35.学校に入学する可能性が出たんだが・・・
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フラッドがイリーナから通信用の魔道具を渡されてから、早一年。
現在では五歳になったフラッドの身体は着々と成長しており、少し気になっていた身長も他と大差ないぐらいには伸びてきていた。
ただ、他の五歳児と違う点があるとしたら、現在まで一時もサボることなく続けてきた筋トレやダリウスによる特訓、そして東奔西走を余儀なくされる数々の依頼を熟してきたためか、その体は以前に比べより逞しくガッチリとしたものであった。
また、フラーナとイリーナによる魔句の英才教育もあって、魔句の知識や技量と言ったものは、冒険者ランクCに居る魔句師以上のものと彼女らから評価されたほどである。
そんな成長真っ只中なフラッドは、ダリウスからの指示で追加された走り込みを終えたところだった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ―――」
(やっぱりキツイわぁ~。息が整わないぞ。
しっかしポーラと一緒だから、ペース落として情けないとか思われるとアレだったし・・・
それにしてもポーラは化け物か?街の外周一周して息が全然上がってないぞ!?)
「フラッド?息が整ったら教えてね?
簡単に打ち込みするから」
息を整えながら内心ポーラの体力に戦慄するフラッドへ、ポーラはいつからか呼び捨てに変わったのか、フラッドの名を呼ぶと次のトレーニングについて話す。
(ランニングとかした後って、30分以内に筋トレをすると効果が高くなるんだったよな)
「打ち込みの前に筋トレしない?」
何とか息を整えたフラッドは前世の記憶を手繰り寄せ、筋トレを先にやることを提案する。
「筋トレが先のほうが良い?
フラッドがその方が良いならそうするよ?」
「それなら筋トレで」
ポーラの了承を得たフラッドは、筋トレを行おうとたちがあると、滝のように流れる汗を上着の裾を使い、拭う。
その時、隣から強い視線を感じそちらへ目をやると、裾を使ったために露わになったフラッドの程よく割れている腹部をポーラが少し興奮したように見つめていた。
フラッドの視線に気付いたポーラは何事もなかったかのように振舞う。
「それじゃ、最初はフラッドからね?
腹筋からやるから、そこに横になって」
「いや、柵もあるし一人でも腹筋はできるから――」
「ダメ、柵だとフォームが崩れたり変な風になったりするから、私が押さえる。私の時はフラッドが押さえてね」
ポーラに押さえられることで感じる色々な感触を避けたいが為に提案をしたフラッドだったが、ポーラの有無を言わさぬその対応に、渋々従うほかなかった。
フラッドが仰向けになり膝を立てると、ポーラがその立てられた膝に寄る。
「それじゃ、押さえるね」
そう言うと、フラッドの足の甲に腰を下ろし、ぶれないように足に抱き着く。
それと共に襲い来る柔らかな感触に、フラッドの象徴は徐々に熱を帯びてくる。
二人で行うときは毎度の事なので、いい加減身体が慣れてくれないものかと思っていたフラッドだったが、本能には逆らえないことを理解すると、すこし達観したような表情になる。
(頼むぞマイサム!これ以上元気になるなよ?
そして鎮まってくれ。
そしてポーラ、できればそれ以上密着してくれるなよ?
てか、同じくらい…それ以上に筋トレやら稽古やらしてるはずなのにこの柔らかさって、女の身体はどうなってやがんだ?)
「フラッド?大丈夫?
なんか苦しそうな顔してるけど」
「だ、大丈夫。始めよう」
心配そうなポーラの問いかけに、何かを悟られる前にとフラッドは筋トレを開始する。
しかし、急いで始めたせいか、上体を起こす際、柵で行う時の癖でつま先をフックのように上向きに上げてしまう。
すると、ただでさえ柔らかさに埋もれていたつま先は更に柔らかい何かをかき分ける。
それと同時にポーラが身体を震わせ甘い声を上げる。
「んぁっ」
(やべぇ!これは謝った方が・・・否!
これはこのまま続けて故意ではないと表現するべきだな取り敢えずつま先は要注意だ。ポーラに怒られるのもあるが、それ以上に何に当たったとかその感触やらでマイサムがヤバい)
フラッドが謝らないことを決め腹筋を継続していると、ポーラは少しフラッドを睨む。
その後、回数が30回を超えた辺りからか、絶えず流れる汗を拭いたい衝動を抑え身体を起こし続けるフラッドの正面から荒い吐息が聞こえてくる。
それを感じ、腹部を見ていた視線を正面へあげると、頬を上気させこちらを、特に鎖骨辺りに熱視線を向けるポーラが映る。
心なしか彼女の身体は最初に比べさらに密着しており、足に来る感触はより柔らかく熱を帯びたものとなっていた。
途中から集中していた為、忘れていたその感触を思い出してしまったフラッドは、再度ソレを忘れるため、目標である50回に向け全力を尽くした。
そして50回を終えるとフラッドは早速どいてもらうようポーラへ声を掛ける。
「ポーラ、50回行ったから交代だよ?」
「・・・・・・」
「あの~ポーラさん?貴女が退いてくれないとですね、私立てないんですよ?」
「・・・・・・」
「ポーラさん?ポーラ?ポーラ!」
「ハッ!・・・ごめん交代だね?」
どこか惚けたような満足したような表情を浮かべていたポーラをなんとか現実に戻したフラッドは、何故そんな表情を浮かべていたのかを察しながら立ち位置を交換する。
そしてポーラも先ほどのフラッドと同様の体勢を取ると、今度はフラッドが足に抱き着く。
彼女も走り込みで息は上がらずとも、少なくない汗をかいていた為、そのシャツは体に張り付いている。
それを認識したフラッドは、咄嗟に顔を逸らす。
(クソ!今まで気付かなかったが、めっちゃ体のライン出てんじゃん!
