16.友達と遭遇したからそのまま遊んでみたんだが・・・
少し遅れましたすみません。
「おっ?フラッドじゃねぇか!」
食後の満足感と暖かな日差しから、散策中であるにも関わらず眠気を覚える二人に、突如としてラッパを勢いよく吹いたように大きく快活な声が掛けられる。
街中で名前を呼ばれたことを不思議に思うフラッドだったが、その声や勢いなどからある人物を思い出しながら振り返る。
その先には、先日近隣の森でフラッドを枝葉で埋めなんだかんだで友達になった内の一人、ザックが立っていた。
「ザックじゃないか!こんなところで会うなんて奇遇だね」
「おいおい、こんなところってここは街だぞ?
町に住んでりゃ会うこともあんだろ」
フラッドの返しに、やや呆れながらツッコミを入れるザック。
この空気は不味いと、フラッドは話題を変える。
「ところで、ザックは何しに来たんだ?」
「エルロスとローナと遊ぶ約束してたから、集合場所に行く途中だったんだ。
したら、お前を見つけたってわけ」
「いつも三人で遊んでるのか?」
「ああ。俺たち家が近いからな」
話に花が咲きそうになった時、弱弱しく袖口を引かれたフラッドは漸くポーラの存在を思い出す。
やらかしたと思い、窺うようにゆっくりとその方へ顔を向けると、そこには二人きりの時の強引さやはつらつさが鳴りを潜め、怯えたようにフラッドの後ろに隠れ、チョコンと袖口を摘まむポーラの姿があった。
申し訳なさそうに袖口を摘まみながら、上目づかいでこちらを窺いみる彼女に、フラッドは保護欲を掻き立てられた。
(何この可愛い生き物!このまま衆目を気にせず愛でまわしたい!
っといかん。てかいつもの勢いはどこ行ったんだ?)
そんな二人の様子に気付いたのか、ザックはポーラについて尋ねる。
「そういやお前、街に親なしで来たらダメって言ってたけどどうしたんだ?
やっぱそこに居る奴関係してんのか?」
「へっ?・・・ああ、外出についてはこの前許可貰ったんだ。
だから、今後は自由に外出できる。
あと、この娘はこの前話したポーラ。
まあ、一緒に許可もらったから散策してるんだよ。」
「へぇ、そいつがポーラか。可愛いじゃねぇか!
俺はザックてんだ。よろしくなポーラ!」
「かゎ・・・よろしく」
ザックの口から出た可愛いの一言に頬を赤らめるポーラと、同じくその一言を意外に思い驚嘆に顔を染めるフラッド。
そんなフラッドの表情を見て、ザックは少しむくれる。
「なんだよその貌は!」
「いや、ごめんごめん。
ザックが可愛いとか言うのが意外でさ~」
「ったくよ~まあいいけどよ。
悪いって思ってんなら遊びに付き合え!」
「いや、ポーラもいるし・・・」
散策中と言うこともあり、誘いを断ろうとしたフラッドだったが、予想外の返事が上がる。
「この後どうしようかなって思ってたから、いいよ?
・・・それにローナのこともわかるし」ボソッ
「え!?」
「よし決まりだな!」
ザックの勢いに因るものなのか、はたまたフラッドの身辺調査が目的なのか、ポーラが誘いに乗ると、ザックは早速とばかりに二人を集合場所まで案内する。
ザックに付いていくと、しばらくしてロングソードがクロスされた看板の大きな建物に着いた。
入口はウェスタンドアになっており、筋骨隆々の大男や、軽装鎧を身にまとう青年、踊り子の様な露出の多い服装でありながら腰に2本のシミターをぶら下げた色っぽい女性など、如何にも冒険者然とした者たちが出入りしていた。
そんな建物入口の近くで出入りする者に話しかけるエルロスとローナの姿があった。
「おじさ~ん、何か~モンスターとか倒してきたの~?」
「ん?なんだ嬢ちゃん。気になんのか?
俺は沼地でリザードマンを狩ってたんだ!
ほれ、コレが討伐証明の尾だ」
「すご~い!やっぱり~斧って~強いの~?」
「おうよ!力あんなら斧がいいぞ!
