのに時間に間に合わなくて入学取り消しだなんて目も当てられませんから」


「そうだ、時間がなかったんだ。

 ポーラ急いで受付に行こう!」


「うん!

 それとティア、そのことについて後でゆっくりと、ね?」


「えぇ。ほら、早く行きなさいな」



 急かさせるまま受付に走る二人を、ティアはこれからの事を思い浮かべにこやかに見送る。

 話題の中心の内、二人が居なくなったことで自然と周囲の者達も霧散していった。

 ただ一人残ったティアが、これから行われる入学式に向けて教室に戻ろうとすると、後ろから独り言の様な小さな声が聞こえる。



「あの二人、合格したみたいだね。

 まさか同じ特待生とは、正直ビックリだね」



 声からでも伝わる落ち着いた雰囲気に、ティアが振り向くと、感慨深げに顎を撫でるルークの姿があった。



「あら、誰かと思えばルーク様ではありませんこと。

 フラッドとポーラのことをご存じで?」


「いや、入学試験の時に偶々知り合ったのさ。

 それよりもセフィラム男爵家令嬢である君とあんなにも砕けた様子で話していたんだ。

 僕はそっちの方が気になるね」


「それについてはお二人が戻ってからお話しすることに致しますわ」


「それもそうだね。

 それとセフィラム嬢、前々から言ってるけど僕の事はルークと呼び捨てで――」


「それでしたら、私の事もセフィラム嬢ではなく、ティアとお呼びいただいても?」


「・・・わかったよ。では改めてよろしく、ティア」


「えぇよろしくお願いしますわ、ルーク」



 観念したように名を呼ぶルークを見て、面白そうに眼を笑わせるティア。

 二人の身分を知る者が、この会話を聞いていたら卒倒ものの内容であったが、それを知る者も、それを知らない者も、幸いにもフラッドとポーラが駆けていった為、一人として居らず、この後フラッド達と合流しお互いの呼称を他の者達が聴いたことで、ちょっとした事件が起こるのだが、それはまだ先の話であった。


 一方、フラッドとポーラは無事に受付にたどり着き、二人まとめてクラスの説明と、特待生の証たる記章を貰ったのだったが、フラッドはその後に続いた()()()説明を聞き、頭を悩ませることとなる。



 お読みいただきありがとうございます。

 次話投稿は9/22を予定しています

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