28.館に着いたんだが・・・
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愉快な言い合いをしながら歩くこと少し、一行は漸く領主の住まう館に到着する。
一行のをまず最初に出迎えたのは、人二人分はありそうな鉄柵の門扉とその両端に控える門番だった。
一行が近づくと二人いるうちの若い門番が不思議そうに声を掛ける。
「おや?隊長にエリーゼさん、今日は非番では?
それにガラッドさんにフラーナさんまで!
何かあったのですか?」
「おい!お前はダン様の話聞いてなかったのか?
今日それぞれがお子さんを連れて来ると仰ってただろ!
とりあえず確認とかは俺がするから、お前はサムエル殿に皆さんが到着したことを伝えてこい!」
「わ、わかりました!」
逞しさを感じさせる髭を生やした中年門番にそう言われ、慌てて屋敷にかけていく若い門番。
それをやれやれと言った様子で見送ると中年門番は申し訳なさそうな顔をしてこちらに向き直る。
「すいやせん、アイツたまにこういうことあるんですよ。
それじゃ、申し訳ないですが簡単な身体検査と招待状の確認をさせていただきますね?。
まぁ皆さんに関しては全くもって問題はないと思いますが来客となると一応決まりですからね、すぐ終わらせるんでちょいと我慢しててください」
「構いはしねぇよ!決まりなんだからそれがお前たちの仕事だろ?
だからお前もそんな申し訳なさそうな顔すんな。
ただ、アイツには後で話し合いが必要みたいだがな。」
ダリウスがそう言うと、門番は招待状の確認を済ますと一人ずつ身体検査を行っていった。
ポーラの身体検査をしている時にダリウスから何かあったらすぐにでも手を出しそうなほどの威圧感が漏れ出て、門番が身体を震わせながら検査を行うといった場面もあったが、彼の言う通り検査自体は非常に簡素なもので済んだ。
それもこれもフラーナを除く大人たちがここで務めているのが大きな理由だろう。
「お待たせしました。これで確認は終了しましたのでお通りください」
中年門番はそう言うと、既に戻っていた若手門番と共にその大きな門扉を開け中へと促す。
「それじゃあ行こうか」
ガラッドの言葉に続き一行は門を潜る。
「引き続き頼むぞ!
後、お前は話があるから明日俺の部屋に来い」
ダリウスが去り際に二人へ伝えると若手門番は怯えの混じった表情を浮かべ中年門番はそれを見て笑いを堪えるような表情をしながら軽く会釈をする。
一行が完全に潜り終えると門扉が閉じる音と共に門番たちも最初の体勢に戻る。
フラッドは切り替えの早さに関心すると、館の方へと視線を戻す。
玄関へと続く通路は薔薇とアマリリスが交互に植えられていて赤白の絨毯の様。
右へ視線を向ければそこには白いガゼボがあり、その周囲は薔薇の生垣で囲まれており、すぐ横に噴水が設けられていた。
THE貴族の庭といった様相に視線を奪われるフラッドとポーラ、大人たちは見慣れているのかそのまま進んでいく。
ちなみに左側には納屋と厩舎が設けられており、二頭の馬が使用人たちに世話をされていた。
一行が玄関に着くと、扉の横に立つ燕尾服を見事に着こなした初老の男性がこちらに近づいてくる。
「皆さま本日はようこそ御出でくださいました。
既にご存じの方も多いかと存じますが、私こちらで執事長を任されております『サムエル』と申します。
以後お見知りおきを」
柔和な笑みを浮かべながら優雅にお辞儀をするサムエル。
その姿を見て感動するフラッド。
(おお!これこそ執事!アキバとかに居る偽執事とは違う
確かな貫禄とあふれ出る紳士感!
この様子ならメイドも期待できそうだ!
これで名前が『セバスチャン』もしくは『セバス』なら完璧なんだが・・・)
「それでは皆さま、どうぞお入りください」
サムエルが扉を開け中へと促す。
そして一行が促されるまま中へ入ると、整列した使用人たちが出迎えた。
左右それぞれに5人ずつ並んでおり、右は執事、左はメイド、メイドさんの服装はクラシックスタイルと言うのかヴィクトリアンメイドであった。
最後にサムエルが入ると、列に挟まれるような位置に立っていた一人の寮長のような雰囲気を纏うメイドが一歩前へ出る。
「ようこそ御出でくださいました。
私こちらでメイド長を任されております『エミリー』と申します。
そちらのサムエルともどもどうぞお見知りおきを」
エミリーがお辞儀をするとそれに合わせて使用人たちもお辞儀をする。
「それでは皆様を応接室へご案内いたします。」
頭をあげたエミリーはそう言い歩き始める。
サムエルは領主の元へと向かうのか一向に会釈すると別の通路へと消えていく。
一行はそれを見送るとエミリーの後を追う。
廊下に敷かれている絨毯はそれなりに良いものなのかやんわりながら押し返してくる。
その感触を楽しみながら歩いていると到着したのかエミリーが立ち止まる。
「こちらでお待ちください。追ってお飲み物と軽食をおちします。」
そうして通された部屋は、案外広く、壁には領主の肖像画らしきものが飾られている。
その他にもどう見ても高そうな壺や皿、盾や剣などの調度品が飾られていた。
ソファに座り談笑したり、飾られたものを眺めたりしていると扉を叩く音がする。
「どうぞ」
代表してガラッドが入室を促すと「失礼します」の声と共にキッチンワゴンを押すメイド、執事と共にサムエルが入室する。
「軽食をお持ちしました。
また、誠に申し訳ありませんが現在旦那様に火急の案件が入ったらしく、30分ほどお時間をいただきたいとのことです。
お待ちいただくせめてもの気持ちとのことで、王都より取り寄せました『パティシア』のケーキをご用意させていただきました。
どうぞご賞味くださいとのことです」
「フラーナ、パティシアのケーキだって!
