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19.女の子が虐められていたから助けてみたんだが・・・

 5人が茂みをかき分けた先には、下卑た笑みを浮かべ足元を見る少年たちと、体を土や泥で汚し大小さまざまな生傷を負った少女が居た。



「なっ!?」



 その状況に哀れみよりも憤りを感じたフラッドはつい声を漏らしてしまうが、他の4人は最初こそ決意に満ちた表情で居たが、虐げられている少女の姿を見ると同時に、何か仕方のないものを見るような、同情するような顔をする。

 その中でエルロスがボソッと呟く。



「・・・獣人か」



 そう、虐げられ地に伏している少女の黒髪には同じく黒い猫耳があり、彼女の臀部からは黒い尻尾が生えていた。

 この世界には亜人と呼称される存在が居り、その中にはファンタジー作品ではお馴染みのエルフやドワーフ、ホビット、魔人などが居る。

 エルフやドワーフはその見た目が、人間とほとんど変わりがないことやその見た目の美しさであったり、鍛冶技術の高さなどで、神聖視されている。

 ホビットも見た目の違いが少ないことから、人間とどうような扱いを受けている。

 そんな中、同じ亜人に含まれる獣人だけは扱いが大きく違っていた。

 彼らの見た目は特殊で、今地に伏している少女のように人に姿に動物の耳や尻尾が付いたものもいれば、血の濃さによっては顔などが完全にそれぞれの動物になっている者もいる。

 その為、人間からは差別や迫害の対象とされていた。

 魔人に関しては肌の色が違うことや角が生えていることから同じく差別や迫害の対象となったこともあったが、種族として隔絶するほどの力や魔力を持っており、その迫害を理由とした報復を受けた以降は、人と同様に扱いながらも恐怖の対象として見られるようになった。



「領主様が獣人の差別や迫害をなくそうと色々政策を立てているおかげで大分少なくなったけど、やっぱりまだ居るんだね」



 そう言い、止めようとしないエルロスに苛立ちを募らせるフラッドが一言言おうとしたとき、少年たちが動く。



「おら!このクソ猫!何平気な顔して街歩いてんだよ!」


「ごめっ!やめっ、ぐぅ」


「そうだ!公園にくんじゃね!おかげで獣臭いだろ!」


「アグッ ゴホッ ウゥ・・・」


「ハッ、父ちゃんが言ってたぜ獣人は獣と交わった穢れた種族って!

 そんな種族なんていないほうが良いよな?

 いっそのことここで殺しちまうか?」


「コロッ!」



 自分の目の前で繰り広げられる数々の暴行、それも10歳ぐらいの少年たちが自分と同じぐらいの少女を甚振り、あまつさえ殺そうかなどとのたまっているその事実に、フラッドは限界を迎え走り出す。



(転生ものあるあるとは言え、胸糞悪いな。

 ・・・昔の自分を見てるみたいになる。

 ま、それに上手く助けられれば美味しい展開になるかもしれんし)

「嫌なもの思い出させやがって!

 僕の精神衛生を保つのと夢の為に、それ以上は許さない」

 


 そう言い放つとフラッドは、一番手近な少年へラリアットを放つ。

 前世の記憶にあるアックスボンバーを真似L字に曲げた腕は、声に反応し振り返ったばかりの少年に当てる。

 到達まで走った運動エネルギーと、相手が油断していたこともあり勢いよく後ろに倒れるとそのまま気絶した。

 相手が怯めば御の字と考えていたフラッドが、予想に反して気絶したことに驚いていると、右から大きな衝撃が襲う。

 その衝撃に耐えられず尻もちをついたフラッドは、その後飛んできた言葉と相手の様子から殴られたことを理解する。



「テメェ!誰だか知れねぇが、よくもバズをやってくれたな!

 ただで済むと思うなよ?」


「この獣人より先にお前のことをぶっ殺してやるよ」


「・・・ペッ」

(痛ぇ・・・視界がグワングワンする

 オッサンに殴られた時よりマシだけど、キツイなこれ

 それにしても殺すって幼稚すぎるだろ・・・)



 少し前のフラッドであったら年齢差に因る膂力の違いから、相手の攻撃で気絶していたが、まだ三か月とはいえ毎日続けている筋トレとダリウスによる腹パンを経験したことから、打たれ強さが上がっていた為耐え抜くことが出来た。

 どこかが切れたのか口に広がる血を吐き捨て立ち上がろうとすると、左から蹴りが飛んでくる。

 咄嗟に顔を守るが、勢いまではどうすることもできず倒れ込む。

 蹴りを防いだ腕はすでに青くなっており、鈍い痛みを伝えてくる。

 すかさず立ち上がろうとするが相手がそれを許さず、嘲笑をあげながら踏みつけてくる。



「はっ!自分から喧嘩売っといてこの程度かよ!」


「ギーグ、まあいいじゃん!

 これでサンドバックが増えだんだからさ」


(なんで勝った気でいるんだコイツ等?

