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ブランは、ポッテヌとフェルナンドに挨拶を済ませると、ロビーの一番隅のソファーに座っている、アリッサのところへと向かった。


他の三人の老人の周りは、見送りに来た入居者や職員が入れ代わり立ち代わりしていてにぎわっていたが、アリッサのいる一画だけは人が寄りつかず、どことなくうら寂しい空気が漂っていた。


しかし、彼女が一人きりだったというわけではなく、向かいのソファーには、ちんまりとした老女が腰かけていた。


「あら、ブランちゃん」


簡素なワンピースに身を包んだその老女…ドロシーは、ブランが近づくとうれしそうに微笑んだ。

彼女は、目が全く見ず、移動するには杖の助けが必要な生活であったが、それを補うかのように研ぎ澄まされた聴覚を持ち、足音を聞くだけで、相手が誰かを判別することができるのだった。


「おはようございます。ドロシーさん、アリッサさん」


「おはよう」


ドロシーは朗らかに返事をしたが、アリッサはいつも通り「ふん」と鼻をならしただけであった。


「今ね、お互いのお土産は何がいい?って話し合ってたとこなの」


「そうですか」


「ドロシー、余計な事は言わなくていいんだよ」


心なしかアリッサは照れくさそうである。

さしもの彼女も、天衣無縫なドロシーの前では、いささか毒気を抜かれてしまうようだ。


「おやおや、みんなお揃いで」


陽気な声でブランたちに近づいて来たのは、パート介護士のメディナである。

彼女は、一同に挨拶をすると、ポンとブランの肩をたたきながらアリッサに話しかけた。


「アリッサさん。旅のキャリアは、あたしやブランよりずっと長いんだから、今回は色々助けてちょうだいね」


「ああ、わかってるよ」


「ロクス王国には行った事あるの??あっちは何が美味しいのかしら?」


「そうだねえ…」


メディナはニーゲルンの里があるロクス王国のお土地柄について、アリッサとよもやま話を始めてしまった。

引率者が引率される側に頼るのも変な話ではあるが、アリッサがどの引率者よりも旅慣れているのは確かなので、ブランは黙って熟女たちの会話を聞いていた。

どうやら、アリッサとメディナというのも、なかなかに相性がよい二人であるようだ。


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