鷲と狐はイソップ寓話のひとつです
今回は二つ要素があります
総ルビ
句読点の排除
この二つがどう作用するか、どう作用していくか、どう作用したか
或る処に羅紗の如く麗しい鷲一羽と煤煙を冠った文色の見窄らしい狐一匹が居り両者は天と地程乖離した寝食を過して居た鷲は屹然とした鮮烈な黒目がちな瞳を眼窩へ据え鋭く怒せた鼻梁は鉤爪の如く凄惨に光り滝のように揃う朧銀の羽毛は燦然と冴え緻密な均衡を保ち倨傲な心根ために貌は恒に猪首と解されその巨きな両翼を展げると忽ち飛翔する力が秩序を押退けて九天の究竟で光芒と水際立って結合したそれに較べて狐の相貌は襤褸を縫い附けたように疎に剥落し淡く薄く灰燼を塗したが如く汚れ仮令旺る昼日中であっても近所の隻影と仔細の判別もつかず人足に庶幾い饑い消光であり濁った井戸の水を啜り熟れすぎた果実を食べ平生は分限者たる鷲に頭を垂らす生活であった今鷲が棲む金色に輝く枝を撚りあわせた金殿玉楼も万ての枝は狐に用意させた流石に狐は飛べないので喬木へ運び巣を編んだのは鷲が行ったが狐は蝟集る最中に蛇には噛まれ、容赦の無い不運と幾度となく逢着した狐は鷲の棲む喬木の下枝深く影の澱む処へ巣を造り子を儲けた未だ世俗に不浄ぬ珠のような我が子は繊細な金無垢であった或る日腹の空いた鷲は狐の留守の間に子を攫い喰った狐が帰還ると事の経緯を悟り歎き悲しんだがそれにも増して辛かったのは復讐の出来ぬことだった狐は仕返しの手立もなく翼無い身を怨み仇を恨つづけ或る日鷲は平生の如く威丈高に宙を滑り祭壇に祀られる山羊の肉を頂戴した是には未だ焔が燻っており俄かに突風が熾ると嘴に挟んだ餌を思わず落として仕舞う金色の巣へ飛び移った焔は忽ち威勢能く盛り雛は悉く焼け喬木から焦げ落ちた狐は草生を掻分け一直線に飛込み鷲の目の前で雛を完食げた