25.イオの傷が治ったんだが・・・
ゴッ カンッ! ズザザ
「ハァ、ハァ・・・」
堅い木と木がぶつかる独特の音が響く中、フラッドはその荒い呼吸を治めるため土で汚れた体はそのままに木陰で休息をとっていた。
今、彼の目の前で行われているのはイオとダリウスによる模擬戦。
今まで教わった型を基に必死にダリウスに攻撃を仕掛けるイオと、それを余裕綽々な様子で簡単にあしらうダリウス。
直前まで自分が行っていたソレを眺めながらフラッドは、イオの傷が完治したときのことを思い出していた
◇
ジャイアントローチとの一戦からひと月ほど経ち、ギルドからは冒険者見習いに満たないものを依頼に同伴させたことについて注意を受けたものの、受付でその旨を伝えていた事実と、本来なら冒険者見習いやソレに満たない者では討伐は不可能もしくは非常に難しいとされるジャイアントローチを討伐した実績から、その件については不問とするとともにフラッド達三人を特例として冒険者見習いとすることが決まった。
ギルドに所属している者の負傷等には全面的に協力するスタンスでいる冒険者ギルド。
そんなギルドの調査不足や依頼難度の設定ミスなどの謝罪の意味も込められた優秀な治療師を集め行われた治療により、イオの傷は少し歪ながらも目立たない程に完治していた。
その間、特に責任を感じ今まで以上に鍛錬に力を入れ、更に逞しい体つきになったフラッドやザックは、イオの完治の知らせを受け、他の皆と共にイオの元へと訪れていた。
「イオ!傷、治ったんだってな!」
「よかった、もしかしたらもう遊べなくなるかと・・・」
「「「―――!」」」」
冒険者ギルド内に設けられた治療室に入るや否や、これでもかと喜び騒ぐ面々に、イオは安堵し喜びの滲んだ、それでいてどこか申し訳なさそうな表情を作ると申し訳なさそうに口を開く。
「皆、心配や迷惑をかけてごめんね」
開口一番に発せられたイオの謝罪にそれまで、喜びに沸き立っていた面々はシンと静まる。
「イオ、それは僕たちのセリフだよ。
僕がもっと上手く魔句を使えればイオが負傷することはなかったと思う」
「そうだぜ?あんとき俺がもっと早く動けてればお前の負担を減らせた。・・・俺がもっとしっかりしねぇといけねぇのによ…」
「フラッド、ザック・・・」
「ザックの言う通り、あの時依頼を受けたのは僕たちだ。
それなのに僕もローナも延焼瓶を作ることしかできなくて本当なら僕たちが前面に出なくちゃいけないのに・・・
そもそも、僕がもっと情報収集と準備をしていればこんなことには・・・」
「延焼瓶も~作るの~遅くなっちゃったしね~」
「私ももっと遠くに投げられればイオ君が怪我する前にアイツをやっつけられた・・・」
「エルロスにローナ、ポーラちゃんまで・・・
皆、僕は・・・もっと強くなりたい
アイツぐらい強い奴が来ても大丈夫なぐらいに強く!」
それぞれの後悔を聞いたイオは、治療を受けている時からずっと考えていた、強くなりたいという意思を皆に示す。
それを受けて、皆も同じ気持ちだったのか静かに頷く。
そうして、皆が強くなろうと気持ちを一つにして間もなく、ザックがそれを成すにあたってどうするかを尋ねる。
「けどよ、強くなるって言っても強さには色々あるぜ?
全部鍛えるにも無理があるしよ、どうするよ?
そもそもどうやって強くなるよ?」
「ザックの言う通り、強さには色々ある。
それについては、各々が得意とする分野を主に伸ばしていくしかないんじゃないかな?
例えば、フラッドなら使える魔句を増やしたり、ザックやイオなら身体を鍛えるとか」
「私や~エルロスは~どうする~?
それに~ポーラも~」
「僕とローナについては、戦闘といった面ではあまり役に立てそうにないから、皆を補助する知識や能力を伸ばしていくしかないかな?
ポーラちゃんは投擲力って言ってたから身体を鍛えてもらう形になるかな?」
「伸ばす方向は解ったけどよ、体鍛えるにも限度があんだろ。
まして知識とかだと誰かに教えてもらうしかねぇけど、そこんとこ考えあんのか?
身体鍛えるだけじゃなくて技とか動き方とかわかんねぇとダメだしよ」
「確かに、教えてもらう相手が必要だね・・・」
ザックのもっともな意見に一同が頭を抱えていると、何かを思い出したフラッドが口を開く。
「知識ならギルドの受付嬢が教えてくれるんじゃないかな?
さすがに冒険者がいっぱいいる時間は忙しくて相手してくれないだろうけど、空いているときなら教えてくれると思う」
「なるほど、確かに冒険者ギルドからすれば知識を与えることで面倒事が減りつつも依頼完遂量が上がるから利点しかない。
それを考えるとフラッドの意見は理に適ってるね。
ただ、知識の面はそれでいいとして、動き方とか戦闘面については・・・」
「その点もたぶん大丈夫、協力してくれるかまでは確約できないけど当てはあるから。
魔句については母さんか父さんに教われば問題ないし」
フラッドの当てと言う言葉に驚いた表情を浮かべたエルロスは、それを確認しようとする。
「当てって、それは誰だか教えてもらってもいいかな?」
「あ~・・・」
エルロスの確認に言い淀んだフラッドは、その当てと密接に関係のあるポーラへ一瞥をくれる。
その当てが誰だか理解していたポーラがフラッドの一瞥にある意図に頷くと、フラッドは続きを口にする。
「その、当てって言うのはポーラちゃんのお父さんで、ポーラちゃんの両親って騎士なんだ。
で、おじさんはポーラちゃんにだだ甘だからポーラが頼めば何とかなると思って」
「パパは私が絶対に何とかするから大丈夫」
フラッドから告げられたポーラ家の事実に、それを知らなかった面々が驚きを露わにするとその後何かに納得したような表情を浮かべた。
「ポーラちゃんのご両親って騎士だったのか。
どうりで・・・
そう言うことなら、ポーラちゃんお願いできるかな?」
「うん!」
◇
全体の方針が固まったところまで思い出したフラッドに、それまで稚拙ながらも模擬戦闘が行われていた庭の中央から気迫のある声が届く。
「おい、坊主!もう十分休んだだろ!
さっさとこっちにこい!」
その声に回想から戻り声の主を見やると、そこには汗一つかいていないダリウスと、それとは対称的に大量の汗をかき息を荒げ地面に横たわるイオの姿があった。
「もう僕の番か、おじさんすぐ行くからちょっと待ってて」
フラッドが、まだ疲労の抜けきらない身体を起こしそう伝えダリウスの元へと歩を進める。
その間ダリウスは、「俺は仕方なく――」「ポーラが頼んだから――」とぶつくさと何事かを発していた。
(相変わらず親バカだなこのおっさん。
ま、それでもちゃんと教えてくれる辺りはさすがだな)
そう内心で呟きながらフラッドは訓練用の木刀を構える。
お読みいただきありがとうございます。
今回はイオの傷が治ったときの回想となっています。冒険者的な内容を期待していた方には申し訳ありません。
次話も似たような形になる予定ですので少し我慢していただければと思います
その次話の投稿は6/23をよていしています。週一回の投稿で申し訳ありませんが引き続きご愛読いただければと思います。
また、誤字脱字報告や改善点などの意見等頂いたものについては修正、反映してきますので合わせてよろしくお願いします。




