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私に縁談が来ているという事実は正直言って、私にとっては想定外の出来事だった。しかも文面を見る限り、一通だけではないらしい。
って、なんで!? どうして!? 意味が分からないよ、私は!!
とびっくりするぐらいの混乱に私は陥っていた。だって普通に考えて意味が分からない。私は弱小貴族の、この国の中でも下の下ぐらいに位置する貴族だ。どちらかといえば平民に近い方だ。
弱小貴族でも絶世の美女とか美男子とか、そういう美しさを持ち合わせているのならばすぐに求婚者がやってくる。私は弱小貴族の美少女令嬢が、公爵家とか王家とかに惚れられて、恋をして成りあがっていくようなシンデレラストーリーも好きだ。うん、しかし、そういう恋物語が成立するのはあくまで顔が良いからだと思うんだよね!!
そもそも私に縁談がどんどん来ているとかおかしいよね? 今まで全然来てなかったはずなんだけど!! というか、何が起こっているのだろう?? そんな気持ちしかわかないよ!!
家族からの手紙には、「ヴィーがしたいようにすればいい」というありがたいお言葉が書かれていた。沢山の縁談が来ているけれど、私がちゃんと決めて結婚相手を選べばいいんだって。それならまぁ、結婚なんて絶対に無理!! って相手と結婚することはあり得ないから一安心……。
いやいやいや、一安心じゃないよ!! 幾ら家族が大丈夫だよって言っていても、貴族ってややこしくて色んな繋がりがあるんだよ。私はまだ下位の貴族だからややこしいこと少なかったけど、上位の貴族だと本当に大変らしいもん。ルビ先輩もフィル先輩の所に嫁いで色々と大変そうにしているもん。
でも大変でも幸せそうにしているのって、やっぱりそこに愛や恋って感情があるからだと思うんだよね。
そうそう、上位貴族からもし縁談が来ていた場合、断ったら下位の貴族のうちの家は大丈夫なの? って心配もあるのだ。
あと単純に結婚とかまだはやいかなーって思っている。うん、この世界が前世と違って結婚がはやかったり、子供産むのもはやかったりするのは知っているよ。知っているし、他の国ではもっと結婚はやかったりもするらしいのも知っている。でも元日本人的倫理観で言うとまだはやくない? って思う。
それに私としてみれば、全然結婚しないで働いていてもオッケーだと思うのだ。自慢じゃないけれど、私は恋というものを知らない。好きな人は出来たことないし、それよりも前世も今世も趣味に走っている。
前世ではゲームとか漫画とか、そういうものの世界に浸るのが大好きだった。好きな作品を追いかけて興奮して――、その中でこの世界と酷似している乙女ゲームにも出会えたんだけどね。それで乙女ゲームにも沢山はまっていて、主人公の女の子を動かすのが好きだった。その恋模様を見るのが楽しくて仕方がなかったのだ。あと前世でも美男美女を観察するのも好きだったけど。
まぁ、それで死んで今世では此処が乙女ゲームの世界だと気づいて、それを絶対に覗き見するぞ!! と意気込んでからは、悟られないようにこそこそと覗き見するために魔法を磨くので必死だったし。それで学園が始まってからは覗き見するので忙しかった。この世界、乙女ゲームの世界だけあって美男美女が両にいるし。
そもそも私は傍観者で、脇役な立ち位置だし――って気持ちが強かったのもあってそんなこと考えてなかったしなぁ。
今は魔法師団で一生懸命頑張るぞ! ってそれで手がいっぱいだし。常に何かに夢中になっているから、恋とかしてこなかった私に縁談かぁ……。うん、なんか実感が湧かない。
家族が冗談を言っているのではないか、からかっているのではないか……とそんな気持ちも芽生えてくる。しかし、私の家族がそんなことをするわけがないと知っている。だからここに書かれている、私に縁談が来ているということは本当なのだろう。
……正直、結婚するとか、そういうの全く考えていなかった。だからこういうのにどう対応していいものか分からない。そもそも私一人で判断できない。
「……よし、ヴァルに相談しよう」
困った時のヴァル頼みである。
こういう時には、ヴァルが同じ職場で、近くにいてくれてよかったと本当に思う。ヴァルが近くに居なかったら私はもっと、一人でずっと悩んでいたと思う。相談相手がいなかったら、下手な対応してしまうかもいれないし。困った時は誰かに相談するのが一番なのだ。
それにヴァルには「ヴィーは暴走癖があるから、何か困ったことがあったら相談するように」って言われているし。うん、その時のヴァルを思い出すと本当にヴァルって私の保護者かな? お母さんかな? って感じで心配していると思う。
そんな心配症で、何時だって私の味方をしてくれるヴァルなのだから、きっと私に良いアドバイスをくれることだろう。それが分かるからこそ、私はヴァルの元へ向かう。
「ノーヴィス」
ヴァルの元へ向かっていたら、隠密魔法を使っていたにも関わらずタチークさんに話しかけられた。