流石ダン様わかってる~!」
「ちょっとエリーゼはしたないわよ!
でもパティシアのケーキ・・・流石だわ
サムエルさん、ダン様に感謝の旨伝えていただけますか?」
「承知いたしました」
「ねぇ父さん、30分待つんだったら庭に行ってもいいかな?」
「フラッド君が行くなら私も行くー!」
「フラッドにポーラちゃんまで、暇を持て余すのは解るけどここは領主様のお屋敷だから我慢してくれないかな?」
「そうだぞ~なんか壊しでもしたらパパたちが怒られるんだからな?」
「ガラッド様、ダリウス様、その点は問題ありません。
ご子息、ご息女も何もしないのは苦痛だろうとその時はと旦那様から許可を得ています。
同伴としてウチの者を一人付けますのでご安心ください」
「そう言うことなら・・・」「そうだな」
サムエルの言葉を耳にしたフラッドとポーラは互いに顔を合わせると、喜びの声と共にハイタッチをした。
早速とばかりに外に出た二人に、続いて外へ出たメイドが声を掛ける。
「今回フラッド様、ポーラ様のお付きをさせていただきます『リン』と申します。
どうぞ――っお二人とも危ないので走らないでください!」
(はぁなんで私が…。
ま、騎士長や事務長のお相手をするよりかは良いのだけど)
リンの自己紹介を受けるも、早く庭を散策したい二人は話の途中で駆け出す。
ちょっとした段差などがあり転びやすいため、怪我をされては堪ったものではないリンは咄嗟に二人の前に立ちふさがり、止める。
目の前に立ちふさがれてたことで少し冷静さを取り戻した二人は素直に謝る。
「「ごめんなさい」」
「お二人に何かあったら私が大変なのでほどほどにしてくださいね?」
(特に騎士長が怖いんだけどね。
はぁやっぱり子供の面倒見るのは大変ね)
「「は~い」」
彼女の本音が多分にこぼれ出ている注意を受けた二人は、子供ならではの素直な返事をすると、何処を見て回るかを話し合う。
「フラッド君、何見る?」
「そうだな~、噴水のあったところ見てみようよ!」
(あのガゼボって言うんだっけか?あれ、貴族の庭のテンプレだし一度はあーゆう所でお茶とかしてみたいよな)
「いいよ~あそこ凄い綺麗だったもんね」
通路の花を愛でるのをそこそこに噴水へ行こうとする二人。
それをリンは後ろからやれやれと言った様子で見守る。
二人が生垣を超えて庭に出ると、来た時には見なかった存在があった。
日に当たればキラキラと輝きそうなナチュラルミディの金髪に仄かにピンクの混じった白い肌、ゴスロリ調の青いショートドレスを身にまとったその少女は傍らにメイドを侍らせながらガゼボの中で優雅なティータイムに興じていた。
彼女は二人の存在に気付いたのか、それまで口にしていたティーカップを音もなくそっと置くと二人の方へ顔を向ける。
「あなたたちがお父様の言っていたお客様ですのね?」
お読みいただきありがとうございます。
特に物語には関係ありませんが今日は七夕ですね!皆さんはどのような願い事をされたのでしょうか?
私は何か面白いことが起きますようにとなんともふわっとしたお願いをしました。
大人になると、どうしても七夕は子供の遊びのための行事と気にしなくなるものですが案外そうでもないと思う所存です。
織姫と彦星の物語を考えると告白などの日としてはいいものではと考えたり、天体的に星が綺麗に見える日だったりと考えると色々出てきます。
私としては初もうでとは別で神様にお願いが出来る日だと考えていたりします(笑)
さて、今話ですが新キャラクターが何人か登場しました。今後もちょくちょく出るかとは思います。
正直初めての作品と言うのもあって覚えるのが大変と思ったのはここだけの話です(笑)
この後も何話か領主様の話が続くかと思いますが引き続き愛読いただければと思います。
予定としては2~3話ぐらいですかね?
次話の投稿ですが7/14を予定しています。それまでに仕上がれば前話のように途中掲載するとは思いますが基本的には7/14だと思っていてください。




