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ひったくりという言葉を聞いた後のタチークさんの行動は速かった。視線を動かして状況を即座に確認する。逃げている存在を視界に留めると、私に一言も言う事なく、駆け出した。

 見回り中にひったくりに遭遇してしまうなんてついていない、と思いながら私はタチークさんに注目が行く中、隠密系魔法をひっそりと行使する。自分の気配を殺す。そういう魔法が私は得意だ。そして相手が気づかないうちに行動を起こすといった事が得意だ。だから、念のために行使する。

 ひったくりぐらいタチークさんだけでもどうにかできると思うけれど、念には念を入れて。あと私は美少年の活躍を思う存分見たい。

 それにしてももっと隠密系の活躍が見込める仕事とかあればな、もう少し色々出来るんだけど。そんなことを考えながらもタチークさんとひったくりを見る。ひったくりは……魔法師団の制服をきた男が迫ってきているのを見て顔を青ざめさせている。そして慌てたまま、捕まるのが余程恐ろしいと感じたのか、一般の女性を人質にしようと手を伸ばして……倒れた。

 私です。学生時代にアイルアさんを気絶させた要領で、こう、狙って投げて倒れさせた。女性もタチークさんも戸惑っているけど、まぁ、上手く気絶させられたから私は自分によくやったと言ってあげたい。

 タチークさんも女性を人質にしようとした瞬間、何かやろうとしていたけれど私の方がはやく動いちゃったんだよね。

 えーっと、ひったくりを捕縛しているタチークさんに私は今来ました! 的な感じで近寄りました。いや、だって……自分が気絶させたんだ! って大っぴらに言い張るのもなんというか……言い出しにくい!

 「タチークさん、その人、どうしますか」

 「……そうだな。連れてくか」

 タチークさんは突然倒れた事に驚いてはいるようだが、私が何かしたとは思っていないようで、何もしていない私に対して厳しい目を向けている。うーん、自分からやりました、やりましたって言い張り続けるのもあれだしさ。会長みたいに私がこそこそしていても気づいてくれる人とか居たらわかりやすいのだけど。私が得意な事って成果が正直わかりにくいし、気づいたり知っててくれなきゃそんなことしていたの? ってなるし。そもそもタチークさんみたいに私がコネで入っただけで使えないって認識している人に対して……こう、自分からやりましたって言っても信じてもらえる気がしないんだよね。もうちょっと、魔法師団に入団しちゃったわけだから、魔法師団のメンバーと仲良くしたいと思っているんだけどとままならない気持ちになった。

 人生ままならないものだなーと最近よく思う。

 そもそも最初の私の目標は、乙女ゲームの世界だからそれを観察してこそこそ生きようだった。魔法師団なんかに入る気もなかったし、のんびり美男美女を観察してニヤニヤしながら生活出来ればいいと思っていたのだ。それが、こうして魔法師団に入ることになるし、入って頑張ろうと思ったらコネと疑われるし。

 まぁ、でもタチークさんと一緒に見回りは個人的には嬉しい。なぜなら見ていてニヤニヤするような綺麗な顔をしているから。魔法師団ってなんか綺麗な人とか多いんだよね。なんだろうねって思うけど役得だからそれはよし。

 タチークさんの後ろ姿を見ながらニヤニヤするのを抑えながら思考する。


 それで、魔法師団に戻ってきたら視線がきつかった。


 いやー、タチークさんって美形だから人気なんだよ。そんな人気な人と一緒に見回りってだけでもね。うん、私の顔が中の下ぐらいなのが悪いんだよ! 下ではない……と思いたい。美女になりたいとか思った事ないけどさ、それでもちょっとそんな目で見られると悲しいよ!

 少しずつちまちま頑張っているつもりなのだけど、私の評価が低すぎて泣けてくるよ! でもまだ入団して一か月だし、まじめにコツコツ頑張ってたら認めてくれないかなーと期待しながら私は頑張ろうと決意する。

 ヴァルに見回りの事を報告するのは、タチークさんがやるといって去って行った。なんかヴァルと幼馴染でコネ入団と思われてるから自分に都合の良い報告するのではないかって懸念とかあるみたいだよ。そんなせこい真似する気ないんだけど。

 それに後から私もヴァルに報告する事になっているしね。報告はするようにってヴァルに言われているし。

 それは後からするとして、私は魔法師団本部の内部にある図書館に向かう事にした。

 私は隠密系の魔法は得意だけど、他の魔法はそこまでなのだ。そもそも魔法師団に入団するつもりもこれっぽっちもなくて、観察したい一心から磨いただけなのだ。でも入ってしまったし、魔法師団の一員として頑張ると決めたのだからもっと学ぶ必要はある。

 そう思っているから私は魔法について私に不足している事や、隠密系の魔法でも私が出来ない事など色々学ぼうと思って定期的に図書館に通っている。

 私は頑張る。

 そう決意してその本を借りるか悩む。

 この本はよさそうだと思いながら手に取っていたら、

 「ノーヴィスさん」

 と声をかけられた。

 振り向いたら、茶色の髪を肩まで伸ばした眼鏡をかけた女性が立っていた。




 

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