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旅行当日の朝は、雲ひとつない晴天であった。


結局、温泉郷ニーゲルンへは、11泊12日という、かなり長期の旅程が組まれることとなり、2泊3日のアルラ温泉に行くグループよりも、一日さきがけて出発すること、『太陽の家』と懇意にしている旅行会社から案内人が派遣されることなどが、この数日間でバタバタと決められた。


「なんじゃ小僧!?その荷物は?」


背中に大きなリュックをしょい、両手からそれぞれかばんを下げ、ふらふらと二階からロビーへおりてきたブランに、威勢のよいしわがれ声が飛ぶ。


「ああ、おはようございます、ガンダルガさん」


「そんな大荷物じゃ、馬車に乗るまでに潰れてしまうだろうが!!」


そう言うと『太陽の家』の入居者である巨漢の老戦士、ガンダルガは、がははと豪快な笑い声を上げた。

無論、馬車は施設の門の前にとめられているので、それは例え話であったのだか。


「確かに……みなさん荷物少ないですね」


ロビーには、アリッサ、ガンダルガを始め、今回の旅行に参加する一同がすでに揃っており、それを見送りに来た他の入居者や職員でごったがえしていた。


「まあ、ガンダルガ。彼は旅慣れてるわけじゃないんだからしかたなかろう」


顔一面に人のよさそうな笑みを浮かべた、ぽっちゃりとした白い口髭を持つ老人が、パイプをふかしながらブランの方に歩み寄って来た。

動きやすそうな布の服の上に、肩からななめにかける大きなかばんを下げている。


「おはようございます、ポッテヌさん」


「ああ、おはよう」


ポッテヌは、ブランが『太陽の家』に就職した月に入居した利用者で、それまではずっと、行商人として大陸各地を行脚していた人物である。


「ふむ、あとで荷物のまとめ方を教えてあげよう」


「ありがとうございます!!」


ポッテヌの親切にブランが礼を言った時であった。



ポロロン…



ロビーになにやら弦楽器を爪弾く音が流れた。


「ああ、フェルナンドさんだ。おはようございます」



ポロロン…



彼らに近いソファに腰掛けているフェルナンドと呼ばれた人物は、ブランへの返答代わりに、手にした竪琴を器用につま弾いた。

皮製の三角帽子をかぶり、肩まで白髪を足らし、体ををすっぽりと覆える大きな茶色のマントをはおった、なかなかに品のよい顔立ちの老人だ。


「フェルナンド。馬車にのったら、さっそく何曲かお願いするよ」


ポッテヌが竪琴の老人に陽気に話かける。


フェルナンドは、吟遊詩人として諸国を漫遊し、数々の有名な冒険者達に同行した経歴を持つ人物であり、吟遊詩人達の間で知らぬ者はないとされている有名な存在なのである。


今回、ニーゲルンの里へ行く元冒険者の面子というのは、アリッサ、ガンダルガ、ポッテヌ、フェルナンドの4人であり、魔法使い、戦士、商人、吟遊詩人という、高齢であることを除けば、なかなかにまんべんのないパーティーであると言えた。


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