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「ノルン様」
薄暗い部屋の中央に、黒いフードとマントに包まれ、肩ほどの高さの杖を手にした魔道士の上半身が浮かび上がる。
無論それは実体ではなく、おのが主への報告をするため、魔道の力で現れた映像であった。
「やはり……雪妖だったろ」
一段高い、様々な宝玉がちりばめられた座所に腰をおろしている美しい顔立ちの青年が、映像の魔道士に向かって話しかける。
肩までたらした黒髪に、深い紫色のローブをはおったその人こそ、魔道王国ドルクロスの若き大公、ノルン・セタ・フォビュアである。
「はっ…ノルン様が北方ロクスにて感知された高エネルギー体の正体は、雪妖ヴィシュメイガに相違ありませんでした」
映像の魔道士は、フードを深くかぶったままボソボソと報告を続ける。
「ヴィシュメイガは現在、ニーゲルン上空にて大規模な術法を展開しておりますこれが成功しますとー」
「哀れニーゲルンは、一夜にしてすべて雪の下に埋もれてしまうわけか」
「はっ」
「……ご苦労だったね。引き続き監視を続けるように」
「はっ」
魔道士の映像が消えるのと入れ替わりに、別の映像がノルンの前に現れる。
「ノルン様」
「やあ、ギリウス」
刈り上げた短い白髪にしわ深い額、黒眼鏡が印象的なその老人は、大公付きの筆頭魔道士、ギリウスである。
「すでにお聞きになっていると思いますが…」
「ああ、ニーゲルンの件だろ」
「さよう。北方を統括する我らとしては、何らかの対策を打たねばなりますまい」
「そうだねぇ…」
ノルンは目を閉じたまま、どうしたものかと考える様子だったが、不意にいたずらっぽい笑みを浮かべてみせた。
「やはり、私が直接出向くわけにはいかないんだろうね」
「はい。ノルン様ご自身が一番よくおわかりと思われますが、『現世不介入』の原則がごさいますゆえ」
ドルクロスにおいて、最高統治者である魔道王グリムス及び三人の魔道大公は、その神に近い魔力をいたずらにふるうことがないよう、現世への直接干渉が、国法によってかたく禁じられているのだ。




