17.読み書きを教わることになったんだが・・・
今回は短めです
フラッドがポーラの逆鱗に触れて早数日。
あの後、二人はどういう関係かや何をしていたかと言った質問攻めにあい、それが終わると家に着くまでの間、終始射殺さんと言わんばかりの視線を背中に受けた。
そのような状況で当事者の一人であるフラッドは常に脂汗をかいていたのに反し、もう一人の当事者であるローナは、状況を理解していないのか、相変わらずホワホワとした雰囲気で過ごしていた。
そうした雰囲気がポーラの怒りに更に油を注ぐこととなり、関係のないザックとエルロス迄もがその様相に委縮することとなった。
そして休日である今日、いつもなら朝食後には日課の為に庭に出ているフラッドは、数日を経ても怒りが静まり切らないポーラにあることを恐れ家の中に居たのだが、現在、同じく休日と言うことで家に居たガラッドと机を挟み相対していた。
「フラッド、お前にはそろそろ読み書きを覚えてもらおうと思っている」
(やっと文字を教えてもらえるのか。簡単な奴ならどうにか独学で何とかなったが、複雑な奴は読めなかったからありがたいな)
「うん!それで?何からやるの?」
ガラッドの申し出にほぼ即答で答えるフラッドは全身にやる気を漲らせていた。
「いいか?読み書きって言うのはとても重要なことで――ってすごいやる気だな。
これじゃあ、せっかく考えた話が無駄になったなぁ・・・
とにかく、最初は簡単なものからだな!」
勉強することを嫌がると予想していたのか、フラッドの即答に面をくらったガラッドは、前日から考えていた勉強の重要性についての話が無駄になったことに内心涙を零しながら授業を始めていく。
(簡単なものはいいんだよ!って読めることを知らないからしょうがないか。)
「父さん。僕、簡単なのは読めるんだ。
だから難しいのを教えて欲しい」
フラッドがそう自己申告すると、ガラッドは何処が合点がいったような表情を浮かべる。
「なるほど、そう来たか。
だが甘いぞフラッド。
難しいのを学ぼうとしてわからないからと遊びに行くつもりだろうが、父さんは騙されないぞ?
とにかく、簡単なものからやっていくぞ」
フラッドの自己申告を勉強から逃れるための布石だと勘違いしたガラッドは、少し勝ち誇ったような顔でサラサラと文字を書き始める。
(そういう目的で言ったんじゃないんだが・・・
てか、三歳児がそんなこと考えるわけないだろうに)
「本当に読めるんだよ!書くこともできるし」
信じて欲しいと切に願いながら、再度自己申告するフラッドに対して、ガラッドは困った子を見る目で書き上がった文字を見せた。
「そこまで言うのであれば、父さんが書いたこれを読んでみなさい。
ヒントは教えないし、母さんに聞くのもなしだよ?
これが読めなければ素直に勉強するんだ。いいね?」
(信じてもらえてないのはしょうがないか。
とりあえずこれを問題なく読めば次に進めるわけだから、サッサとやっちまうか!)
「わかった、これを読めばいいの?」
そう言うと、ガラッドから渡された羊皮紙を手に取り、内容を確認する。
(なるほど、簡単な自己紹介ね)
「え~と、僕の名前はフラッドです。
父さんはガラッド、母さんはフラーナといいます。
これでいい?」
フラッドが書かれていた内容を当たり前のように読み上げると、本当に読めるとは思っていなかったガラッドは驚愕に目を見開くと少しの間動きを止める。
30秒ほどして、驚愕から覚めたガラッドは勢いよくフラッドの肩を掴むと台所で洗い物をしているフラーナに叫ぶようにそのことを伝える。
「フラーナ!私たちの子は凄いぞ!
もう、簡単な文字を読めるようになっている!」
その叫ぶような声か、はたまたその内容にか、台所から木皿を落とす音が聞こえると、慌てたようにフラーナがこちらへやってくる。
「ガラッド、本当なの!」
「あぁ、本当だ。今書いたばかりのこれを、何も教えていないにも関わらずフラッドは読み上げたんだ!
そうだな試しに・・・」
そう言うとガラッドは羊皮紙の余白に新たに文章を書き始める。
「よし。フラッド、今書き足したものを読んでくれ」
(たかが文字を読んだくらいで大袈裟な・・
これも父さんの魔句書を読むため)
「わかった。
えと、今日の朝ご飯は目玉焼きと黒パンです。
でいいの?」
これで満足か?といった表情でフラッドが二人に顔を向けた矢先、フラーナが喜びの声と共に強く抱きしめてくる。
「すごいわフラッド!」
(うぐぐ・・・苦しい
でも、この大質量の柔らかさ、これが幸せ・・・
母さんじゃなきゃ理性を失っていたね!)
「母さん・・・苦しぃ・・・」
彼女の豊満な胸の、甘美な柔らかさに最初の内は相手が母とはいえ役得だと考えていたフラッドであったが、次第にその感触を堪能することよりもそれ相応の圧力とその長さに息苦しさが強くなっていく。
それでも続くフラーナの抱擁に限界が近づき、抱きしめる腕をタップアウトすることでようやく解放される。
「ごめんね?
お母さん嬉しくてつい強く抱きしめちゃったわ」
(いえ!ご馳走様です母上!)
「ううん。大丈夫だよ」
窒息の危機にあったことよりも、至福ともいえるあの柔らか空間を楽しめたことに内心感謝するフラッドであったが、この後、文字を書けることでも同様の事態が発生し、自分自身が如何に異常かを認識したのだった。
(よくよく考えたら、三歳児が独学で読み書きできるようになるってこと自体おかしな話だったな・・・)
その後は、天才だ秀才だと沸き立つ両親が祝いをしようと活き込んだため、勉強はそこで終わり、普段より豪勢な食事をするに至った。
お読みいただきありがとうございます。
誤字脱字ご報告いただいたものは極力修正していきますのでよろしくお願いいたします。
次話は4/21を予定しています。
また余談ではありますが、新たにブックマークが増えたことに喜び勇んでいます(笑)
今も読んでいただいている皆様、そして今回ブックマークしていただいた方々に改めてお礼申し上げます。ありがとうございます!