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さて、そんなわけで魔法師団に入団した私なのだけれども、
「うぅううううううう、ルビせんぱあああああああああああああああい」
ちょっとした困難にぶち当たっていた。
そんなわけで魔法師団に入団して早一か月経とうとしたその日、私は大好きな先輩であるルビ先輩―――ルビアナ・アルトガルの元へ顔を出していた。
「あら、ヴィー、大丈夫?」
そう問いかけたルビ先輩の腕には、小さな赤ん坊が居る。
卒業したルビ先輩は、婚約していた会長――フィルベルト・アシュターの元へと嫁いだ。ルビ先輩は、今ルビアナ・アシュターとなっている。そして手の早い会長はさっさとルビ先輩に手を出して子供を作ってしまっていたのである。
まぁ、会長はルビ先輩大好きだもんね! 溺愛物は正直大好きだしおいしいから、全然かまわないんだけどね。大好きなルビ先輩には幸せになってほしいって思ってたし、会長はルビ先輩が大好きで仕方がなくて、ルビ先輩を任せられるし。
会長は現在アシュター公爵の当主の位を継いだばかりで色々と忙しいみたいでここにはいない。
乙女ゲームの設定ではルビ先輩は悪役だったし、会長とか攻略対象だったけれど現実ではルビ先輩と会長はくっついっている。
「大丈夫じゃないですよぉおおおお。ヴァルの奴が私を魔法師団に入れたじゃないですか!」
「ええ、そうね」
ルビ先輩は優しく笑ってそう頷いてくれる。
「アイドさんとミミィさんも実力知っていて、廃らせておけない! とかいって」
アイド・サラガントとミミィ・サラガントはヴァルの両親である。私も幼い頃からお世話になっている。
「ええ、そうね」
「魔法師団って本来、色々ともっと頑張らなきゃ入団難しいんですよ! それなのに私学園での成績そこまでないのに、魔法師団に入る事になって、その事実がその、周りの同期に筒抜けで」
そう、魔法師団とは本来そんな簡単に入団出来るものではないのだ。なのに、私は魔法師団で幹部の位置に居るアイドさんとミミィさんに認められたって理由で簡単に入団が決まってしまった。
一応入団試験は受けたけれども、高等部一年の時点で私の将来は決まっていたわけで……、その事は魔法師団の同期も知っている事で。
「一生懸命頑張って、そうして魔法師団に入団した同期に、ですね、その、距離を置かれているというか! コネで入ったとそんな感じで見られているというか!」
実際コネで入ったといえばそうなのかもしれないが、そんな理由で私は距離を置かれている。
正直仕方がないことかもしれないと思うけど、そうやって距離を置かれると私はなんか嫌である!
いやね、私と同じ学園出身の人が珍しく魔法師団の同期に居なかったことも不運だった。なんていうかさ、学園出身者ならその、私が色々やらかしていたのも知っているだろうしもうちょっとこんな風に距離を置かれたりしなかったと思うんだよね。
「まぁ、そうなの?」
「はい、そうなんですよ! しかもヴァルって私に普通に話しかけてくるし、魔法師団の幹部の息子と仲良しだってことでねたみもあるみたいで。ほら、ヴァルって顔だけはいいから!」
「ヴィー、サラガント先輩が可哀想でしょう? 顔だけはって言い方はやめた方がいいわ」
「でもなんていうか、周りからのヴァルの評価ってクールでかっこいいとかだけど、全然そうじゃないんですよ! 顔だけは本当綺麗なのに、ヴァルって見た目と中身あってないし」
「サラガント先輩はヴィーの前では素を出しているものね」
ルビ先輩がそんなことを言う。
それはそうだろう。私とヴァルは幼馴染で、ヴァルが作り笑いとかしだす前から私はヴァルと仲良くしていて、素を知っている私の前でわざわざそんな猫かぶりをするなんてヴァルもしないだろう。
それにしてもヴァルってなんだかんだいってもてるからなぁ。だから正直学園でもヴァルと幼馴染だって露見したくなかったわけだし。まぁ、学園に通っていた頃のあの乙女ゲーム関連の事件で露見しちゃったけどさ。
「一か月もはぶられるとか! 本当困るんですよ!」
「はぶられているの……?」
「はい! 二人一組とかの時、私ってばあまります。悲しい!」
「うーん……、ヴィーでもそんな状況になるのね」
「はい! 絶賛困り中ですよ!」
本当に私は困っているのである。正直今まで生きてきてさ、なんだかんだで友達は出来ていたし、こういう状況でなったことなかったんだよ。だからどうしようかなって困ってしまう。
「ヴィーなら、何かきっかけばあればその状況どうにか出来ると思うんだけど」
ルビ先輩は腕の中に抱いている子供をあやしながらそんな風に言う。アシュター公爵家夫人になったルビ先輩は色々と忙しいみたいだけど、こうして私のために時間を作ってくれていて、本当私はルビ先輩の事大好きだ。
「だから、頑張って。ヴィー。相談なら幾らでも乗るから」
「はい! お話聞いてくれてありがとうございます。人に吐き出したら、ちょっとすっきりしました」
「それは良かったわ」
誰かに自分の気持ちを、話すとすっきりするよね。よーし、簡単にはこの現状変わらないだろうけど、頑張るぞ!