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薬湯に入り、ひとまず元気を取り戻したブランは、一階のロビーに併設されている食堂へと足を運んだ。
腹を満たしたら、すぐに二階で怪我人の手当てをしているメディナ達に合流するつもりだった。
幸いな事に、湯〜ゲルンに避難した者たちは、当面、寒さと飢えを心配する必要はないようであった。
食堂の入口で、宿泊客達の質問攻めにあっていた湯〜ゲルン従業員の話によると、建物内部は、温泉の熱を利用した暖房設備が整っており、食べ物も、少なくとも1ヶ月分はあるという事である。
広い食堂内では、やはりロビーと同じように、宿泊客や地元の住民らしき人々が、不安そうにいくつかのかたまりに分かれ、様々な情報や憶測をささやき交わしていた。
「俺たちは一体どうなっちまうんだ??」
「せっかくの旅行なのになんでこんな事に…」
「なあに、すぐにロクス軍の精鋭部隊が救援に来るさ」
「何でそんな事がわかるんだ?」
「これだけの異変だ、すぐに近隣から首都ロクスへと早馬が飛ぶだろう。ニーゲルンはロクスきっての観光地、金の成る木をむざむざと枯らしはしないはずだ」
「なるほど」
「あの若い魔術師達が張った結界のおかげで、狼共は中に入れないようだし、ここは待ちの一手だ」
「ふむ、確かにもっともだな」
鳥肉をはさんだパンとスープがのった盆を受け取り、席につき食事をはじめたブランだったが、一人でいる分、周囲からの声がよく耳に入って来た。
その結果、ブランは二つの事に気がついた。
ひとつは、皆今回の出来事は、異常気象に乗じた魔狼たちの襲撃だと考えているようで、伝説となっている強力な妖魔ヴィシュメイガの復活には気づいていないという事、いまひとつは、この異常事態をとりまとめようとしている人物が、誰一人いないという事である。
とりわけ重要な問題は、後者であるように思われた。
このような緊急時に、統率力のあるリーダーがいるといないとでは大違いである。
今は『太陽の家』の面々が何とか湯〜ゲルンの人々をまとめているが、ひとたびパニックが起これば、どうしようもないだろう。
ニコライ老はそのような状態ではないし、ミミはその役目につくにはまだ幼すぎる。
ガロン村長に至っては、ブランに言わせれば、この場にいなくてむしろよかったと思えた。
(あの雪妖を倒さなければ、ここを抜け出せないとしたら…)
それは相当に絶望的な話ではないだろうか。不吉な思考がブランの脳内をよぎった。
確かにアリッサは強力な魔法使いであるし、ガンダルガとて歴戦の強者である。
しかし、二人だけでヴィシュメイガに立ち向かったところで、結果は見えているだろう。
ポッテヌやフェルナンドが戦闘に向いているとは思えないし、魔道サークルの面々はしょせん学生である。
(これからどうなってしまうのだろう…)
結局のところ、月並みな疑問に立ち戻ったブランは、スープの最後のひとすくいを口に運んだ。
「ブラン、もう元気になったかい」
背後からの声に振り向くと、パート介護士のメディナが立っていた。
このような状況でも、いつも通り気丈な様子の彼女は、ブランが元気そうな事を確認すると、顔をほころばせた。
「どうやら大丈夫そうだね」
「ええ。すみませんご心配をおかけして」
「なあに、気にすることはないさ」
メディナの肝のすわり具合を見ていると、ブランの中にあった不安も、いくぶんは軽減されていた。
「食べたばっかのとこで悪いんだけど、すぐにロビーへ来てくれるかい」
「ロビーですか?」
「ああ、とりあえず『太陽の家』の面子でミーティングをする事になったんだよ」