ローナみたいに胸があるわけじゃないが、…まぁローナはあの年で胸が出てること自体が異常なんだがな、って
そうじゃなくて、これはこれでエロいから直視が出来ん!
頼む早く終わってくれ)
フラッドが切に祈ると、その祈りが届いたのかポーラは黙々と腹筋を始め、早々に終了した。
そのことに安堵したフラッドだったが、その後に待ち受ける背筋でも同様の事が起こり、精神的に多大なダメージを受けたのだった。
唯一、心の安寧を保てたのは一人で出来る腕立てとスクワッドだったのだが、それさえも向き合って行う形になった為、完全に保てたとは言い難かった。
打ち込みも終え、井戸水で汗を流した二人は、それまでの運動で消費したエネルギーを補充すべく家へと入る。
今日はダリウスとエリーゼが当番とのことで、昼食はフラッドの家で摂ることになったポーラと一緒に居間に入ると、食卓にはタイミングを見計らったように湯気昇る出来立ての料理が並んでおり、ガラッドとフラーナは席についていた。
「二人とも丁度良かったわ。今ご飯の用意が出来たところなの。
さあ、冷めないうちに頂いちゃいましょ」
フラーナに勧められるままに席に着いた二人は、ガラッドの食事の挨拶を復唱すると、ガッツくように並べられた料理を食べ始める。
フラーナは栄養学を習得しているのか、はたまた偶々なのか、今回の食事は肉や大豆などのたんぱく質多めのものとなっており、それぞれボリュームも満点だった。
食事を終え、満たされた腹をさするフラッドへ、対面から声がかかる。
「フラッド、学校に興味はないかい?」
声の主へ視線を向けるとガラッドが、真剣な面持ちでこちらを見ていた。
「ん~興味の有る無しで言ったら有るかな。
でも、どうして急にそんなことを?」
「いやね、父さんも母さんも前々からお前を学校に通わせようと考えていたんだが、入学できるのは6歳からでね。
今年いっぱいで6歳になるから、本人に希望があれば通わせようと思って聞いた次第だよ」
「そうなんだ。
その興味はあるけど、入学するってなると、お金だってかかるし、今やってる冒険者見習いの仕事だって支障が…」
「その点については気にしなくて大丈夫だよ。
まずお金のことについては、家の収入なら余裕を持って入れるからね、もし気にしてくれるのなら試験で好成績を収めて特待生になってくれればいい。
冒険者見習いについては、学校に通いながらやっている子もいるし、言い方が悪いけど依頼の方は必ずやらなきゃいけないってわけでもないからね。
それも特待生になれば、一部授業の免除があるからその点も問題ないかもしれないと思う」
「う~ん・・・、でも特待生に慣れないとダメなんでしょ?
僕には難しいと思うんだけど」
「その点は絶対に大丈夫だよ。フラッド程、読み書きや算術が出来て、武芸も嗜んでいれば間違いなく特待生に成れる。
ポーラちゃんも、入学すれば特待生に成れると思うよ」
「ん~ちょっと考えさせて。
ザック達にも確認したいから」
「わかった。急がなくてもいいよ、なにせまだ一年もあるからね。
ザック君たちにもしっかり聞いて決めると良いよ」
「ありがと父さん」
そう言って席を立ったフラッドは、待ち合わせをしていたのもあるが、家を出て早速ザック達の元へと向かう。
道中、一緒に歩むポーラが問いかけてくる。
「フラッドは学校入るの?」
「ん~。ザック達が良いって言えば入ろうかなって思ってる」
「もし、フラッドが学校に行くなら、私も行くから!絶対に!」
「う、うん。ありがとうポーラ。
それじゃ、皆も待ってると思うし少し駆け足で行こうか」
「そうだね」
ポーラの勢いの良さに若干引いてしまったフラッドだったが、それを忘れるためにも駆け足でザック達の元へと移動するのだった。
お読みいただきありがとうございます。
次話の投稿予定は9/8を予定しています。
また、前話からですが、今後投稿するにあたって当日の0:00ではなく当日中に投稿するように変更しました。日頃から色々ご不便をおかけしていますが、ご了承下さい。




