鷲と黒丸烏と羊飼
あるところに立派でおおきな鷲がいました。みたひとはだれでもまあまあと声をもらさずにはいられない陽だまりのようにおおきかったのです。七宝にならぶほどのきれいな瞳がいつもきらきらと光っておりました。図体ばかりおおきかったのかというとそうでもなく、たいそう聡くこれときめた獲物は一疋も遁がすことなくつかまえました。鷲はおおきかったからこそ己れのちいささやはかなさといったものを弁えていたので煮え湯をのまされることはなかったのです。ねむるときはしかたなく地上にとどまっているといったような我慢ならないかおつきをしていましたがそれは永い年月をかけて、すこしずつたくわえた聡明さのうらがえしでもあったのです。鷲は空をとんでいるときこそうつくしいのであって、それ以外は決してほかのだれにもみせまいとつよがっていたのでした。
ある日いつものように餌を空たかくからうかがっていると、羊飼いたちをみつけました。羊は十ほどあり、その半ばくらいのこどもがまつわるようにおとなにひっついていました。かわいらしく足を懸命にはたらかせ、必死に群れについてゆこうとしています。そこへ一疋ひときわあるくのがおそいこどもがおりました。羊飼いは気づいている様子もなく、鷲にとっては格好の餌でした。おちるように真っ逆さまにとんだ鷲は太陽の光にのって仔羊にすいこまれていきました。仔羊からしてみれば、いきなり世界が動顛したようにみえたでしょう。はじめはおどろいたようにぶるぶると体をふるわせていましたが鷲につかまったと知るとたちまちもがくのをあきらめました。鷲はそれを巣へもちかえるとおいしそうにたいらげて満足したので残りひねもすぐっすりと眠りました。
これをじっとながめていた鳥がいました。黒丸烏です。あまりうつくしくない仲間の鳥で鷲とくらべると毛並もわるく、どこへいっても疎んじられることばかりでした。鷲のみごとな生け捕りをみた烏はなにくそと羊飼い一行へとびたちました。ところが烏がねらったのは仔羊ではなく、立派な大人の羊でした。烏の爪はちっとも奥へはいらないで、皮のあたりをちくりくと棘のようにくすぐるだけです。いつまでも羽ばたきのこうるさいおとないがとうとう羊飼いの首をうしろへふりむかせ烏はひっ捕らえられてしまったのです。
「こいつはどうやら自分のことを鷲と思い込んでいるようだが間違いなく黒丸烏だ。馬鹿な奴がいたものだな」
イソップ童話の断章ですね
抜きん出たものと張り合うと痛い目を見るばかりか笑い者にされてしまうという教訓だそうです