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私はこの世界に転生して、真っ先にやりたいと思ったことは乙女ゲームの世界を堪能したいという事だった。
乙女ゲームのキャラクターたちを思う存分眺めていたい。
そんなことを考えた結果、こうして隠密行動特化の魔法が得意になった。結局の所、乙女ゲームが終わった後に、どうやって動こうか、どうやって生きようか。それを私はあまり考えていなかったように思える。
とりあえず乙女ゲームの世界を観察したいから魔法を鍛えて、魔法学園に入学する。そればかりを私は考えていたから。
こうして魔物退治も行う魔法師団に入団してみて、緊張してならない。ノノアンさんたちは私ほど緊張はしていないみたいで、流石だなと思った。ノノアンさんたちは私の宣言に対して、何か思う事があったのか何もいう事はない。ただ、私の事を観察しているのはわかる。私の事を美人さんがじっと見ていると思うと何だか落ち着かない。美人さんに見つめられるとか、緊張する以外の何でもないよね。
と、そんなことを考えていた時に魔物が近くにいるのを私は感じ取った。
「先輩、魔物が近くに居ます」
「ん? 本当か? まだ俺は感じ取れていないが」
「はい。あちらの方向です」
私は隠密系の魔法が得意だ。そして敵を察知する魔法というのも得意だったりする。というか、乙女ゲームの登場人物たちの場所がわかるように魔力を察知する能力をあげていたのだ。そもそもそういう察知する能力が低かったら、こそこそしている中で誰かが近づいてきても分からなかったりするだろうし。
こういう察知する能力が高いからこそ、魔法師団でも怪しい人間捕まえられたりしたわけだしね。ノノアンさんたちは私の言葉に訝しそうな表情をしている。先輩は私の言葉を否定はしない。何かしらヴァルから聞いているのかもしれない。
魔物のいる方へと向かう。
そうすれば、魔物の気配がどんどん大きくなっていく。
しばらくして引率の先輩も魔物の場所が分かったようだ。
「確かにいるな」
「はい。四体ほどいるようですが、どうしますか?」
「そうだな……お前たちで相手にしてみてくれ。難しそうなら加勢する」
そう言われてしまった。私はノノアンさんたちに向き合う。うーん、本当ノノアンさんって美人。こんなに綺麗な人を間近で真正面から見れるなんて眼福としか言いようがない。何度でも見つめていられる気がする。でもニヤニヤしたら不審者だから我慢する。
「ノノアンさん、どうしますか?」
「……どうしますか、とは?」
「一番攻撃力が高いのノノアンさんでしょ? 私は攻撃魔法はそんな得意じゃないですし、そもそもこの中で言ったらノノアンさんがリーダーに適切ですし」
私がそういえば、ノノアンさんは何か考えるような仕草をしてそれに頷いた。
私はリーダーなんて出来ない。そんな柄でもないし、そもそも基本モブな感じの私がリーダーなんて堂々とは出来ないって。リーダーをやるより後ろでこそこそしているのが性にあっているし。
「この二人の事は私が良く知っておりますが、貴方は…何が出来ますか」
「援護射撃は出来ますよ。がっつり私は後衛職です」
「……そう。では、私たちで魔物を引きつけるので貴方は後ろから援護してもらっていいかしら」
「はい、もちろん!」
「それで先ほど言っていた隠密の魔法が得意だという言葉確認させていただきますわ」
「はい!!」
わーい、ノノアンさんが私に歩み寄ろうとしてくれてる! それを思うと喜びで一杯になって、子供みたいに喜んだ声を出しそうになっていた。
ノノアンさんとこれを機に仲良くなれたら……美人さんに笑顔を向けられたりしたら凄い幸福な気持ちになれそう。
と、いけないいけない、こんなにも高揚して、テンションが上がったとしても魔物に集中しなければ。これで魔物に対して遅れを取ったら元も子もない。私が魔法師団にコネで入ったのではないというのをわかってもらうのだ。わかってもらって、そして仲間として認めてもらう。そんな最大級のチャンスが舞い込んできているのだから。
そして、近づいて分かった魔物の正体は兎のような姿をした魔物だ。大きい。鋭い角を持っていてあれに貫かれたら致命傷になりそうなほどだ。
ノノアンさんが彼らに向かっていく中で、私はその場に溶け込むための——私の存在を感じさせないための魔法を行使する。自分の存在を極端に薄くして、あの魔物たちにも、ノノアンさんたちにも私の場所が分からないほどに、薄く。幸い魔物たちの意識は直接的に攻撃をしかけているノノアンさんたちに集中している。そういう状況だからこそ、私の魔法はよく効果を発揮する。
隙を見て、魔法を飛ばす。
私、という存在を認識していなかった魔物はその魔法を食らう。魔物たちにとってみれば意識していない場所からの攻撃である。戸惑うのも当然である。相手を混乱に落とし込めれば、あとはこっちのものだ。ノノアンさんたちの攻撃、私の援護射撃。
それで魔物の命はすぐに散らされた。
やっぱり、何かの命を奪うというのは慣れないと改めて思った。




