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「それで、ペーペイトさん、何があったんですか??」
「何があったか教えてもらいたい」
私とヴァルがそう口にして、ペーペイトさんを見つめればペーペイトさんは戸惑ったような顔で、口を開く。
ペーペイトさんからしてみれば、気づいたら自分が外に行こうとしていたという状況だ。戸惑いを覚えるのも仕方がない事だった。
「最後に記憶にあるのは、自室にいた所です」
「寮の自室? そこで何があったのかとか分かりますか?」
「いや、とくには。何が会ったかって言われても普通にぼーっとしていたはず……」
寮の自室で何かが起こったという事。誰かが訪れたのか、それとも何か魔法がかかるようなものがペーペイトさんの部屋にあるのか。どちらなのかは分からないけれども、ペーペイトさんの自室を見に行くべきではないかと私は思った。
「ヴァル、ペーペイトさんの自室見に行くべきじゃない?」
「そうだな。もしかしたらペーペイトに魔法がかかった原因がそこにあるかもしれない。ただ、ヴィーは来るなよ」
「え、なんで?」
「何でって男子寮に入るのは問題だろう……」
「大丈夫! きちんと隠密魔法使って悟られないようにするから」
「……そういう問題ではないが」
「それに急にヴァルがペーペイトさんの自室を見に行くっていうのもおかしいでしょう? ちゃんとヴァルにも隠密魔法かけるから。いいでしょ?」
「……まぁ、そうだが」
「そもそもヴァルがいってペーペイトさんにかけられてた魔法にかけられたら問題だよね! もしかしたら私もかけられるかもしれないし。そうなると、他の人も何人か連れてった方がいいかな?」
「……それはやめておく。もし連れて行った奴が敵対勢力ではない可能性はない。三人もいれば一人が何かにかかっても対処は出来るだろ。念のために抗魔の魔法具も持っていこう」
何だかんだでヴァルは私が一緒に行く事を認めてくれた。
魔法に対抗できるようにと作られている魔法具も持っていくらしい。それを持っていれば、精神に作用するような魔法にも対抗が出来るらしいのだ。ちなみに私も小さなものを持っている。これはヴァルがくれたものだ。
それにしても魔法師団のメンバーは、精神に作用する魔法で操られないように特訓はしているはずなんだけど。それをしているはずのペーペイトさんがかかるって、どういう魔法なんだろうか。
「……ノーヴィスと、サラガント様は仲が良いんですね」
「幼馴染だからな。とはいえ、ペーペイト、ヴィーはとても有能だぞ」
「幼馴染だから。でも私はコネ入団じゃないですからね!!」
ペーペイトさんの言葉に二人してそう口にすれば、ペーペイトさんは笑った。私がコネ入団じゃないって少しぐらいわかってくれたのかなと思うと嬉しくなった。
それから私はヴァルと私に隠密系の魔法を行使した。これで周りにそこにいる事が悟られなくなるのだ。実際に近くにいるのにペーペイトさんも「消えた?」とか口にしていたし。
そのあと、ちゃんといる事を証明してからペーペイトさんには自室に向かってもらう。その後ろを私とヴァルはついていく。魔法を行使しているのもあって、私達がいる事に気づいているものはいない。
私は無言でついていきながらも周りの事を観察する。
もしここにペーペイトさんがいる事に驚いている人とかがいたら、その人はペーペイトさんが此処から去る事を知っている人物と言う事になる。部屋の中に原因があるというのならば、おそらく内部に犯人がいるだろう。それも含めてきちんと把握しなければならない。
それにしてもそういう行方不明者が出ているって現状を本当にどうにかしないと。魔法師団がそれだけこの国にとって重要な機関だからこそ、スパイ的な人がいたりと色々するんだろうけどさ。
結局ペーペイトさんの自室に向かうまでの間に、怪しい人影は見つからなかった。私と同じように周りを警戒していたヴァルにも分からなかったようだ。簡単に尻尾を出してくれれば楽なのにと思うものの、尻尾を簡単に出さないからこそ厄介なのだろうと思った。
ペーペイトさんの部屋に辿り着いてから、姿を現せばペーペイトさんは私達がいる事にほっとしたような態度だった。
彼からしてみれば気づいたら外に出ようとしていたという恐ろしい現状なので、どうにか原因を排除したいという気持ちも強いのだろう。
私やヴァルはペーペイトさんの部屋の中で周りを観察する。何か、人に作用するようなものがないかと思って。
―—そしたら一つ見つかった。それはぬいぐるみである。
ペーペイトさんの部屋の中に似つかわしくないかわいらしい熊のぬいぐるみだ。
「ペーペイトさん、これに変な魔力あるわ。このせいかもしれない」
「え?」
「ちょっと調べてみないと分からないが、その可能性も強いな。ペーペイト、これは誰からもらった?」
そのぬいぐるみ以外は私もヴァルも魔力があるのを感じられなかった。なのでこのぬいぐるみが原因ではないかと思った。
問いかければ、ペーペイトさんは私にとって予想外の人物をあげた。
「それは、ラーニャにもらったんだ……」
それは私の天使であるラーちゃんの名前だった。




