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「アイルアさんからの手紙!?」
「そうですわ。お母様の所に届いていたの。私やルビアナ先輩やヴィーアにあてたものもあったの。それで見せようと思ってね」
リーラちゃんがにこにこと笑っている。
アイルアさん。
――メルト・アイルアは、この世界と類似している乙女ゲームの世界でヒロインという役割にあった子だった。
アイルアさんが学園に転入してきてから様々な騒動が起きたものだと私は学園時代の事を思い浮かべて懐かしい気持ちになる。
アイルアさんは特殊な生い立ちをしていた。魂が体に宿っていない状況でこの世界に生まれ落ちた。いつか、魂が体に宿るといわれていた。そして宿った魂は、十六歳の体と釣り合わない十一歳の日本で生きていた女の子の魂だった。
だからこそ、混乱していたアイルアさんは現実なのか夢なのか分からないままに、ここが乙女ゲームと似た世界だと気付いて、夢のようだ、好き勝手しようと暴走してしまった。
そんなアイルアさんは、リーラちゃんのお母さんのリサ・エブレサック様のもとにしばらくいた。だけど少し前に自分の力でこの世界をちゃんと生きるといって、今は違う場所にいるんだという。精神年齢は十四歳、体の年齢は十九歳。そんなアイルアさんは今、一人暮らしをしている。とはいえ、流石に心配したリサ様の計らいにより、時々様子を見にエブレサック家のものが顔を出したりしているようなのだけれども。
アイルアさんからの私に向けて書かれた手紙に目を通す。
『ヴィーアさんへ。
学園時代は迷惑をかけてしまってごめんなさい。ヴィーアさんたちの計らいで、リサ様の所で過ごす事が出来、私はこの世界が乙女ゲームの世界ではなく、現実だと改めて実感する事が出来ました。だからこそ、学園であれだけの行動を起こしてしまった事を後悔しています。でも私が選んでやってしまった事だから、やってしまった事を受け入れて、この世界でちゃんと生きていこうと今は辺境の街で暮らしています。
この街は王都と比べて小さいけれども、人との距離が近くて、住んでいる人たちがとても暖かいです。食堂で給仕として働いています。ヴィーアさんがもしこちらによることがあったら顔を出してもらえたら嬉しいです』
そんなことが手紙には書かれていた。
今は食堂で働いているのだと思うと嬉しくなった。アイルアさんは私やルビ先輩と同じく、日本からこの世界にきた存在だ。
学園で色々とやらかしてしまっていたけれど、きちんと反省して前に進めるのは良いことだと思う。
前世のネット小説ではざまぁが流行っていたし、私もざまぁ系のネット小説が結構好きだったけれども、でもざまぁじゃなくてやらかしてしまった人がやり直せるのは良い事だと思うんだ。
そもそも一度失敗したらやり直せないなんて人生じゃない。人生、本人が頑張ろうとすれば何度だってやり直せるって、前世のお母さんが言ってた言葉を思い出した。
なんにせよ、アイルアさんが元気そうに過ごしているのならば本当によかったと思う。
エブレサック家の人たちが時々様子を見に行っているのならば、何か危ない事に巻き込まれたりもしないだろうし。でも本当良かったと思う。アイルアさんは学園をやめて、リサ様の所で保護されて、ルビ先輩の結婚式で会ったのが最後だ。その後、ちゃんと一人で暮らしていけてるんだと思うと本当に嬉しくなった。
アイルアさんも流石、乙女ゲームのヒロイン役と言えるべく見た目がとってもよくて、そんな人は憂い顔をしているよりも笑っている方が断然良いに決まっているもの!
アイルアさんのいる街は正直王都から遠い。そんな場所を選んだのは、王都にある学園から離れたかったのかもしれない。新しい自分として、新しい一歩を歩みたかったのかもしれない。
私はいつか、アイルアさんの様子を見に行きたいなと思う。
今は勤めだしたばかりで、見に行けないかもだけどまとまった休みがとれたら見に行きたい。
「ふふ、アイルアさん頑張っているのね」
ルビ先輩が嬉しそうに微笑んだ。ルビ先輩へのお手紙にも私へのものと似たような事が書かれていたのだろう。嬉しそうなルビ先輩の事をフィル先輩がとても愛しそうに見ている。うん、御馳走様です! 本当にこの人、ルビ先輩の事好きだなぁ。
「そう、頑張ってるみたい」
「よかったですわよね。お母様もほっとしておりましたわ」
シエル君とリーラちゃんも嬉しそうに言う。
リサ様の所でアイルアさんが保護されていた間に二人ともアイルアさんと少しは仲良くなったみたいだから本当によかったと思っているのだろう。学園生活時代は、二人ともアイルアさんの事嫌っていたけれど、その評価がこう覆るんだから本当に人って過去より今を見る生き物だと思う。
それから五人で会話を交わしていたらあっという間に時間が過ぎていくのだった。
アルファポリスの方でリーラとシエルの両親の話である『異質な彼と冷たい彼女の話』をリサ視点に統一してリメイクしてみようという試みを始めたのでよろしければそちらもよろしくお願いします。




