とっておきのデザート~雪よしのさんへの『クリプロ2016』参加特典ギフト小説~
『クリプロ2016』企画に参加してくれた雪よしのさんへのギフト小説です。
『大変なことになった! すぐに来てくれ』
そう電話を掛けてきたのは幼馴染の良介だった。よしのは携帯と財布だけ持つとコートを羽織って家を出た。
よしのが小学生の時、良介はよしのの家の隣りへ引っ越してきた。その時のことをよしのは今でも覚えている。あの時も寒い日だった。
よしのたちが昼食をとるために近所のファミリレストランへ出掛けようと家を出た時だった。隣りの家の前に引っ越し業者のトラックが停まった。その後に乗用車が続いていた。乗用車はその家の駐車スペースに入ると、よしのの両親と同じ年頃の男女が降りて来た。
「こんにちは。今度、ここに引っ越してきた日下部と申します」
男性が挨拶をすると、横に居た女性も一緒に頭を下げた。
「あ、私たちは隣の雪といいます。ちょっと出かけて参りますので、のちほど」
軽くあいさつを済ませてからよしのたちは出掛けた。
「感じのいいご夫婦でしたね」
よしのの母親が言った。食事中に先ほど引っ越してきた家族のことが話題になった時だった。
「うん。車の中で男の子が眠っていたようだったね。三人家族なんだろうね」
「よしのと同じくらいに見たけれど仲良くできるといいわね」
そんな両親の会話をよそに、よしのは大好物のハンバーグに夢中だった。
よしのたちが帰って来た時、お隣さんはまだ荷物を運び入れている最中だった。
「お手伝いしましょうか?」
よしのの父親が隣のご主人に声を掛けた。
「お気遣いありがとうございます。搬入はもう終わりですから大丈夫です」
ご主人はそう言って頭を下げた。同時に引っ越し業者のトラックが出て行った。玄関の辺りにはたくさんの段ボール箱が積み上げられていた。そばで男の子が探し物でもしているのか段ボール箱を物色していた。
「良介!じゃまだからお庭で遊んでいなさい」
母親にそう言われて渋々探し物を諦めた様子で男の子は庭の方へ向かって行った。
「宜しければ、中が片付くまで、お子さんをお預かりしましょうか? うちには同じ年頃の子もいますし」
よしのの父親はそう言ってよしのの頭を撫でた。隣のご主人はよしのに目をやると、少し考えてから、「それではお願いします」と言って、男の子を呼んだ。
「良介、しばらくお隣で遊んでいてくれ」
父親にそう言われて男の子は笑顔になった。よほど退屈だったのに違いない。そして、安心したせいか、男の子の腹の虫が鳴った。
「そう言えば、昼メシがまだだったなあ」
雪家は既に外で昼食を済ませてきたので何も用意していなかったのだけれど、よしのの父親が日下部家のために近所の蕎麦屋から出前を取ってやることなった。出前が到着すると、お隣さんは雪家で食事をさせてもらうことになった。食事を終えて、お隣さんが雪家を出た時には雪が降り始めていた。
ある程度の片づけを終えて日下部夫妻が男の子を迎えに来たのは夕方の6時頃だった。外はすっかり雪化粧で覆われていた。
「ご面倒をお掛けして申し訳ありませんでした」
「ちょうどいい時に来ましたね。今、すき焼きの準備が出来たところなのでご一緒にどうぞ」
引っ越してきたばかりでまともに食事の支度などできないであろう日下部家のためによしのの母親が一緒に食事をしようと支度をしていたのだ。これを機に雪家と日下部家は家族ぐるみの付き合いをするようになった。
良介はよしのと同じ学年で小・中・高とずっと一緒だった。そして、今は二人とも札幌市内の会社に就職して、それぞれ一人暮らしをしいている。そんな時、よしのは良介から電話で呼び出されたのだった。
よしのが良介の部屋に来ると、良介はベッドの上で布団にくるまっていた。
「どうしたの?風邪でも引いた…」
そう言ってよしのは良介の額に手を当てた。
「うわっ!すごい熱じゃない」
よしのは汗で濡れた良介のパジャマを着替えさせ、冷凍庫からアイスノンを持ってきて枕の上に差し込んだ。その足で薬局へ行き、熱さましの薬を買い、戻って来るとお粥を作った。良介の熱が下がったのは夜中だった。作っていたお粥を温めて食べさせると、どっと疲れが出た。良介を再びベッドに寝かせると、よしのもいつの間にか眠ってしまった。
気が付くと、キッチンからトントンと音が聞こえてきた。良介が朝食の支度をしていた。
「大丈夫なの?」
よしのが聞くと、良介はにっこり笑って答えた。
「よしのが来てくれたから」
良介が作ってくれたのは焼き魚に味噌汁、お粥をアレンジした雑炊だった。食べ終わると良介が言った。
「とっておきのデザートがあるんだ。冷蔵庫に入っているから取って来て」
よしのが冷蔵庫を開けるとリボンが掛けられた小さな箱が入っていた。
「デザートってこれのこと?」
「そう!開けてみて」
言われた通りによしのが箱を開けると中に入っていたのは指輪だった。
「そろそろいいかなって」
「僕のお嫁さんになってもいいよ」
引っ越してきたその日に良介がよしのに言った言葉だった。
「うん」
よしのは素直にそう答えていた。
メリークリスマス!