2話 ノブチン、ソードを創る
「うぅ…」
目は覚めたけど、気持ち悪い。体の全体を虚脱感が—――――あれだ、30時間連続でフルクアンタムセイバーのジオラマを作った後の感じだよこれ。
「あー、クソ!魔力を使いすぎるなってことか…」
全身を襲うだるさに憂鬱になりながらも、自分のスキルに極上の喜びを感じるノボルだった。
「これってもしかして極めたら…本物のクオンタムに乗れちゃうんじゃ??ああ…やばい、テンション上がってきた。でもその前に、」
ノボル頭の中で魔力の鍛え方を念じる。さっきまで高校で朝礼をしていたとは信じられない程にクオンタムを創る為の思考を巡らせていた。これがノボルのクオンタムを前にした狂人のような熱意である。
ノボルの問いかけにステータスボードが光り回答を示す。
魔力はこの世界においてすべての人の体内に存在する神が与えし摂理を越えた力である。魔力に関しては個人差が存在し、初期の強さや上限値は先天的な要因で決まる。生まれた後に鍛えるためには
魔力の上げ方以下3点が基本となる。
1.レベルの上昇:この世界は個人の成長度合いをレベルという概念で表している。魔獣の狩猟や戦争における戦闘での勝利などにより、上昇していく。
2.魔力操作の熟練:魔力は体内を巡る恩恵。正しく操ることが出来れば同じ作業(炎の精製や雷放出など)において、10倍以上のエネルギー効率差が生まれる。魔力操作は効率的な使用を常に思考し、実践することで上達可能。
3.心のつながり:本人と強い精神的なつながりを持つ生命体の数・質により体内を巡る魔力の強さが上昇する。恋人や妻などが出来ると一人につき平均的には2倍から3倍の魔力上昇が起こる。ただし、心がつながっていない形だけの関係では効果は薄い。
よし、レベルの上昇と魔力操作法を覚えればいいんだな!!
3.は見なかったことにしよう!!ノボルは決意した。
続けていくつかの質問を投げかける。
魔獣とは?
魔獣
体内で魔力が暴走し、神の加護から外れた生命体。この世界に広く分布しており暴走が激しい生命体程強力な魔獣となり、外見が激しく変化する。体内魔力の暴走を止めることで元の生命体に戻る可能性もあるが、大半は異形な存在のままである。
魔力操作の学校はあるか?
魔力操作という概念はこの世界に広がっていない。何故ならこの世界に住む住民たちにとって恩恵とは絶対的な力であるため、その力を解き明かそうとする者たちは発見次第火あぶりや斬首に処される。
うげ。なるほど、信神深い民衆ってことね。とりあえずは一人で練習するしかないのかー。
因みに、魔力を鍛えるのにいい場所とかありますか?
ここより南へ3キロの地点に洞窟あり。地下深くまで続く洞窟となっており、深奥にはかつての英雄が民衆により裏切られ、結果体内魔力を暴走させたことで誕生した強力な魔獣が籠っている。魔獣の濃い魔力により強制暴走させられた生命体が魔獣として洞窟内に籠っている。
…魔獣はなぜ洞窟の外に出ない?
強制暴走の影響下にある魔獣はその影響外へでると9割の確率で体が爆発四散する。
こっわ。…俺がそんなところに行って大丈夫だろうか?
神の加護により、非常に強力な身体能力に目覚めているため可能。ただし、武器が必要となる。
あーなるほど、加護か。じゃあ武器をスキルで作ってみるか。さっきみたいな複雑なのはまだまだ厳しいらしい。こういうのは基本的なやつから作製しなきゃ!!