ぶん回してりゃ大体何とかなる!」
「へ~」
憧れた瞳で質問するローナと、同じく憧れた瞳で聞く姿勢を保つエルロスに気をよくした斧使いの冒険者は、午前中に狩ってきたリザードマンとの戦いを語る。
ある程度語り終わり満足した冒険者は、ローナ達に頑張れよと告げ、建物の中へと入っていく。
それに合わせてザック達は二人へと声を掛ける。
「待たせたなっ!」
「ザック!遅かったじゃないか」
「お~そ~い~ってあれ~?
フラッド君だ~もう一人の娘は~わかんないや~」
ザックが声を掛けると、エルロスとローナは待ちくたびれたという気持ちを前面に出しながら文句を言うと、ザックとは別に二人いることに気付く。
フラッドはともかくポーラのことを知らない二人は探るようなそれでいてどこか楽しそうな視線をポーラへ向ける。
「3日ぶりだね?因みにこの娘は――」
「私、ポーラ。よろしくね?
それと、あなたがローナちゃん?」
「そうだよ~。よろしくね~ってどうしたの~」
「ふ~ん・・・」
「僕はエルロスって聞いてないか
フラッド、彼女怖いんだけど何かあったの?」
「いや、僕にも理由は解らないよ」
いきなりローナを見定めるように睨みつけたポーラに、戦々恐々とするフラッドとエルロス。
睨まれていると思っていないローナは、どこかおかしなところでもあるのかと、自身の服や髪などを気にし始める。
なんとも居心地の悪い間が生じたと思えば、ザックがそんなもの知らんと言わんばかりに何をするか意見を求めた。
「よしっ。自己紹介も終わったところで、今日は何すっか」
「ふぇぇ~ポーラちゃ~ん何かついてるなら~教えて~」
「何もついてないよ。ただローナちゃんが気になっただけ」
「「とりあえず、何とかなったのか?」」
「俺の話聞けよ!」
意見を求めたのにまるで関係ないことを話す4人に少しむっとしたザックだったが、他の男たちは安堵の息を零すのだった。
「んで、どうする?なにする?」
「どうするって、また冒険者ごっこでもするのか?
そもそも普段から3人は何して遊んでるんだ?」
「いつもは鬼ごっことか、かくれんぼとか、後は冒険者ごっことかだな」
ザックは少し思い出すのに手間取ったのか云々と唸りながら答えた。
(いつもやってる遊びいうのに少し考えるって、思い付きで
やってんのかよ)
「それなら、鬼ごっこで良いんじゃないかな?」
「僕は嫌だよ。鬼ごっこになるとザックが強すぎて・・・」
「そ~そ~。ザックは~足が速いから~私たち~直ぐ捕まっ
ちゃうし~、もともと~私たち~足遅いから~ね?」
「あん?俺のせいにすんなよ!
足遅いのわかってんなら練習しろよな!」
「なら、かくれんぼで良いんじゃないか?」
喧嘩になる前にと、フラッドがかくれんぼを提案するとそれまでむくれていたザックはさっきまでの事が嘘だったかのように笑顔に戻ると早速と言わんばかりに範囲を決め始めた。
ザックの切り替えの早さに少し面食らっているフラッドとは裏腹に、このことは日常茶飯事なのかエルロスもローナも気にせず範囲について楽しそうに意見を出し合う。
「広場まででどうだ?
範囲広い方が楽しいだろ?」
「広いと隠れるのと探すので時間がかかるし、合図とかも
聞こえなくなるからよくないと思うよ?」
「そんなん面白くねぇだろ!
あれだろ?お前が鬼になった時探す体力がなくてって――」
「ザック?
この前みたいに迷子になってももう助けないけどいいの?
あの時も確か君が広い方が――って言ってたよね?」
「わ、悪かったって。んじゃこの冒険者ギルドからあそこの飲み屋までの間な!」
(この建物武具屋じゃなくてギルドだったのかぁ
将来的にはここに・・・)
冒険者ギルドの二軒隣にある居酒屋までを範囲とし、次いで鬼決めが始まった。
「鬼決めんぞ?
とりあえずスピーエルで決めるぞー」
スピーエルとは所謂ジャンケンと同じで三すくみの手の形で勝敗を決めるもので、その形もジャンケンと酷似していた。
それ故にルールを理解したフラッドの脳内ではスピーエル=ジャンケンと置き換えられるようになっていた。
「じゃあ行くぞー。せーの!」
ザックの掛け声と同時に五人は手を出す。
その手は、ザックを除いて皆がパーに当たるもの、対してザックはグーに当たるものだった。
「まじか!俺が鬼かよ!」
「それじゃ鬼も決まったことだし、早速始めようか?
