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「ラーちゃんを返して!!」

 私はその女性を真っ直ぐに見ていった。

 女性は、困ったような、面白そうな、よく分からない表情だった。なんだかそういう気の抜けた表情を見ると、私も気を抜きそうになる。でもそれはしてはならない。

 ――目の前の女性にどれだけ親近感に似たものを感じたとしても、彼女は敵でしかない。

 魔法師団に害をなす敵。ラーちゃんを攫おうとしている敵。

 こうして明確な敵と向き合うことは初めてだ。——私は基本的に裏でこそこそするタイプだし、こうして敵と対面することは考えていなかったから。

 魔法師団に入団しなければそれでも良かったかもしれない。ただ興味があるものだけを覗いて、危険な敵と対面することもなく生きていく。それが出来ただろう。

 ――でも、私はヴァルに言われたからとはいえ、魔法師団に自分で入った。

 それは私が選んだことでもある。だからこそ――私はちゃんと魔法師団の一員として、目の前の女性に対応しなければならない。

 隙を見せてはいけない。

 ラーちゃんはまだ、焦点の合っていない目だ。どうにか、ラーちゃんの目を覚まさせないと。そのためにはこの女性をどうにかする。

 私はそう決意して動いた。

 けど、私が魔法を使おうとした瞬間、ラーちゃんが動いた。

 ラーちゃんの正気が戻ったのだろうか、と期待したが違った。

「あらあら、私に手を出す気ならこの子が危ないわよ?」

 女性はそう告げて、笑う。

 ああ、この目はラーちゃんのことを使い捨ての駒のようにしか思っていない目だ。ラーちゃんのことを操ることが出来ている目の前の女性は、ラーちゃんをどうにでも出来る。

 その事実に私はどうしたらいいか分からなくなる。

 私の目の前にはラーちゃんがいる。虚ろな瞳のラーちゃんは、私を見ていない。けど、女性の魔法によって私のことを敵だと認識しているのだろうか。

「ヴィーア!」

 私が戸惑っているのが分かったのだろう。シエル君が私の名を呼ぶ。

「ヴィーアの友人なんだろう。そっちは任せた。俺はこの女をどうにかする」

 シエル君は力強い言葉でそう言った。

 シエル君はそう言ったかと思えば、女性の元へ向かっていった。

「あら、私を一人で相手にしようっていうの?」

 不敵に笑う女性は、シエル君が相手にしてくれるらしい。シエル君への心配もあるけれども――、それよりも私は目の前のラーちゃんをどうにかしなければならない。

 っていうか、私がこんな思考に陥っている間にラーちゃんが私に向かってきてるし。

 はやい!! 流石魔法師団に所属出来るだけあるっていうのが対面していてよく分かる。

 魔法師団って、私自身はそんな風には思わないけれど、エリートが多い。ラーちゃんも魔法師団に入団出来るだけでもすごいのだ。

 っていうか、私よりはやいし、私よりも強い魔法を使ってくる。

 私はそういう強さはない。私にある強さは、後方支援は出来ても正面から突破しようというのが難しい。

 でも私にとって、ラーちゃんは友達だ。

 私と仲よくしてくれる優しい子。

 そんな優しいラーちゃんが、操られたままでいいはずがない。

 私は操られたままのラーちゃんからの猛攻になんとか、対応していく。攻撃する事は苦手だけど、相手の攻撃を避けることは出来ている。でも避けることが出来たり、対応することが出来たとしてもこのままでは駄目だ。

 ラーちゃんに、押し切られてしまう可能性がある。

 というか、こうして魔法をどんどん打ってくることが出来るって、やっぱりラーちゃんも凄い子なんだって思った。

 ――ああ、もう、操られている状況で、ラーちゃんは細かい魔法は使えてないはずだ。でもこれだけ、私に魔法が使えている。

「ラーちゃん!!」

 私はラーちゃんの目を覚まさせたい。ラーちゃんに私の言葉を届けたい。

 私はそんな思いで、いちかばちかで隙を見つけてラーちゃんの至近距離に迫った。って、うわ、あぶなっ! 距離を縮めたら、蹴りが飛んできた。ああ、もう操られているラーちゃん、容赦ないよ!!

「ラーちゃん!!」

 私も容赦は出来ない。そもそも容赦するだけの余裕は私にない。私はラーちゃんを蹴り上げた。隙をついて蹴り上げたらラーちゃんが倒れた。そんなラーちゃんに馬乗りになる。

「ラーちゃん大好き!! ラーちゃん、目を覚まして!! ラーちゃん!!」

 ラーちゃんの頬に手をあてて、真っ直ぐにその目を見て、声をかける。そしてやりたくはないのだけど、ラーちゃんの目を覚まさせるために頬を叩いたり、衝撃を与えていく。

 私はそんな強くもないし、どういう手段があるかも思いつかなかった。だから私はただ、ラーちゃんの目を覚まさせるためだけに行動した。

 必死だったのだ。

 何度も何度もラーちゃんに話しかけ、馬乗りのまま、身動きを塞ぎ、魔法を使う暇を与えないでいた。

 そうしていれば、

「ヴィーちゃん?」

 ラーちゃんが、私の名を呼んだ。




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