ノボルはクオンタムシリーズ第5作品 星間戦士クオンタムブラストに出てきた主人公がお守りとして持っていたラウンドシールドソードをイメージした。
柄の近くの部分は円形に象られ、シールドの下部からは大剣を思わせる太い剣先が伸びる。切れ味に特化しているわけではなく敵を薙ぎ払うようなイメージ。主人公 タムロが1話冒頭父親にしごかれているとき、タムロの振った剣はシールドバッシュで弾かれて粉々に砕け散り、タムロは父親が当てないように振った剣圧のみで吹き飛ばされた。あれはいいシーンだった。「いつか…いつかあなたを越える…」って言った主人公のあのセリフが伏線回収された時は泣いたわーー。その後は主人公がクオタムブラストに出会うため、人間同士の戦いはそこだけだったけど印象深いシーンだった。
ノボルのクオンタムシリーズに対する愛情は異常と言えるほど。であり、丹念にイメージしたラウンドシールドソードは形を成していった。しかし、途中でノボルの手が止まる。
いやまて?この世界の鉱石が分からないから素材は細かく指定したいんだけど出来ないぞ?
この世界の鉱石について…とノボルは頭の中で念じる。
すると説明書はまた光る。
鉱石…約2万種類程存在。
そのあと見えない程の小文字でズラーっと鉱石が並べられた。
うわー全然わからん。武器とか防具に仕える鉱石を表示できる?
すると約20種類の鉱石が表示された
ライトクリスタル…導魔力性が高い鉱石。どこにでもある。
ヘビークリスタル…非常に硬度が高く、導魔力性がぶれやすい。
クラリス鉱…非常に硬いが、熱に弱い。
トール鉱…熱に強く変形しにくい鉱石。
タンデウム鉱…一切の導魔力性を持っていない。非常に柔らかい鉱石
キール鉱…剣の素材として一般的な鉱石。硬度は普通。
ぺトラ鉱…美しく光る鉱石。衝撃に弱い。
タナトニウム鉱…柔軟性と硬度を併せ持つ非常に珍しい鉱石。
ペンドラ鉱…通電することで一気に柔らかくなる鉱石。
パンデミック鉱…砕くと一気に空気中に拡散する鉱石。
エア鉱…最軽量の鉱石。割れにくく、衝撃にも強い。
ダール鉱…最高硬度の鉱石。2000℃以上で溶ける。
ポタライム鉱…最高柔軟性をもつ。氷点下に置くことで数時間後に硬くなる。
ルクス鉱…光り輝く鉱石。割れやすい。
ボム鉱…衝撃に弱く、衝撃を与えると周囲に猛スピードで拡散する。
メタルヴァイス鉱…最高の魔力導性能を誇る。加工難易度が非常に高い。
エンドクリスタル…赤の波長以外の光を無限に吸収する鉱石。赤黒く光る。
バーンクリスタル…熱を吸収するクリスタル。吸収されたエネルギーは一定量保存され、限界量を超えると超えた分の熱量が放出される。
フローズンクリスタル…冷気を吸収するクリスタル。吸収されたエネルギーは一定量保存され、限界量を超えると超えた分の冷気が放出される。
マッドクリスタル…魔力を通すと丸形の鉱石が変形し、ウニのような形になる。
グラビ鉱…魔力を通すことで周囲に掛かる重力が変化する。
グオーム鉱…伸縮自在の不思議な鉱石。柔らかく壊れにくい。衝撃に強い。
マナ鉱…魔力を溜めることのできる鉱石。溜まったマナを回収することも可能。
ノボルの熱がまた一気にヒートアップした。
「うおおおおおお!燃える!!俺のイメージ通りのラウンドシールドソード作ったるぜ!!」
しかし、モノづくりにおいて冷静さも兼ね備えたノボルは抜け目ない。
「自分の魔力の全量を100、空の状態を0として現在の魔力残量を表示できたりする?」
思い浮かべるだけでいいのだが思わず声に出る。
説明書が光る。
魔力残量
92/100
完璧じゃないか!!このボード有能すぎる。
ノボルは興奮しながら手の上に手のひらサイズのマナ鉱を創りだすとイメージする。
瞬間、手のひらにそれっぽい鉱石が出てきた。ノボルは魔力残量を確認する。
82/100
「うわ!10%消費とか、燃費悪すぎ!!他の鉱石は?」
どこにでもあるというライトクリスタルを思い浮かべ、同じサイズで創る
82/100
「ほうほう?鉱石ごとに創出のコストが違うのか…」
ノボルは思考を巡らせる。
どの位まで消費すると気絶する?