ザック隠れるまでの時間はどうする?」
そうエルロスが尋ねると、ザックは不服そうな顔で50秒と告げる。
その後合図に魔句を使ってほしいと頼まれたフラッドは、氷の塊を作りこれを上に投げ落ちたらスタートと周知し、氷を放る。
氷が地面にぶつかり、砕け散ると隠れる側の四人は蜘蛛の子を散らしたように周囲へと走り出した。
最初、冒険者ギルド前の屋台裏に隠れようと思っていたフラッドだったが、木材と木材の合間から隠れていることがバレやすいことに気付き直前で変えようとする。
そして路地にある子供が一人か二人入れそうな大きさの木箱を見つける。
木材が欠けできた穴から中に入ろうとすると、そこには先客がいた。
「フラッド君~ここは~私が~見つけたの~」
先客はローナであった。
先客が居るなら他を探さねばと思うフラッドだったが、無慈悲にも残りのカウントダウンが5秒を切ったのが聞こえてくる。
「ローナごめん!時間がもうないから入るね」
「ちょ~ふぁ~~」
時間が迫り選択肢が一つしかなくなったフラッドは、ローナに一言謝るとそのまま中へと入る。
フラッドが入り切るのと同時に、ザックのカウントがゼロを迎え、掛け声とともに始まったのが伝わってくる。
木箱の中は見かけから一人か二人入れるかといった大きさであったため、二人入っている現状、どうしても密着することとなる。
「フラッド君~手~変なところ~当たってる~」
「ごめん!急いで入ったから・・・今動かす」
フラッドは突き出した左手から伝わるプニプニとした感触とローナの言葉から慌てて手を動かそうとする。
「はぅぅ~動かしちゃ~ダメ~」
「っ!?でも・・・」
「動かされると~擦れて~変な感じするから~」
「ご、ごめっ」
(ふおぉぉぉ!ローナ動くなプニプニがー!
なに?俺何処触ってんの?
くぅ女の子特有の仄かな甘い匂いが・・・
意識するとますます・・・不味い、このままだとマイサムが臨戦体勢になってしまう
落ち着け俺!居間密着しているのはオッサンだ!
そう、オッサン。脂ぎってテカテカしているオッサンだ)
理性を保とうとローナを脂ぎった中年男性だと思い込もうとするフラッドだったが、身じろぎした際の刺激からか、何とも艶のある甘い吐息を耳元に感じ現実に戻される。
「んぁっ!ひゃんっ」
「ローナも動かないで!」
(クソォォ!耳元でこんなん聞かされたらオッサンなんて思えんわ!
そろそろマイサムが・・・ええいどうすれば!)
「ふぁっ!」 ガタンッ
再度の刺激にローナは身を震わせると木箱も共に揺れる。
その音を聞きつけてか複数の足音が近づいてくる。
「さっきここれへんで音しなかったか?」
「そうだね。たぶんこの辺にどっちかが隠れているんじゃないかな?」
「フラッド君だといいなぁ」
「この木箱怪しいな!エルロス開けるの手伝え!」
「はいはい」
二人で木箱の蓋をずらすと、そこには頬が上気しお互いに荒い呼吸をするフラッドとローナの姿があった。
その体勢は、フラッドがローナを押し倒すかのように覆いかぶさっており左手は彼女の脇腹に添えられていた。
蓋が開いたことにより差した光で状況を把握できたフラッドは、自分が触れていた箇所が想像していたところと違うことに安堵の息を吐く。
はたから見たらナニかをしていたようにしか見えない二人の状態にエルロスは戸惑いを感じていたが、それも後ろから
ビシビシと伝わる怒気に振り向くと恐怖に変わる。
「フラッド君、ローナちゃんと何してたのかな?
返事をしようと顔をあげた先に居た般若にフラッドは釈明をしようと口を開く。
「ちがうんだ!これには訳があって――」
お読みいただきありがとうございます。
誤字脱字ご報告いただいたものは極力修正していきますのでよろしくお願いいたします。
次話は4/14を予定しています。