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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夜空に手を

作者: 如月翡翠

もともと、暇潰しにと長編にしていたものを短編に纏めたもののため、美穂の病弱設定はかなり影が薄くなっております。

これいる?と、感じる方もいらっしゃるとは思いますが、そういった事情を加味して頂けたらな、と思います。


なお、最近はあまり文章を書いておりませんでしたので、問題がある可能性があります。


私は夜空が好きだ。

完全に黒に染まっている訳でもなく、周りに散りばめられた微かに輝く星星や、優しく地へと柔らかな光を下ろす月によって藍色掛かる夜空が。

どうしてか、身近に感じられるそれは、手を伸ばせば届きそう……なんて思わせてくれるから。


「愛美?」

後から聞こえる自分を呼ぶ声に胸がはねる。

何でもない日常に溢れたただの呼び声が、この場所から聞こえるということにどうしようもなく嬉しさがこみ上げてきてしまう。

「また空を見ているの?何もこんな真冬の夜に見なくてもいいでしょう?早く中に入ろうよ」

思わず、にやけてしまう顔を出来るだけ自然な笑いになるようにしながら、私は振り返るのだ。

「私が夜空を眺めるのが好きなのを知っているでしょうに。それより、美穂こそ外に出てきちゃだめじゃない。また体調崩しちゃうでしょ?」

振り返り、彼女の波打つ艶やかな髪に目を取られつつ、視界の正面に収めた彼女が吐く吐息は空気に溶けこみ、寒そうにこちらを見る彼女を見ると、途端に不安になる。

「大丈夫。今日は体調がいいの」

彼女は、身体がとても弱い。

それこそ、今みたいに少し夜風に当たるだけで、次の日には信じられない程高熱を出したりもするのだ。

「ほら、そう言っていつも熱を出すでしょう。看病ならいくらでもしてあげるけど、嫌なんでしょう?」

そう言うと、美穂は少し嬉しそうに微笑みながら、「わかったー」といいながら、部屋の中に入っていく。


彼女は、人に同情されたり、ただただ心配だけをされることを嫌がる。

どうも、他の人と違う扱いをされるのが嫌なのと、迷惑をかけているという罪悪感があるらしい。

……私にしてみれば、気にしなくてもいいのにとは思うが、幼い頃から体の弱かった美穂にしかわからない気持ちなのだと思う。

理解したつもりになってはいても結局、本当には理解しているとは言えず、きっと、同情が多々含まれる……含まれてしまう。


ふと、眺めていた夜空に手を伸ばしてみる。

……届くかな。

なんて、届く訳ないのにね。

どれだけ望んでも、どれほど焦がれても、どんなに届きそうと感じても、そこにはどうしても越えられない壁が存在しているから……。


「愛美〜?愛美も早く!」

なーんて、私らしくない。

そう、らしくない。

私と彼女は。

「はいはい。今行くから」

彼女が甘えてきて、私が仕方がないなと受け止める。

そんな、関係。

「愛美!添い寝〜」

……この子は、もう。

「なんでよ。1人で寝られるでしょ」

というか、私の心臓に悪いので、出来れば遠慮したいな……。

「ほら、私達が出会った記念日のプレゼントとして添い寝を要求します」

なんて笑いながら言う彼女の声に時計へと目を向ければ、確かに既に日付は変わっていた。

こういった普通ではあまり覚えていないようなことを覚えている彼女にどうしようもなく胸が高なってしまう。

「もう、仕方がないなぁ。今日だけだからね?」

そんなことある訳がないと思ってはいるけれど、そんなことをされると、もしかして……と。

「やった!」

……さてはて、今日はちゃんと眠れるのかな……。



────────────────────────────────



彼女の寝顔を見ながら、これまたふと出会った頃を思い出す。

こんなことを思い出すのは、彼女が覚えていてくれたからかな。


美穂は不思議な人だった。

いや、今でも不思議ではあるけど。

彼女と私が初めて話したのは高校の入学式の日で、同じクラスになった見知らぬ人達相手にどうしようかと思っていた時に、彼女から声を掛けてきたのだ。

その時は挨拶と自己紹介をしただけで、彼女がクラスメイト全員に話しかけているのをなんとなく眺めているだけだった。


でも、それ以降、彼女は特定グループに入るわけでもなく、あちらこちらへとふらふらしながら学校生活を送っていた。

まぁ、それで他の女の子達に嫌われることなく、愛でられていたんだから凄いと思うけど。


私がそんな彼女を明確に気にし始めたのは、あることに気が付いてからだった。

定期的に、あちらこちらのグループに紛れている彼女が、1日に一度は必ず私の傍に寄ってくる━━その事に気が付いてからは、彼女が気になって仕方が無くなってしまった。

理由としては、私の傍は居心地が良いのだそうで、それを聞いた時は舞い上がってしまった……が、本人は変わらずふらふらしていた。

……私を惚れさせておいて、自分はふらりふらりと様々な人の所へ放浪しているのは本当にずるいと思う。

それでも、結局は私の傍に戻ってきて満足気な姿を見せるものだから、諦められる訳が無い。

だからといって、私には、自分から踏み出す勇気も存在しない。

そんな私が、彼女とルームシェアをしているなんていうのは奇跡だと思う。

大学に入ればバラバラになると思っていた美穂と同じ大学に進学する事になったと知って有頂天になっていたとはいえ、良く誘えたものだと、今なら思う。

そして、忘れられない、私が誘った時の彼女の驚いた顔と、その後の嬉しそうに頷いてくれた時の表情……。

その表情を見てから、私はますますのめり込んでいったのだと思う。


自分で言うのもなんだけど、私と美穂の距離はだいぶ近い。

私は、惚れ込んでいるのに合わせて、病弱な美穂が倒れたりしないか心配であまり離れようとはしないし、彼女は……私の自惚れでなければ、私に一番懐いているから、よく私の傍にいる。

他の友達に、「あんたたち付き合ってるのかと思ってた」と、冗談混じりにからかわれるぐらいには一緒にいる。

そうなれたら、どれだけ幸せなことか……。


まぁ、それが、今の私達の距離。

届きそうで、届かない、そんな距離。


「ただまぁ、こうも無防備に眠っているのを見ると、ちょっとだけ腹も立つかな……」

こちらはいろいろと我慢しているというのに……。美穂は知らないんだろうけどさ。

などと思いながら、彼女の形のいい唇を指で弄ぶ。

これが意気地のない私が出来る、精一杯のいたずら。


一頻り遊んだ後に気付いた。

「少し顔も赤いし、体温も上がってきてる……?もう、だから外に出てきちゃダメって言ったのに。仕方が無いなぁ」

解熱剤を取り出すためにベッドから降りながら、カーテンから見える夜空を見上げる。


私は夜空が好きだ。

例え届かなくても、いずれ離れる時がくるのだとしても、その時までは、諦めない。

ほら、手を伸ばして掌をぎゅっと握り締めれば、月だって拳に隠れる。

……たとえ、見せかけだけだとしても。



手を降ろした後も、見える月は、柔らかな光を変わらず、私達へと届けていた。






百合を書いている時間はやはり癒されますね。

楽しいですし。

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