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「来たようだね」
今や瓦礫の山と化したロビーの入口を見据えてアリッサがつぶやく。
「来たっていうのは…」
「雪妖のやつがここを狙って来たってことー」
『ヴォォォォォォ!!!!』
アリッサの言葉が終わらぬうちに、入口からものすごい勢いで、数える事もままならないほどたくさんの氷狼が、ロビーに踊りこんできた!!
「ああっ!!」
悲鳴をあげるブランを横目に、ロジ・マジが皆の前に進み出た。
「おお、狼ども。こいつは懐かしい」
「ちょっ!!ロジ・マジさん!!そんなのんきな…」
ブランの言葉もどこ吹く風の老魔導師が右手を上げると、一筋の光と共に杖が現れ、その手に握られた。
黒い金属の柄をもつその杖の先端には、石製の獅子の首がつけられていた。
「そら、あったまれ」
ロジ・マジが杖を一振りすると、獅子の口から大量の熱湯が湯気とともに吹き出した。
『ギャオオオ……』
湯の固まりを浴びた氷狼達は、またたくまに押し流され溶けていき、ロビーには、湯気と静寂だけが残った。
「ここで奴と戦うのはいかんな」
ロジ・マジはそうつぶやくと、杖で地面をトンとついた。
「建物を丸ごと結界で包んどいたぞ。それにしても、わしがいた頃はボロ屋だったのが、今はまるで城のようだのぉ」
ロビーを見回しながら、ロジ・マジが感嘆の声をあげる。
「よかったぁ。これでみんなひとまずはー」
ブランがそうつぶやいた時である。
「ブラン、危ないっ!!」
「へっ?」
柱の陰で難を逃れた一匹の氷狼が、ブランめがけて飛びかかってきたのだ!!
「うわぁ!!」
ガキィィン
ブランは自分の右腕がググッと勝手に動いた事に驚いた。その直後、今度はその腕につけた盾を通して激しい衝撃を感じた。
ブランの首にかぶりつこうとした氷狼の試みは「素人の盾」に阻まれ、あわれな魔物は、直後にガンダルガの剣によって叩き壊された。
「どうやら、まだ返さなくて正解だったようですなぁ」
しりもちをついたブランを助け起こしながら、ポッテヌがにこやかに微笑んだ。