説明書が光る。
0まで
あーなるほど、回復の所要時間は?
説明書が光る。
現在の段階では1の回復に1分程度要する。
となると…沢山使えるね!!
そしてノボルはさっきまで形だけ朧気に完成していたラウンドシールドソードを手に取る。
やっぱりシールドの部分は兎に角硬度でしょ!!
クラリス鉱をイメージし、丸形で創出する。そしてシールドの上部下部に柄から剣先の芯の素材として長くて太いクラリス鉱を伸ばす。
魔力残量確認!!
81/100
余裕じゃんか!マナ鉱が異常にコストが高いのか…よし、作業を続けるか!!
柄の部分はエア鉱で薄く包み、その上にグオーム鉱を滑り止めとなるように薄く巻いた。
魔力残量
77/100
うえ!どっちかコスト高いな…気を付けよ。
剣先の部分は芯から大剣のようにダール鉱を伸ばし、相手にぶち当てる部分は鋭いキール鉱で創った
魔力残量
55/100
やばい!!これはたぶんダール鉱だな…最高硬度だし…。
そして最後に切っ先以外の表面をトール鉱で囲う。これにより熱にも強いシールドラウンドソードが完成した。
「うん。いい出来栄え!!やっべ、興奮する。これって色をイメージ通りにするって可能なのか??」
説明書が光る。
可能。
「あーーー最高かよ…」
ノボルはソードに触れイメージする。すると金色の柄に灰色のシールドと刀身になり。タムロの実家の紋章が柄に刻まれた。
「やばい、泣きそう。でも、細かい所が気に入らない。」
そういってノボルは現実世界で使用していた工具と染料一式を創出する。
魔力残量
30/100
あ、調子乗った。でも、こっから手作業だし大丈夫か!
そしてノボルはカラーリングに入る。約1時間の作業の後、完璧なカラーリングのシールドラウンドソードが完成した。ノボルは号泣した。
「うおおおおおおおおおお…この手にタムロのお守りがッツッツ!!」
感動しかなかった。しかし、しっかり魔力残量は確認する。
93/100
おお!しっかり戻ってる!あとはこのカラーリングが取れないようなコーティングをイメージ!!
魔力残量
72/100
おお…あれか、具体的に存在しない物を創出しようとするとコスト高いのかな??
ま、そこらへんはおいおい掴んでいけるだろ。
ノボルは満足げに完成したラウンドソードを持とうとした。しかし…
「おっも!!!!」
当然の話だった。鉱石の重量を考えず、勢いで創っただけあってとんでもなく重いソードが出来上がっていた。加護の下で滅茶苦茶な筋力を持つノボルでも持ち上げることで精いっぱいな程に。
「あーーーー!!失敗したよ!!!くっそーーーーでもこのソードを置いていくなんて俺には出来ない!!!」
ノボルはうずくまり強く地面を叩く。
そんなノボルの前に急にリュック?のような物が現れた。
リュックの上に紙がついている。
これ、プレゼント、ものが無限に入って重さは変わらない。 ぜうす
ふぁ!?4次元ポケ●トかよ!?神様ありがとう!!!
なんか神王っぽい人からとんでもない物もらった。
そのあと泣く泣くソードをしまったノボルはレベルを上げて筋力上げてシールドラウンドソードを使うために、とりあえずキール鉱で普通の剣を作った。目指すは洞窟。
ノボルの頭からは最早世界を救うという事項が抜け落ちていた。
—————―――――――――神の間—————――――――――
ゼウス「っぶっふ!!あいつだけ世界救うためにうごいてないんだけど!!!」
ゼウスがツボにきて捧腹絶倒している。
ルクセンブルク「…お恥ずかしい限りです。」
ルクセンブルクは早くも目的から全力で外れていくノボルを見ながら頭を抱えていた。