80
彼女は、目の前で繰り広げられるブランとガンダルガの口角泡を飛ばすやりとりを見るうちに、思わず吹き出し、笑顔を見せたのだ。
「じゃあ、とにかくお湯に入れてみますね」
彼女は、二人をなだめるように声をかけると、手に持った袋を軽く揺らしてみせた。
無論、彼女がこのほんの半日ほどの間に受けた深いショックや傷から立ち直るには長い長い年月が必要なのだろうが、若い介護士と年老いた戦士のあまりにくだらない会話を目の当たりにし、ひとまず周囲の人間に気丈に振る舞える程度の元気は取り戻したようだった。
まだ幼いとはいえ、この地の首長の血筋であり、力強いことで有名な北方の女性でもあるミミの態度に、ブランは半ば安心し半ば感心したのだった。
サァァァァ………
ミミによって投入された粉は、湯船の中であっという間に溶けて消えてしまった。
「………何も起こりませんね」
「シッ!!」
ブランのつぶやきをアリッサが制する。
「フェルナンド。そこの扉の裏には何て書いてあったんだい??」
アリッサが、チラリと入口にある緑色の扉の方へ視線を送りながら、老詩人に問いかける。
フェルナンドは、一呼吸置くと、その渋みがかった声で節をつけながら、アリッサからの質問に答えた。
「緑の鍵、第三の鍵。最後の扉を開く鍵。白き粉にて時を溶かし、逆さの意味を知るべき時」
「逆さの意味??」
「ミズル版画だよ」
ブランの問いにアリッサがニヤリと返事をした、その時である!!
「わあっ!!」
突然目の前の温泉から、まばゆいばかりの光がはなたれた!!




