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ものの五分とかからぬうちに一行は「ロジ・マジのほこら」にたどり着いていた。
しかし、彼らの前に広がっていたのは、なかなかに奇妙な光景であった。
「これは一体…」
それは、案内人のネルガとっても想定外の事態だったようで、驚きの表情を隠せないでいる。
確かに目の前にはそれらしき木製の小さなほこらがあったのだが、問題はそのうしろ側にあった。
ほこらの後方には、等間隔に杭が並び、進入禁止を示す黄色いロープが張りめぐらされていたのだ。
ロープの向こう側の土地には、おびただしい数の「切り株」が広がっていた。
本来ならば、今来た道と同じように自然森が広がっていたのだろう。
だが、今やほとんどの木は切り倒され、すっかり丸ぼうずにされてしまっていた。
メリメリメリ……
そして、残されたわずかな木にも、労働者風の男達が群がり、巨大なノコギリや縄を使い、それらを次々と引き倒している。
「すみません。ここは、あまり人の訪れない静かなスポットとして予定に入れていたのですが…」
ネルガが、ブランにだけ聞こえるようにささやく。
辺り一面に切り株が広がり、木々が悲鳴のような音を立てて倒されていく光景は、とても「静かなスポット」とは言い難かったし、何より、見る者を何となく不安に、落ち着かなくさせるものがあった。
ブランが、ネルガに対し何と答えようか考えていると、元行商人のポッテヌが口を開いた。
「おや、どなたかこちらへ来るようですぞ」
彼の言葉どおり、ロープの向こうの切り株の間を抜け、何人かの男たちがこちらへ歩いてきた。
「どうもどうも!!観光でいらした方ですか??」
先頭に立ち、満面の笑顔でこちら近づいてきたのは、赤黒い長衣をはおった四角い顔の中年男だった。
両脇には、見るからに屈強そうな傭兵とおぼしき男二人を従えており、中年男自身もまた、なかなかにがっちりとした体格の持ち主であった。
「はじめまして。ここニーゲルンの村長をさせていただいている、ガロンと申します」
男は、いかにも愛想を振りまくような様子を見せながら、ロープをまたぎ越え、こちらに手を差し出してきた。
「ようこそ!!温泉郷ニーゲルンへ!!」




