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「ああ、ここにいたんですか」
ブランに声をかけられ、ソファーにふんぞり返った老女が、不機嫌そうにこちらを振り返る。
「なんだいブラン、そんな息を切らせて。みっともないねえ」
「ちょっ!!そんな言い方はないでしょう。アリッサさんが来ないから食事が始められないんですよ」
…フェルナンドと共に415号室に行ったブランだったが、部屋にはすっかり食事の準備が整えられており、アリッサを除く全員が集まっていた。浴衣姿ですっかりくつろいだ様子のガンダルガが、さっそくとばかりに声をかけてきた。
「小僧っ!!アリババはまだ来んのか!!お前が担当なんだから、しっかり見張っとかんか!!」
「いや、ちょっと待ってくださいよ。僕は下の部屋で、皆さんがとっちらかした荷物を片づけてたんですよ」
「それはそれ、これはこれじゃ」
「そんな無茶苦茶な…」
「そして、わしはわしなんじゃ!!わはははは」
ガンダルガの馬鹿笑いに、ブランは、抗議の声をあげる元気すらなくしていた。
「多分、一階のロビーか売店にいるんじゃないかね」
助け舟を出してくれたのは、パート介護士のメディナだ。
「ロビーですか、ありがとうございます!!」
「あたしが呼びに行こうか??」
「大丈夫、いってきます!!」
…そんなやりとりがあり、ようやくブランは、ロビーの窓際に座り、地元の観光案内が書かれた冊子を読んでいるアリッサを発見したのであった。
「わかったわかった。すぐに行くよ」
アリッサはうるさそうに手を振ると、重たい腰をあげかけた。
「ちょっとストップ!!」
「あ?」
「あのですね……上に行く前にお願いしたいことがあるんですが…」
「……何だい?」
立ち上がりかけた姿勢のまま、アリッサが怪訝そうな表情を浮かべる。
「夕飯に遅れちまうよ、いいのかい??」
「……はい」
それを聞くと、アリッサはニヤリと不敵な笑みを浮かべ、どかりとソファーに腰かけた。
「何だってんだ、言ってみな」




