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私の大天使、ラーちゃんが関わっている可能性がある。
――もしかしたら利用されてるなんかじゃなくて、ラーちゃんの意思でそういうことを起こしている可能性もあるけれど……、あの天使のラーちゃんがそういうことをするとは思えない。ただラーちゃんの行動がどれだけ利用されての行動なのかとかが分からない。
……ラーちゃんが利用されてるとなると、黒幕に私の情報とかも伝わってたりしそう。となると私が隠密魔法が得意なのも分かっているってことか。ついでに言えば、考えたくはないけれどそもそもラーちゃんが私に話しかけてきたのだって誘導されたからって可能性もある。
私はあのヴァルの幼馴染だ。この魔法師団の中で権力を持ち、名を馳せているヴァルの幼馴染。それなら近づこうとする人間がいてもおかしくはない。そもそも魔法師団から行方不明者を出す目的ってなんだろう。
魔法師団に入団できるものって基本的に優秀な人間ばかりだ。私はコネ入団疑惑とか出されてたけれど、そういうのは基本ないし。実力主義なのだ。ここは。
そしていざって時に民を守るための存在である。
魔法師団の力を削ぎたいとかなのか。それとも優秀な人材を手に入れようとしているのか。そもそも何が目的で、何処がそういうことを起こしているのか。
分からない事だらけで、とにかく手がかりが欲しい。その手掛かりっていうのがラーちゃんなのは正直何とも言えない複雑な気持ちだけど、私はラーちゃんを助けたいんだ。
そんな気持ちで私はラーちゃんと接している。
「ヴィーちゃん、あのね」
私と話している目の前のラーちゃんは、どこにもおかしな点は見られない。いつも通りにこにこと笑っていて、そこに悪意なんて感じられない。
というか、これが全て演技だったら私はビビる。私は明確な証拠が出ない限りラーちゃんをしんじるってきめているけれども……、魔法師団の一員として警戒心を無くすわけにはいかない。
というか、ラーちゃんをいいように利用している存在ってどういう存在なんだろうか。あのぬいぐるみの入手方法などもさらっと聞いてみても大丈夫だろうか。
よしっ、少しだけ情報を集めようとしてみよう。
「ラーちゃん、ペーペイトさんに見せてもらったんだけどあの熊のぬいぐるみ凄く可愛いね。あれ、どこで手に入れたの?」
「仲良くなれたの? ヴィーちゃんたちが仲良しになってくれたなら嬉しい。あのぬいぐるみはね、私が作ったの」
「そうなの? ラーちゃんは凄いね。私はそういうの作るとかできないからなぁ」
ラーちゃんが作ったぬいぐるみに、人を操るような魔力が込められていたか。材料にそういうのが込められているのか、はたまたラーちゃんがペーペイトさんのように操られてそういう真似をしてしまっているのか。
考えたくないけど、ラーちゃんが自分の意思で人を行方不明にさせているのか。
ラーちゃんの寮室にいって色々調べてみたい気もするけれど、ラーちゃんが自分の意思でそういうことをしていた場合に大変なことになってしまうだろうし、一先ずヴァルに相談しないといけない。
まだぬいぐるみ自体の分析も終わってないし、それが終わってからラーちゃんの部屋に行ってみるとかの方がいいのかもしれない。
下手に話を広げて、私が探っていることを誘拐犯たちに悟られても大変なことになってしまうし。ぬいぐるみに関する分析結果を知ってからじゃないと動きにくい。
とはいえ、何も情報を集められないままっていうのは嫌だ。どうにか、少しでもヴァルのためになるように情報を集めて、ラーちゃんが操られているだけだって知らないといけない。
「――ラーちゃんは昔から裁縫とか得意なの?」
「うん。縫物をするのは好きなの。だから昔からの趣味なの。ヴィーちゃんにも何か刺繍でもしようか?」
「え。いいの?」
「もちろん。ヴィーちゃんはお友達だから」
思わぬ方向に話が言ったが、刺繍をしてもらえれば何かしら分かるかもしれない。ラーちゃんに刺繍してもらえるってだけで嬉しいことだけど、一旦ヴァルに預けて色々と確認しないといけないだろう。
……刺繍にまで魔法がかけられてたら、ぬいぐるみとの共通点を探さないといけないし。行方不明者について調べている私自身が行方不明になるわけにもいかないし。
あ、でも囮作戦みたいな感じでわざと攫われてみるのもありなのかな。そうしたら黒幕の連中をどうにかする事も出来るだおるし。ヴァルたちがちゃんと助けてくれるならそういうのもありなんじゃ? と思ってヴァルにその話を言ったら、「駄目だ」ってばっさり言われた。