 確かにこの状態から抜け出すのは難しいが、無理じゃない手段さえ選ばなけりゃどうとでもなる)



 ギーグと呼ばれた少年はそうだなと相槌を打つと、もう一度踏みつけようと足を上げる。

 それに合わせてフラッドは未だに踏み続けるもう一人の足に爪を立てると渾身の力を込めて引裂く。

 やわらかいものが削れ、爪の間に詰まっていく感触と、削れる時の抵抗に爪が悲鳴をあげる。

 その手を振りぬくと同時に聞こえる悲鳴とどかされる足。

 自由になったフラッドはこの瞬間を逃すまいと転がり、立ち上がる。

 そして自分の手を見るとそれは血に塗れ、爪の間には少なくない肉の欠片が挟まっていた。

 相手を見ると、痛みに目を充血させこちらを睨みつけている。

 自分の攻撃した足元を見ると、挟まっていた肉片の量に応じた引掻き傷と呼ぶには痛々しい傷が出来ており、今でもたらたらと血を流している。

 ふとギーグと呼ばれた少年が居ないと見回すと、茂みから飛び出したのであろうザックから殴られていた。



「ザック!」


「お前ばっかりやるのはズルいからな!」



 ザックの参戦にフラッドは喜びの声をあげると、ザックは照れ隠しをしながらギーグに向き直る。



「なんなんだよお前らは!

 絶対に許さねぇ・・・ぶち殺す!」



 そこからは殴る蹴るのなんの技術もないただの喧嘩になった。

 互いに至るところに痣や擦り傷を作り殴り合う。

 どうしても膂力の関係でフラッドとザックの方が後手に回るが、自称喧嘩最強のザックの立ち回りにより二人を押していく。

 途中、フラッドが虐げられていた少女の方へ視線を向けると、エルロス達三人が彼女を介抱していた。

 殴り合うことで意識がフラッド達に向いていたこと、意図せず立ち位置が彼女から離れていったことで三人が近づけたのである。

 そしてザックのアッパーカットがギーグの顎にきまり倒れると、ついにこの闘いも終わりを迎えた。

 2対1では不利だと悟った少年は、倒れている二人を抱えると、足を引きずりながら去っていった。

 綺麗だった服は土や泥で汚れ、口の端や鼻には血の跡がついていた。

 どうにか勝てたことに安堵の息を漏らすフラッドに、ザックは面白いものを見たといった様相でこちらを見ていた。



「フラッド、お前意外と強いじゃねぇか!

 魔句も使えて、喧嘩も強い!ズルいぜ」


「前も言ったけど、筋トレしてるからね。

 じゃなきゃ今頃気絶してるよ。

 それとありがとうザック」


「へっ!良いってことよ!

 それよりアイツんとこ行こうぜ?」



 そう言うとエルロス達三人の元へと進む。

 ローナとポーラがハンカチで泥や土、滲んだ血などをふき取っており、エルロスは彼女を支えていた。



「君、大丈夫かい?

 僕はフラッドって言うんだけど、何があったか教えてくれるかな?」

(大方、何のいわれもなく絡まれたとかだろうなぁ)


「なんで助けたの?君は僕が気持ち悪くないの?

 どうせこの後君たちも僕をいじめるんだろ?」


(な、僕っ娘だと!?

 ケモミミ美少女の僕っ娘を虐めるとか、あいつ等どうかしてるぞ!)

「助けた理由は、いじめを見て黙っていられなかったから。

 気持ち悪いかどうかについては、僕はそんなことは思わない、むしろ可愛いと思うけどね」


「かわっ!?

 そんなの信じられない。

 どうせこの後・・・」


「それに関しては絶対にありえないよ。

 そもそもこんなになるまでして助けたのに、自分が虐めてどうするのさ」

(こりゃ典型的な人間不信だわ

 長く虐げられてるとこうなるんだよな

 なんにでも裏があると勘ぐっちまう、俺もあったな~

 嗚呼ヤダヤダ)


「うぅ・・・。

 でも、先に来た子たちは一瞬躊躇ったよ?

 だから絶対気持ち悪いって思ってるんだ!」


「相手を疑う気持ちはわかるよ。

 今までそうやって色々やられてきただろうしね。

 だけど信じて欲しいな?」


「嘘だ!絶対に裏があるんだ!

 人間が僕たち獣人に優しくしてくれるはずがない!」


「はぁそれじゃ目的を言ったら信じてくれる?」


「やっぱり裏があるじゃないか!」


「まあまあ落ち着いて、僕が君を助けた理由はね、自己満足と助けた後にお近づきになれるかもと思ったからだよ。

 欲は言わないから友達からでどうかな?」


「・・・へ?」



 罵詈雑言や暴力を振るわれると身構えていたその子は、フラッドの予想外の言葉に呆気にとられる。



「どう?信じてくれる?」


「信じられるわけない!

 嘘をつくならもっとましな嘘を――」


「はぁ・・・脈なしかぁ

 これ以上言ってもしょうがないし・・・」

(これはアレだな、お願い系じゃなくて命令系の言い方の方がすんなりいったやつだな。

 猫耳黒髪僕っ娘、諦めるしかないか~

 そういえば母さんにアレ教わったから最後に使うか)



 先日フラーナから教わった新たな魔句を思い出しソレを実行して終わろうと決めたフラッドは獣人の子に近づくと、魔句を紡ぐ。



「ケア ダメージ」

(はてさて、どれだけ治るのかな?)



 フラッドが魔句を唱えるとゆっくりと痣や傷が消え、塞がっていく。

 少しすると、暴行を受けた形跡などない程に回復していた。



(おぉ!喧嘩とかで負うぐらいの傷は治るんだな!

 後で自分とザックにかけないとな。

 にしても、魔力かなり持ってかれるな~コレ)

「とりあえず傷とかは治したから、もう行くね?

 その、なんかごめんね?」



 そう言ってフラッド達が立ち去ろうとすると、魔句を掛けられてから驚愕の表情で固まっていた獣人の子は、現実に戻ると慌てて去り行く背中に声を掛けた。



「待って!!」

お読みいただきありがとうございます

誤字・脱字等、ご指摘いただいたものに関しては極力修正していく予定ですのでよろしくお願いします。


次話は5/5を予定しています。


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