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「私は趣味の裁縫のため、手芸店に良く行っていました。そこでムノさんと出会いました。裁縫談義をしているうちに仲良くなって、同じ魔法師団所属だと知った時は嬉しくなりました。ただ、魔法師団の仲間に裁縫好きだとバレるのは恥ずかしいからとムノさんが言っていたので、いつも話をしていたのは外ででした」

 私もあの女性とラーちゃんが仲良しだっていう話は聞いたことがなかった。そういう演技をして、ラーちゃんが外にあの女性のことを話さないようにした上で、用意周到に行動を起こしていたのだろうか。

 それにしても魔法師団の団員を外に出す意味は何処にあるのだろうか。戦力を減らすため? それならわざわざ魔法師団の団員を外には連れていく必要がないように思える。

 ならば、どういう意図で? 

 ちゃんとあの女性から聞き出さないことにはそれは分からないだろう。何はともあれ、ラーちゃんが無事でいてくれて本当に良かった。私はラーちゃんが魔法師団からいなくなってしまったら悲しかったから。

 でも以前行方不明になった人は、どうしているのか分からない。……生きてさえいてくれるのならば、どうにかその命を助けたいと思う。でも魔法師団の一員として優先すべきは国だ。一人を助けるために多くの犠牲を強いるのならば切り捨てなきゃならない場合もあるだろう……。それを考えるとどんよりしてしまう。こういう荒事って苦手なんだよね。

「それで話しているうちに私はムノさんのことが大好きになりました。ムノさんはいつも優しくて、私の話を沢山聞いてくれました。今考えれば……ムノさんは自分のことをほとんど話していませんでした。私は自分の話を聞いてくれることが嬉しくてそのことを気に掛けることが出来ませんでした。ムノさんは聞き上手で、私はムノさんに話すのが気分が良くてどんどん色々話してしまいました。ムノさんが魔法師団としてここにいたから仲間意識も芽生えていたのだと思います」

 同じ魔法師団の先輩で、聞き上手で色んな事を話してしまったのだという。同じだと示すということは相手を油断させるための一つの手である。共感できることがあったり、同じ団体に所属しているというのはそれだけでも仲間意識を人に与えるものだ。

 あの女性はその仲間意識を利用して、ラーちゃんを油断させていったのだろう。

「……そしてそのころから時々意識が飛んでいた時がありました。ただベッドにいたので私は眠っていたのだろうと思っていました。でも操られていたということは、その間ずっと操られていたのかもしれません。あとは意識が飛んでなくてもぼんやりと裁縫をしなきゃとなって、裁縫をしてしまった時もあります。それも操られていたことかもしれません」

 女性と接しているうちにラーちゃんは意識を飛ばしている時があったのだという。とはいえ、それが操られているなんて思いもしなかったのだろう。

 人を操る魔法って、難しい魔法だ。操ろうとした相手がひょんなことで正気に戻って失敗する可能性も大きいし、よっぽどあの女性はラーちゃんに悟られないようにその魔法を行使したのだろう。

 その技術は敵ながら素晴らしい才能だと思う。とはいえ、そんな魔法をラーちゃんに使ったことには怒りしか芽生えないけれど。

「それで、今日はムノさんが突然私の部屋にやってきてその後は記憶がないです」

「そうなの……あの女性は他の魔法師団の団員にも何かしている可能性もあるわね。今、魔法具を使って操られている人がいないかは検査しているところだわ。貴方も魔法の痕跡を完全になくす必要があるわね。検査をさせてもらうわ」

「はい」

 今は正気に戻っているとはいえ、人を操る魔法の名残がまだラーちゃんに残っているかもしれない。もし残っているのならばラーちゃんはまた簡単に操られてしまうかもしれない。

 少しでもその欠片が残っているのならば、同じ魔法を相手にかけることは簡単なのだ。

 ついでに私も念のため、そういう魔法がかけられていることがないかの検査を行ってもらった。

 私は完全にその魔法が体になかったが、ラーちゃんは深く魔法をかけられていたというのもあってまだ少しはあの女性の魔力が体の中にはべりついているようだ。その魔法を完全になくすためにまだ何かやらなきゃならないということでラーちゃんはミミィさんたち預かりになった。

 その後、私は自室に戻ることにしたのだが……、

「何でヴァル、一緒に来てるの?」

 何故かヴァルがすぐそこなのに私のことを送るなんて言い出した。

 本当に過保護だなと思いながら、このくらいの距離で何を……とあきれてしまう。

「心配だからだ。別にいいだろう」

「目立つじゃんか」

「もう十分目立っているからそれは問題ない」

 ……ぐぬぬ、確かに。でもヴァルと仲よくしていると益々目立つんだけどな。でもヴァルは私を送る気満々なので、そのまま送られた。

 部屋に入る時に、

「ヴィー、無事でよかった」

 と過保護なヴァルに頭を撫でられ、そう言われた。

 本当に心配していたというのがその表情で分かった。なので私はされるがままに撫でられるのだった。



 ……その後、私がヴァルと仲よくしていたって広まったのは嫌だったけど!!

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